ファストトラベルはないのかよ
翌日、宿を出た二人は再びルーヴェンディウスの力で大陸を西に飛んで行った。
出発が昼前になってしまったのはお約束である。夜型吸血鬼のルーヴェンディウスはもちろん、疲労困憊のイリスも起きられるはずがなく、昼過ぎになって堪忍袋の緒が切れた宿の主人に追い出されたのが真相だ。
しかしそこからは順調だった。馬車で何日もかかる距離であったが、空を飛ぶことによってその日の夕方には目的地近くに到着した。
空を飛ぶとき、ルーヴェンディウスは周囲にバリアを張るようにしたくれたのでイリスのダメージと文句は幾分和らいでいた。
「あれが目的地か。本当にそなただけでよいのか?」
目的地の村が見下ろせるテーブルマウンテン状の丘にイリスを下ろし、ルーヴェンディウスが聞いた。
ここでルーヴェンディウスとイリスは別れ、それぞれの行動に移ることとなる。
「ああ。時間がない。行くべき場所はわかってるな?」
「うむ。東大陸の地理には疎いが、この地図があればどうにでもなろう」
ルーヴェンディウスは懐から取りだした地図を見ながら頷いた。イリスがこれまでに得た情報によって作成していた地図だ。これも五年間の成果といえる。
「では、次に会うのは聖都ペイントンじゃな」
「ああ。二八日後に会おう」
イリスとルーヴェンディウスはがっちり握手をした。傍目には夕刻になり家に帰るのを惜しんでいる子供にしか見えないが、この世界を支配する“神”を倒すための第一歩がここから始まるのだ。
「うむ。また会おう」
そう言ってルーヴェンディウスはここへ来たときと同じように腰にコウモリの羽根を生やして飛んで行った。
「さて、オレも行くか」
残されたイリスは村に続く下り坂をゆっくり歩いて行った。この五年間――いやそれ以前の日本時代からほとんど出歩くことはなかったので歩くのは苦手だ。「ファストトラベルはないのかよ」と益体もない愚痴を吐きながら小さな一歩を繰り返す。
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