第3話 気まずいけど帰ったら負け…な気が
撮り鉄の間ではいくつか『暗黙のルール』ってモノが存在する。その最たるのは『撮影地では先着者優先』ってやつ。後から来た撮影者は先着者の構図や場所の邪魔にならない様に撮影するってルール。ま、ルールと言うよりマナーと言う方が近いと思うけど、俺も何時もなら周りに注意したのだが今日は「撮影者は居ない」と思い込んでしまった。
俺は慌てて「すいません!」と言って女の子の後ろ側に廻り、鞄を置いて謝罪を口にする。
「すいませんでした。後ろ側に入れてもらっても良いですか?」
「私の邪魔にならなければどうぞっ!」
まぁ完全に俺の確認不足だから仕方ないけど、何か棘の有る言い方だな。
俺は鞄の中から折り畳み式の踏み台を取り出して組み立ててから上に乗って構図を考える。城南線が来た時は危険防止の為に台から降り、JLの列車が来ると台に乗って撮影する…これを一時間くらい繰り返していたのだが、二人しか居ない撮影地で全く会話は無し。雰囲気は非常に宜しく無いんだけど、先に帰ると何か負けた気がするんだよね。そのうちに4月半ばの陽射しは傾き、線路上に周りのビルの影が伸びて来て彼女が先に機材を片付けて直ぐに来た城南線の電車に乗り込んだ。そしてドアが閉まる直前、再び俺の方を見て睨んでから電車は発車して行った。
俺は大きなため息を吐くと「何だったんだ、あの子は。結構、可愛い顔だったけど二度も睨んだり棘の有る言い方したり…きっと性格は良くないんだろうな」そんな事を呟き、俺も機材と台を片付けて帰宅の途についたのだった。だが、この日の出来事が人生に於いて大きな転換点になる事を俺は知らなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
作者より
今回は短いエピソードになりましたが更新しておきます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます