第37話 目的

 気が向いたら行く、とカトリーナに返事をするとスケジュールが開いているのは4日後だけだと言う。気が向いたら四日後に行く、と言い直すと渋るような口調で承諾して帰った。よっぽど私の体が心配らしい。悪い気はしないが。


「あの、先ほどの方は何の御用でいらっしゃったのでしょうか」

「ん?いや、余ってる書庫をしばらく貸して欲しいって」

「なるほど……」


責任は取らなくていいそうだから、と付け加えるとマリアはびっくりしていた。本当に場所だけ欲しかったんですね、とマリアは目をぱちぱちさせていた。


「まあ、しばらくの間領軍のごつい連中がうろつくから覚悟しておいてね」

「わかりました」


マリアはとりあえず一安心、といった様子で仕事に戻った。対する私はというと仕事どころではなくなってしまっていた。

 おそらく、父上が魔法図書館の設置を決めたのは情報戦隊の拠点を隠蔽するための迷彩塗料として利用するためだろう。だからあえて都市の中、それも土地の不足している旧街区に建てたのだ。在野の魔法使い向けの設備として。これならば、不特定多数の人間が出入りしていたとしても誰も怪しまない。そして、予科の図書室程度の冊数でありながら肝いりの施設に見せかける為に私を頭に据えた。つまり、父は私のアンナ・ザハリアス領主の娘という肩書をこれ以上なく利用したのだ。そして、私は、父の領地運営の最もアングラな部分を担ったことがある。だから、父の治世で身うち以外に見られてはいけない部分はどこかについても知っている。多分、一族の中では誰よりも見ているし、知らされているし、担っていたからだ。それ故に、王都仕官組以外の血族からねたまれていた。実際、影の後継者と呼ばれて恐れられていた事もある。まあ、領校入学後の少しの間だが。

 なんにしても、フロントの運営を任せてもらえるだけの信は残っていたのだ。そのことに私は安堵しつつ、他の親族に対してどこか、暗い優越感を覚えた。

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