勇者さんがいるの――っ!!
彼女、デルフィニウムはかつて第999勇者パーティーの一員として勇者イリスと行動をともにした魔法使いである。
第四次カールトン防衛戦やヴレダ要塞攻略戦など、勇者イリスが活躍した戦いでは必ず同行し、その類い希なる魔法の能力によってイリスの作戦を決定的な場面において支え続けた。
“神”が世界に降臨したとき、デルフィニウムはイリスの命によりヴレダ要塞に詰めていた。一方のイリスはメリアとともに王都へと戻っていた。
イリスは勇者の不在時に帝国軍が攻めてくることを警戒し、最大火力である彼女を守りの要に据えたのだ。
果たして、帝国軍はヴレダ要塞の前に現れたが、その後はイリスの想像を絶するものであった。
突如現れた“神”の軍勢が帝国軍を鎧袖一触の勢いで駆逐し、王都にいたはずのイリスは仲間のもとへと戻ってこなかった。
その後、“神”の直接統治が始まり、王国は解体され、それに伴い王国軍も解体され、デルフィニウム自由の身になった。
突然降って湧いた自由の身にデルフィニウムは困惑した。
勇者パーティーの一角を担っていた彼女だが、普通に魔法使いとして大成するとは自分でも思っていなかった。
彼女には魔法使いとして致命的ともいえるほどの欠点が存在したからなのである。
膨大な魔力により強大な魔法を使いこなすが、それを小出しにする術を知らず、体内の魔力をすべて一度の魔法で放出してしまうのだ。
結果、一度魔法を使ったデルフィニウムは魔力が一定量回復するまで延々と眠り続ける。
ちょうど今のように……。
「う……」
五年ぶりの再会はデルフィニウムが派手に魔法をぶっ放すところという、ある意味彼女らしい場面であった。五年経って見た目はすっかり大人の女性になっていたが、それ以外はあまり変わっていないらしい。
「気がついたか、デルフィ?」
一晩明けてベッドの上で目を覚ましたデルフィニウムの脇では、イリスがその様子をのぞき込んでいた。
村の外れで魔法をぶっ放して倒れたデルフィニウムだったが、彼女が生まれ故郷であるこの村に戻ってからの毎日の日課であったために村人はもう慣れっこで、村はずれに閃光が見えたらその日の『デルフィニウム当番』が駆けつけて彼女を自宅へ運ぶ手はずになっていた。
ちなみに彼女の家は魔法をぶっ放した村はずれから目と鼻の先である。デルフィニウムは毎日毎日家の前で同じ時間に同じ場所に向けて同じ魔法を打ち続けていたのだ。
「勇者さんの夢を見たの」
薄く目を開いたデルフィニウムがまだ半分寝ぼけたような声で言った。
「夢じゃねー。オレはここにいるぞ」
デルフィニウムはそう言うイリスの方を向いてその顔をしっかり見、そして――
「勇者さんがいるの。まだ夢の中なの」
そう言って再び瞳を閉じた。
「寝るな――っ!!」
イリスが叫ぶと、それで目が覚めたのか、デルフィニウムがぱっちりと目を見開き、飛び起きて叫んだ。
「勇者さんがいるの――っ!!」
「だからそう言ってるだろうが!」
ベッドの上のデルフィニウムは、ベッドの脇をまじまじと見つめた。
「でも五年経ってるのに勇者さんは小さいままなの。ゆっぱり夢なの?」
そう言われてイリスの顔は一気に渋くなった。
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