わたしは偉い騎士様になるの……

「それじゃ、デルフィ。あそこだ。あの変な形の岩のあるところを吹き飛ばしてくれ」


 イリスは先ほど指さした場所をもう一度指した。少し変わった岩がせり出しているのがちょうどいい目印になっていた。


「わかったの。フルパワーで行くの」

「まあお前の場合、フルパワーしかないんだけどな」


 イリスはそう言ってデルフィニウムの肩を叩いて彼女の後ろに下がった。デルフィニウムが精神を集中し始めると周囲のマナが吸い込まれていく。それはまるでデルフィニウムを中心に竜巻ができるのではと思えるほどの吸引だった。


 大気中のマナを取り込み、自分の魔力と混ぜ、そして想像力で発火する。


「はじけ飛ぶの!」

 デルフィニウムが言い終えるか終えないかというタイミングで前方、イリスが指さした場所が文字通り爆発した。


 その威力はイリスの想像以上で、爆風は周囲の木々を大きく揺らし、村人たちはその威力に恐れおののき、そしてイリスはここへ来た三日前と同じようにコロコロと転がっていった。


「いてててて……。ひでー目に遭った。あいつマジで加減しやがらねー」

 と言いつつも、デルフィニウムが魔法の威力を手加減出来ないことはイリスが最もよく知っていた。


 腰をさすりながらデルフィニウムがいた場所――彼女は魔力を使い果たして眠っている――まで戻ると、爆心地を中心とした砂煙が収まりつつあるところだった。

 前方に身を乗り出しながら妙にざわついている村人たちをかき分け、最前列にまでたどり着く。


 そこでイリスが見たものは――


「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ!」

 そこに広がっていたのは森の中にぽっかり空いた穴――と呼ぶにもおこがましい巨大なクレーターだった。


 左右はひと目で見渡せないほどの広さにまで木々がなぎ倒され、深さは底が見えないほど。そして手前方向も大きく地面が抉られており、最初に賛成してくれた彼の畑が半分ほど、穴に巻き込まれていた。


 それはさながら深淵アビスへの入り口だった。


 あともう少し爆発の規模が大きかったらと思うとぞっとする。

 村の周囲にできていた穴の大きさからデルフィニウムの今の魔法の力を見繕い、なおかつ十分なマージンを取って場所を指定したのだが……。


「あいつ、この五年でどんだけ強くなったんだよ」

 そう言って木の下に運び込まれて寝息を立てる仲間を見てぞっとした。


「むにゃむにゃ……わたしは偉い騎士様になるの……」

 当の本人だけが暢気に寝息を立てていた。

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