第2話 出会?

家を出た俺は商店街を通り、10分程歩いて駅に着いた。改札口を抜けてホームに出ると「~♪電車が通過します、ご注意ください」と自動放送が流れた。家の最寄駅は普通電車しか停まらないので少しすると特急電車が轟音と共に通過して行った。それから3分もしないうちに今度は「~♪普通電車が到着します、点状ブロックの内側でお待ちください」との放送が流れて程なく普通電車が到着したので車内に入るとドアが閉まり発車した。こんな朝の通勤時間帯では座るのは不可能だが、普通電車なので押し合いへし合いって混雑は無くドア横に立って何と無く車窓を眺めて次駅に着くと他のドアから見知った二人が乗ってくるのが見えたが、此処では気付かないフリを決め込み15分程で学校の最寄駅に到着。駅から学校迄はまた10分程度の歩きだが途中で「翼、おはよう~」と肩をポンとたたくヤツ。


秋川あきがわ 晃一こういち、俺の数少ない友達で親友である。彼は俺と違って180cm近い高身長でスラッとした体型、銀縁の眼鏡を掛けて優等生を絵に描いた様な男だ。実際に成績は常に学年5位以内をキープし、容姿もいわゆるイケメンで女子生徒からの人気も高いのだが…運動だけは全くダメで体育の授業では悪い意味で目立ってしまう。そんな俺とは交わる事が無さそうな男だがある【共通の趣味】を通じて親友と呼べる仲になった。


「お、晃一か。おはよう」

「何だか朝から難しい顔して歩いてるな」

「そうか?週末の天気と出掛ける場所を考えていただけだよ。そう言えば聴いたぞ、今度は1年生から告られたって?」

「あっ、いやっ、その…誰に聴いた?」

「まぁ毎度の事だからいいか、秋絵だよ」

「あ~…相変わらず地獄耳だな、アイツは」

「で、どうするんだ?今回は」

「僕には恋愛ってよく解らないんだよなぁ」

こいつ、モテる割にはこの方面はポンコツと化すな。

「まぁ悪いとは思ったけど断ったよ。僕は僕のペースで考えるから」

「晃一がそう言うなら良いけどね」

「翼はどうなんだよ?」

「モブキャラの俺を好きになる物好きは居ないだろ?ま、俺でも想い人は居るけどね」

「……鈍感もここまでとは」

「???」


そんな会話をしながら歩いて行くと俺たちが通う学校、北川高校が見えてきた。校門を通り昇降口で上履きに履き替えて2年2組の教室へ入る。ウチのクラスは36人なんだけど、奇跡的に男子18人女子18人って組み合わせ。他のクラスはどちらかが1~2人多い構成で並びに色々と苦労が伴うと聞いたが、俺の席は窓側から3列目の前から3番目…こんなトコでも平均って言葉が頭を過る。「ふぅ」と一息ついて鞄を机に置き、椅子に座ろうとすると最後席の晃一が「翼!うし━━━」と言う間もなく俺は誰かにタックルされた。「ふへへへ、つー君おはよう」「不意打ちは止めろと言ってんだろうがっ!」


那須 秋絵あきえ、クラスメイトにして一応は幼馴染みの一人だ。身長は150cmちょっとの小柄でショートヘア、見た目通りスポーツ少女って感じで実際にあちこちの運動部から勧誘は少なくなかったと聴いたが、何故か彼女は全て断ったそうだ。彼女とは小学校6年間、二度のクラス替えを乗り越えてずっと同じクラスだったのだが、俺が中学校に進学するタイミングで引っ越したので学区域が別れて別々の中学校になった。が、まさかの同じ高校に通う事となって1年生の時から同じクラス、またもクラス替えを乗り越えて2年生でも同じクラスになるとは…しかもウチの学校は2→3年の時はクラス替えが無いので卒業まで一緒って「取り憑かれている」としか言えないレベルだ。


「つー君、照れてるの~?」

「ば~か、お前に照れるかっ!それにその呼び方は止めろっ!」

「こんな美少女が抱きついているのにつれないな~」

確かに秋絵は並の女子から比べれば可愛い方とは思うが…

「……先ずはその胸部装甲を認識しろ。俺は巨乳は遠慮したいが、ロリコンでも無いのでな」

「うわ~ん、つー君がいじめる!雪、何か言って」

「あ~、はいはい」

雪、白幡しらはた 雪子。彼女も秋絵と同じ経緯な幼馴染みだ。身長は女子としては平均かなと思うが、全体的に「おっとりとした」雰囲気で、こういう雰囲気で「母性的」「頼れる姉的」と幻想を抱く男子も居るんだけど…俺の中では「氷の女王」ってイメージしか無い。話易いと周りは話掛けるのだが、少しでも理屈に合わない事を言うと「正論」を駆使してニコニコとしながらバッサリと切って捨てる小学生時代のイメージが抜けないからだ。そんな雪子は俺の方を向きながら「翼クン、思った事をそのまま口にするのは如何かと?」

笑顔だが眼が笑っていない…怖い、怖すぎる。

「ワカリマシタ」と言うと秋絵と雪子は揃って「「よろしい!」」と言って各々の席に向かった。


さてHRが始まり担任から今日の予定や注意事項の話が有り、最後に「今日の5限と6限の国語ですが、担当の山口先生が急遽の出張の為に宿題を配布します。代わりに今日はウチのクラスだけ昼休みが終わったらHRをして終わりです」そう言われて朝のHRが終わった。教室の中は早く終わる喜びと宿題が有るって落胆が入り交じった雰囲気の中、淡々と午前中の授業は終わり昼休みを迎えた。


「翼~、飯食うか」と晃一が言うと二人で弁当箱を持って中庭に向かった。こういう陽気の時は外で食べる事も多い。

「翼はどうする?今日は」

「う~ん、予定外に早く終わるから足を伸ばして神川橋駅でも行こうかと。晃一は?」

「僕はパーツを買いに行こうと」

「じゃあ帰りは駅から逆方向か」

「早く終わって趣味の時間が増えるのはいいんだけどねぇ」

「そうだな、宿題も有るから早めに帰らないとな」

そう、俺たちの共通の趣味とは「鉄道」なのだ。とは言っても俺は写真撮影中心の撮り鉄、晃一は鉄道模型中心の模型鉄だ。お互いに中学の時は趣味の話をする相手が居なかったのだが高1の時、クラスでの自己紹介で同じ系統の趣味って分かり打ち解けた仲になった。


「さて、そろそろ教室へ行くか」と言って教室に戻ると直ぐに昼休み終了のチャイムが鳴り、程なく担任がやって来た。「はい、それでは国語の宿題を配りますね…全員に行き渡ったわね。提出は次の国語の授業です。提出しないと今日の午後は欠席扱いになるから気をつけて。それと他のクラスは授業中だから帰る時は静かに。では日直、号令を」「起立!礼!」「さようなら」


HRが終わると帰宅部の連中は速攻で昇降口へ向かい、部活の連中は「どうやって時間潰すかな…」なんて言いながら部室へと向かって行った。俺は晃一に「俺たちも行くか」と昇降口へ行き、靴を履き替えると秋絵と雪子が待っていた。


「つー君と晃一君、駅近くのカフェに行かない?新しいスイーツ食べたいんだけど」

「行かない。俺は撮影で晃一は模型屋で買い物だから」

すると秋絵さん、ジト眼で「え~?こんな美少女二人を振り切って鉄ですか?」なんて宣う。更に後ろから雪子が何か言いたげな視線を送って来るんだけど…怖いよ、雪子さん!が、ここで甘い顔すると後でロクな事が無いのは経験上で明白。俺は「じゃ、そういう事で。お先にな、晃一行こうか」と駅に向かった。後ろから雪子の「鈍感男!」って声がした気がするけど…ま、聞き違いだろ。


駅で晃一とは逆方向の電車なので「じゃあな」「また来週な」と言って別れ、途中でJL線に乗り換えて県境を越えてターミナル駅で降りて私鉄に再び乗り、一駅目で降りる。


城南電鉄神川橋駅。ここは城南線とJLが併走していて城南線だけに駅が存在するのだが、このホームからJL線の列車を撮影するのに好都合な場所だ。幸い、今日は電車待ちらしい高校生っぽい女の子が一人だけなのでさっそく我が愛機、ニ●ンF6を出して柵に寄りかかってファインダーを覗き構図を考えていたら…


「そこ、私の構図に入るんですけど!」


おかしいな、今日は他に撮影者は居ないハズと思って振り返ると…さっきの女の子が睨んでいた、カメラを手に携えて。




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