皆まで言うななの
「そういうことだったの」
「ああ。オレは今、魔王リリム、吸血鬼ルーヴェンディウスと組んであのクソむかつく“神”を倒そうとしている」
朝食に焼いたパンと肉を食べながら、イリスはデルフィニウムにこれまでのいきさつを簡単に説明した。ジャムを塗ったパンが殊の外美味でイリスは時たまそれに夢中になり、話が時々逸れたのはご愛敬だ。
ちなみにこのジャムはデルフィニウムが作っているらしい。彼女は今、この村でジャム職人として生計を立てているとのことだった。
「それでだ、デルフィ。お前に折り入って頼みがあるんだが――」
イリスが本題を切り出したところでデルフィニウムは紅茶の入っていたカップをテーブルの上に置き、おもむろに立ち上がった。
「皆まで言うななの」
そう言って部屋の中に備え付けてあった箪笥から旅装束を取り出すデルフィニウム。
「わたしは勇者さんの仲間なの。勇者さんの頼みとあれば断れないの」
「デルフィ、お前……」
厳しい戦いになることがわかっていてもなお、一にも二にも勇者の仲間として協力してくれるデルフィニウムの姿にイリスの目頭は熱く――はならなかった。
「ってお前、何してるんだよ!?」
「何って、旅支度なの。旅にはこれが必要なの。うんしょ、うんしょ」
そう言って重そうに引きずり出しているのは鋼鉄製の全身鎧。イリスがデルフィニウムと初めて出会ったときに身につけていた鎧だ。
一日に一度しか魔法が使えないデルフィニウムは魔法使いとして大成することはできないから騎士になろうとこの鎧を着て旅していたところをイリスと出会い、仲間となった。
しかしこの鎧、重すぎてデルフィニウムが着ると一歩も動けなくなってしまうのだ。
それを解決するためにデルフィニウムは鎧に軽量化の魔法をかけるのだが、やはり一日に一回しか魔法が使えないのでまるで役には立たず、しまいには軽量化の魔法も切れて……という有様であった。
なんとかデルフィニウムを説得して鎧を置いていかせることに納得してもらったが、隣町へ行く馬車が出るのは三日後だということを村の者に聞かされ、しばらく滞在することとなったのだった。
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