オレって王国ではそれなりの立場だったんだぜ

「ところでおぬし、金は持っておるのか?」

 着地地点から数分飛んだところにあった小さな街に入ったところでルーヴェンディウスが聞いてきた。


「ん? あぁ。こう見えてもオレって王国ではそれなりの立場だったんだぜ」


 そう。この勇者、十歳児にしか見えないが、勇者として召喚される前は異世界日本で戦略ゲーム部門において多数のプレイヤーを指揮して世界チャンピオンに二度輝いたこともある戦略家なのだ。


 その戦略においてイリスは帝国軍の侵攻を防ぎ、何人たりとも攻略不可能とされた帝国の最前線基地『ヴレダ要塞』を無血で奪取したことにより、奪取後のヴレダ要塞最高司令官となったのだ。


 そこで戦力を拡充するために独自に軍備を拡張した結果、王と教皇から睨まれることになったわけだが、それはさておき。


「確かここに……」

 イリスがおもむろに地べたに腰を下ろして靴下を脱ぎ始めた。幸い日も暮れかかっており辺りに人はいなかったのだが、もしも昼日中であればさぞかし奇妙な目で見られていたことだろう。


「そなた、なにをやっておる?」

 ただ一人そこにいたルーヴェンディウスが奇妙な面持ちでそれを見ている。


「お、あったあった」

 イリスが脱いだ靴下を振ると、そこからチャリンと音を立てて数枚の銅貨が落ちてきた。


「昔、海外旅行に行ったときに、金はこういう風に隠しておけって言われたんだよ」

「ほう、なるほど……。弱い者なりの知恵ということじゃな」


 ルーヴェンディウスが顎をさする。この幼女、見た目は八歳のフリル過剰なドレスを着た幼女にしか見えないが、その実は世界でも片手の指に納まるほどの強さを持つヴァンパイアロードだ。


「弱いって言うなよ。その通りなんだけどさ。それよりも問題は……」

 靴下を穿きながらイリスは前に立つルーヴェンディウスを見上げた。


「なんじゃ? 何か問題でも?」

 靴下を穿いたイリスは立ち上がり、服についた砂をぱんぱんと払いのける。


「こーんなガキの二人組がやってきていきなり泊めてくれる宿なんて、あるんかね?」

「あぁ、それなら……」


 合点がいったと思える顔をしたかと思うと、ルーヴェンディウスはぽんと手を叩いた。

 その瞬間、白黒のドレスを身にまとった幼女を靄が取り囲み――


「わしは千年を生きる吸血鬼の始祖じゃぞ。それくらいどうということはないわい」

 イリスの正面にはそれまでの八歳幼女とは髪と目の色だけが同じの妙齢の美女が立っていた。どういうわけか幼女用に合わせてあったドレスも身体に合わせて大きくなっている。


 それを見たイリスはため息をついた。

「お前なぁ……。そういうことができるなら最初からすればいいじゃんかよ」


「嫌じゃ嫌じゃ! わしはかわいいのがいいんじゃ!」

 いい年をした(ように見える)大人が地団駄を踏む様子にはさしものイリスもドン引きである。


「お前、やっぱ中身は子供じゃねーか」

「なんじゃと!?」

「なんでもねーよ。さ、宿に行くぞ」


 その日、二人は巡礼中の親子という設定にして無事(?)この街の宿に泊まることができたのであった。

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