あんた、オレ達を戦わせて楽しんでねーか?
「あんた、オレ達を戦わせて楽しんでねーか?」
「むろん、そうじゃが? 神というのは存外ヒマでの。これくらいせんとヒマをつぶせんのじゃ」
幼女がこの家のかつての持ち主である老人に投げかけた言葉に対する返答。
それこそがこの世界における戦いの歴史、そして現在もなお続く殺し合いの状況に対する根本的な原因だった。
神は人びとが争う様を見て楽しんでいる。
この部屋に置かれている『闘争』を映し出すテレビこそがその証拠といえた。また、幼女自身がそれを体現する存在といえた。
気がつけばテレビが動作を終了していた。戦いが一段落したと判断したのだろう。
見ることができるだけで何の影響も及ぼすことができない。イリスはそんなテレビにすっかり飽き飽きしていた。とはいえ、今起こっている出来事のいくらかは自分に責任がある。そう考えるとテレビを見ることを辞めることができない。
「…………メシでも食うか」
日本にいた頃は夕方に起き、一日一食なんて日も多かったが、今ではすっかり早起きと朝昼晩の三食の生活が身に染みついている。ある意味健康的だ。
幼女が立ち上がり、貯蔵庫に向かおうとしたその時である。
ゴトン。
何かが小屋に当たった音がした。
幼女は鋭い目で音の方を見た。見た目の年齢にそぐわぬ鋭さで天井を見る。
天井に何かがぶつかる。この五年で一度もないことだ。そして、あり得ないことだった。
この小屋の周囲には屋根の上に実を落とすような木々は存在しない。少し離れた所に森があるが、家の周囲は手入れをしなくても美しく整っている庭があるだけだ。
また、何かを投げるような存在もない。この絶海の孤島は植物が豊かだが、幼女以外の動物は存在しなかった。
幼女は小屋から外に出て――外に出るのは何日ぶりだったろうか――慎重に音のした方へと歩いて行った。
と言っても小さな小屋だ。音のした場所付近にはすぐにたどり着いた。
上を向いて屋根を見る。特に異常は見当たらない。
視線を下に動かしていく。幼女の足元に小さな黒い影がじたばたと蠢いていた。
「なんだ、コウモリかよ……。ビビって損したぜ」
幼女はそう呟いた。そして呟いたあとでその重要性に気がついた。
「コウモリ? 何でコウモリがいるんだよ!?」
数歩後ずさった。そうしている間にも目の前の小さな羽を持つ生物から目を離さない。
幼女はよく知っていた。この世界に空を飛ぶ生物は存在しない。それを逆手にとって敵要塞が無人であることを看過し、奪取した経験があるからだ。
『コウモリの存在を知っておるとは、そなたが勇者イリスか』
コウモリから声が聞こえた。その瞬間、コウモリの身体が黒い靄に包まれた。
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