第38話 真相
気持ちが悪い。
A・Z11という番号の振られたファイルの中身を読んだマーサの正直な感想はそれだった。
「あいつ、よくもまあ、こんなのに……」
記述の内容は殆ど理解できなかったがファイルの中身は、おぞましいほどの人体実験の記録だった。しかも、領主令嬢であるアンナ・ザハリアスへの。よく見るとA・Z1とか、A・Z35とかまである。一体、どれほど長い間、親友が
「狂ってやがる」
平均して、どのファイルもナンバーが十番台後半、進んでいても二十番台前半なのに対し、アンナのものだけが三十番台後半に突入していた。さっき読んだ11のファイルの時のアンナの年齢は僅か六歳だ。という事はアンナの実験開始は相当早い時期になる。あるいは、間隔を空けずに次々とこなさせていったか。どちらにせよ、反吐が出そうなるほど胸糞悪い話だ。
「それで、あんなに理想的な領主の娘を演じきれたのか」
多分、アンナにはかなりの英才教育が施されていたのだろう。それも、魔法や戦闘に関係する分野に限って。演習で鬼神のごとき活躍をしながらも貴族の鼻に付く傲りが全くと言っていいほどなかったのは貴族としてのありようを全く教育されていなかったからなのだろう。そして、様々な条件下において与えられた課題を粛々と遂行するというのはアンナにとっては当たり前のことで、理想的な領主令嬢を演じきれ、と言われたら完璧——結果に、ほころびが出ない程度——に演じ切ることなどすごくたやすい事だったのだろう。そして、時折友人に見せた子供っぽい執着心やいたずら心こそが本当の姿だったのだろう。
そう考えると、今回の魔法図書館の司書を受けたの納得がいく。アンナにとって父親の支持を退けるというのは幼い頃からの慣習で全くあり得ない事だったのだろう。だから、火中の栗を拾いに行ったのだ。明らかな、厄ネタだと理解できたとしても。逃げるなんてことは想像の他にあって——
「あら、お客さんですか?」
後ろから、のんびりとした女の声が聞こえた。
魔法図書館司書の溜息 @Susukinohara2024
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