あそこにデカいのをぶっ放してくれ

「あそこだ。あそこにデカいのをぶっ放してくれ」

 その言葉に周囲に集まっていた村人たちがざわついた。


「い、今何とおっしゃいました、勇者どの? 村の近くで爆発を起こすと!?」

 慌てたのは村長だ。老齢の域にとうに達している村長は、曲がった腰を懸命に伸ばし、似たような背丈の幼女勇者に食ってかかった。

「ああ、そう言った」


「なりませぬ、なりませぬぞ、勇者どの! 村の近くで爆発など! 勇者どのはご存じないかもしれませんが、デルフィニウムはこの村に戻ってきてすぐの頃、村の近くで何度か爆発を起こして危うく村が吹き飛ぶところだったのですじゃ!」


 それによってデルフィニウムは村の近くでの攻撃魔法の行使を禁止され、代わりに遠方に向けて日々の練習として魔法を使うようになったのだ。


「ああ、見たぜ、村の周囲の大穴のことだろう?」

 イリスは村にやってくるとき、村の周囲に不自然に木が生えていない場所が何カ所かあることを知っていた。待機中の三日間のうちにそれを見て回ったので、それがデルフィニウムの魔法によって開けられた大穴だということもわかっていた。


「ならば、村の近くで爆発を起こすのが危険だということはおわかりでしょう?」

 なおも村長がイリスに詰め寄る。周囲の村人たちはそれらを遠巻きに見守っているだけで、積極的に反対はしようとしないようだが、賛成もしないように見える。


「いや、だからこそ大丈夫なんじゃねーの?」

「何ですと……?」


 イリスはぐるりと周囲を見渡し、何カ所かを指さした。

「あそこと、あそこと、あそこ。それからあそこも。どれも村からは近いが、村には被害は出てないんだろう? あんたさっき『危うく村が吹き飛ぶところだった』って言ったよな?」

「そ、それは言葉の綾で……」


 身長が狼狽えるのを確認して、イリスは畳みかけた。

「オレが示した場所は一番近い穴よりも遠くだ。それに万が一村に被害があったとしても、爆心地から一番近いのはこいつの家だ」

 言って、デルフィニウムを指さす。


「なのっ!?」

 イリスは肩をすくめた。


「何の問題もないだろ? オレもデルフィも今日、村を出て行くんだ」

「だ、だからといって……」

 村長もだいぶトーンダウンしてきたようだが、まだ引く様子はない。


(ここらで押しておくか)

 イリスは一見を案じた。


「じゃ、打つ手はないな。さっきも言ったが、オレ達は今日この村から出て行くんだ。今ここにいるのは親切心以外の何者でもないんだが、あんたらが反対するんじゃしょうがねーな」

 そう言ってその場から去ろうとした。


 すれた者が見ればあまりにも嘘くさい三文芝居だったが、この辺境野村の村人たちは純朴であった。


「な、なあ……村長さん……」

 村長に声をかけてきたのはこの村で最初にイリスに声をかけ、旅立とうとしているイリスたちをここまで連れてきた農夫の男性だった。


「他に何も打つ手立てがないんだし、どうだろう、試しに勇者さんの言ったとおりやってみるのもいいんじゃないか?」


「し、しかしだな……。私としては村の財産である畑に万一のことがあったりでもしたら……」

 村長はそう言いながらイリスとデルフィニウムの方をチラッ、チラッと見ている。


 村長としては余計なことをされては困るが、被害があっても困る。何か別案を提案してくれと言ったところなのだろう。

 しかしそんなにうまい話があるはずもない。


「この辺りの畑はおれの畑なんだ。このおれが言ってるんだからいいだろ?」

 どうやら、デルフィニウムが作った溝の左右に広がる畑はこの男性のものらしい。反対方向の畑でも種まきしていたから、この男性、結構な大地主なのかもしれない。


「む、むぅ……。お前がそういうのなら……」

 村長は渋々といった体で引いた。この老人、あくまで自分は反対したという実績が欲しいだけだったのかもしれない。


「と、いうわけだ。お願いしてもいいかな? みんなもそれでいいだろ?」

 男性はイリスに頼みつつ、周囲の村人たちにも同意を求めた。この男性の方がよほど村長らしいとイリスは思ったが口に出さないだけの分別は持っていた。


 男性の提案に村人たちは積極的に賛成したものはそれほど多くなかったが、表だって反対するものもいなかった。

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