第35話 地下迷宮と魔力
何これ。
それが、全身に魔力を帯びた風を受けたマーサの感想だった。地下迷宮と魔力はイコールの関係にはない。もちろん、魔力が溜まりやすい場所も存在するが、大抵多くの魔力がある地脈の近くにあるものが大半だ。しかし、ザハリアス領にはそういった有効な地脈が存在しない。少なくとも、私が領校の学生だった頃まではそのような認識であるものが大半だった。ザハリアス領には強力な魔物が存在しない事も、その説に信憑性を与えていた。
もちろん、地脈のようなパワースポット以外にも魔力が溜まりやすい場所というのは存在する。例えば、強力な魔物の巣穴とか、並外れて強力な魔道具が設置されている密閉空間とか。大抵、後者の方は魔力に引き寄せられた魔物がセットで付いてくるので冒険者にとって二度おいしい探索対象となって居る。まあ、攻略できるだけの実力を持っている冒険者にとっては、という但し書きが付くことになるが。
それはともかく。
ここは後者の方だと見当づけた。魔物が住み着いたならばここまで綺麗な状態は維持されないからだ。
「……一人で持ち出せるタイプの魔道具だと良いんだが」
並外れて強力な魔道具というものは魔力に比例してサイズも大きくなるものだ。そういう場合は全体の回収を諦めてもっとも多くの魔力を含むコアだけ持ち出される事になる。実際、コアが抜かれた状態で発掘される魔道具も少なくない。それでも、金属のパーツがあれば魔法剣などの原料に使えるので高価格で取引されるのだが……。
まあ、今回は発見の証拠となる物を持って行けばいいんだから、難しく考える必要はない。最悪、さっきの部屋にあった本を持って行けばいいだろう。
警戒しながら扉を越えて向こう側に出ると、一本の通路に繋がっていた。通路の壁には一定間隔でドアが取り付けられていたが、いずれも簡素なもので先程の豪勢な扉と比べると非常に貧相な感じがする。
扉の中は気になったが改めることはしなかった。それよりも、この魔力の源にたどり着きたかったのだ。
廊下を奥へ奥へと進んでいくと先ほど見かけような鉄扉に出くわした。鉄扉はなんてことはない普通の錬金鋼であったが、扉の向こうからとんでもない魔力の気配を感じる。多分、この扉の先に強力な魔道具が設置されているのだろう。
「まあ、さっきと同じ手順だよな」
先ほどの鉄扉を思い出しながら作業を進めるとあっさりと開いた。ただ先ほどの倍近く——体感でだが——重い。きっと、重要なものが隠されているに相違ない。
文字通り重厚な鉄扉を越えた向こう側には大きな空間があり、まるで劇場に繋がるロビーのような風采である。中央が吹き抜けになった螺旋階段がまるで己が空間の主であるかのような存在感を閉め居ていた。ちょうど、その吹き抜けから魔力が出てきているようである。
「……なんというか、ちょっとしたお城だなこりゃ」
恐る恐る階段を下りていくと鎖で固められた鉄扉を見つけた。きっと、更に下に降りるための物だろう。だが、先ほどまでの扉とは違い鎖でがっちり固められているので開けるのは難しい。鎖もかなり太いものが使用されているので手持ちの道具で破るのは不可能だ。
とりあえず、扉の向こうを見ることは諦め、手に届く範囲で探索を続けることにする。扉を大きく右に迂回して進むと二十人は座れそうな大机と三十を超える書棚を発見した。まるで図書館の一角のようだ。
本棚の方に近づくとびっしりと本が詰まっているのが分かる。本にタイトルは付されておらずただ、アルファベットと数字のみが添付されている。どうせだし中身も読んでみようとA・Z11という番号が振られている本を手に取った。
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