クソやかましい積み荷には相応しいだろ?
「ぜぇ、ぜぇ……。死ぬかと思ったぜ」
イリスが視座に手を当ててぜえぜえ言いながら時折えずいている。相当苦しかったことは火を見るより明らかだ。
「文字通り命綱を握ってるわしに対し、あれだけ悪態をついた癖によく言うわ」
それから数時間後、日も暮れようとしている時間帯になりようやくイリスは大地を己の脚で踏みしめることができた。
イリスの背後では絶壁に押し寄せる波が白いしぶきを上げている。まるでドラマのクライマックスみたいだなと異世界から召喚された勇者は思った。
「少し休んでから行くぞ」
海を越えたにもかかわらず全く疲れた様子を見せないルーヴェンディウスに、青い顔のイリスは慌てて手を振った。
「いや待てって。さすがにこれから大陸の西の果てまで飛ぶのは無理だろ。もう日も暮れるって」
それに対してルーヴェンディウスは頭上に「?」を浮かべている。
「何を言っておる。わしは吸血鬼じゃぞ。夜こそ本領発揮じゃろうが」
イリスはうんざりしたような顔になった。
「そうだった……。じゃあ前言撤回。オレがもう限界なんだよ」
その言葉にルーヴェンディウスは呆れたように腰に手をやりため息をついた。
「ただ運ばれただけではないか。いちいち注文の多い積み荷じゃのぅ」
「悪かったな。体力のなさには自信があるんだよ。こう見えて頭脳派なんでな」
勇者イリス。異世界から召喚された勇者だが、その見た目同様、体力も十歳児相当である。
「仕方ないのぉ。ならばどうする?」
「この辺のどっか適当な街で宿を取ろう。あんたならひとっ飛びで連れて行けるだろう?」
「やれやれ……。このヴァンパイアロードを馬車がわりにするとは」
「クソやかましい積み荷には相応しいだろ?」
イリスの軽口にルーヴェンディウスは肩をすくませた。
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