飽きもしねーでよくやるよ
「アトラス! 覚エテロ! コノ裏切リ者!」
両手で掴めるくらいの大きさの箱に埋められた瓶の底に、そのオーガの顔が映し出されていた。内蔵されるスピーカーの質は悪く、こもった音しか聞こえないが、何を言っているのかは聞き取れる。
やがて瓶の底に映し出される映像は逃げおおせるワータイガーたちの姿に切り替わっていた。朋友の一人を失った彼らであったが、気落ちしてはいなかった。すぐさま次の計画に向けて動き始めていたのだ。そこには彼らの『主』との深い絆があった。
そう。かつての自分と仲間たちのように――
「しっかしこいつら、飽きもしねーでよくやるよ」
幼女はテレビを見て思いとは全く逆の言葉を呟いた。
そう、これはテレビだ。しかも幼女が生まれるよりも遙か昔、父母でさえ見たことがないであろう時代のものだ。
ただのテレビではない。当然だ。剣と魔法の世界であるこの世界にはテレビもテレビ局も、それどころか電気すら存在しない。
このテレビは普通ではなかった。
テレビの存在そのものが普通でないことはもちろんだが、このテレビはそれを差し引いても普通ではなかった。
このテレビには電源がない。チャンネルもない。
ある条件が整うと自動で動き出し、条件に合ったものを映し出すのだ。
その条件とは『闘争』。
どういう仕組みかは不明だが、世界のどこかで闘争が起こるとこのテレビは自動的に動き出し、その様子を映し出す。それ以外の起動条件はないし、それ以外の事柄を映し出すこともない。
おかげで幼女はここに暮らし始めてからの五年間、世界の闘争についての情報に事欠かなかった。
世界は神によって支配されているが決して闘争がなくなることはなく、むしろ毎日どこかで
今日映し出されたオーガのヴェーテルとワータイガーのグロムなどはこのテレビの常連出演者で、月に一度は東大陸のどこかで『信者』や『神の僕』に対し、戦いを挑んでいた。
「次会ッタ時ガ貴様の命日ダ!」
オーガのヴェーテルが叫んでいるのを質の悪いスピーカー越しに聞く。
テレビの前で仰向けに足を組んで寝転んた。目の前に木造の天井が広がっている。
幼女はここで五年間ひとりで暮らしていた。来たときは一人ではなかったのだが、今は一人だ。その間、誰とも会っていないし、誰とも話していない。
ここは絶海の孤島だからだ。
どういうわけか地下の貯蔵庫には無限に食料や衣服、その他の生活必需品が沸いて出てくるので生きるには困らない。
しかしそれだけだ。
『人はパンのみにて生くるものに非ず』というが、今の幼女はまさにそういった状況だった。
絶海の孤島にいながら、幼女はおそらく世界一、この世界の状況について詳しく、客観的に理解していると自負していた。
それもそのはずだ。世界がこうなる直接の原因を目の当たりにしたからだ。
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