第34話 地底探索

 魔導ランタンをかざして壁面の状態を観察すると表面は真っ白な漆喰で塗り固められている。表面を触ると砂が落ちてこない。漆喰には強度を上げるために砂が混ぜられているので触るとぽろぽろ落ちて来るのにこの壁には砂なしの物が使われているようだ。珍しい。入って来た穴は通路の真ん中の所に開いていたようで、左右どちらにも広がっている。魔導ランタンの弱い光では通路の向こうに何があるのかはさっぱり分からない。


「……思ったよりも状態の良い施設だな」


埋まって、外部と隔離されていたからかもしれない。

 薄く埃が積もった漆喰の床をブーツで踏んで左の方に進んだ。あたしは迷宮探索の時には、左か右かのどちらかだけに曲がるようにしている。そうすれば帰りに来た時と反対の方に曲がればいいので迷わないですむからだ。


閑話休題


 植物の根に崩された一角を除いて、建造物の仲はおおむね綺麗な状態である。少なくとも、長期間放置されて魔物が住み着いたような地下迷宮とは違う。どちらかというと大邸宅のしばらく使われていない部屋のような感じだ。先ほど入って来た穴の開いた部分の枯れ果てた遺跡のような印象とは、全く異なっている。


「……全く、気味が悪い」


通路を突当りまで進んだが燭台も何も見当たらない。ただ、真っ白な漆喰で覆われた床や壁、それに天井が続くだけだ。唯一見つけたものがあるとすれば突当りの右手にあった鉄の扉だけである。まあ、左曲がりの原則はこの際忘れても差し支えないだろう。右にしか行けないんだし。

 表面を赤く染められている鉄扉にはドアノブのような器具は取り付けられておらず、替わりに舵輪のような金属製の部品が取り付けてあった。これを回して開ければいいのだろうか?舵輪のようなパーツの周囲には矢印が描かれており何らかの文字と共にそれぞれ別の方向を指している。取り合えず、魔導ランタンを床に置いて、左に回してみることにした。


「……回らない」


どうやら右に回さねばならなかったようだ。


 金具の右側に張り出しているパーツを下に向かって押すと金属の擦れる音がしてゆっくりと回った。ギョッとしたが気にせず九十度ほど一気に回す。廊下の向こうに魔物が居たら危なかったかもしれない。

 半分ぐらい回した所で金具のかみ合いが外れて、マーサの居る通路側に扉が開いた。すると、ある種の嗅ぎなれた匂い――カビの匂い――のする空気が流れ込んで来る。急に普通の地下迷宮のような印象を受けた。ひょっとすると、この通路部分は後から付け足されたものかもしれない。


「……まるで図書館みたいだ」


扉の向こうには大量の書類が保管されていた。どれもこれも状態が良く、まるで昨日棚にしまいましたと言わんばかりである。魔道具の中には収納した物品の品質を保つ機能を持つものもあると聞いた事があるのでその類の魔道具が仕込まれているのかもしれない。領校に持って行けば報奨金ぐらいは貰えるだろう。普通、こういった探索での拾得物は冒険者ギルドで買い取りをされるが、冒険者ギルドが取り扱うのは魔物の臓腑とか、強力な魔導書とかそういった品ばかりで古文書は対象外だ。冒険者ギルドのお偉いさんも元は冒険者だから古文書とかの価値を今一つ理解できていないようである。まあ、致し方ないと言えば致し方ない。だから、そういったものを適正に評価し、役立てるために領校が受け渡し先となって居るのだ。その事へ対する評価はさておき。

 重厚な木製本棚の森をぬけると金色の装飾が施された扉を見つけた。木扉は羽振りの良い商人の家のそれの様であり、いかに自分が良い品であるかをアピールしている。先ほどの頑丈さのみが取り柄の扉とは大違いだ。

 一応、トラップを気にして調べてみたが中から見える範囲には存在しない。鍵も取り付けてあるようだが、内側からなら簡単に開く。さっきの通路は書庫同士を連結するためのものだったのかもしれない。

 開錠して、ノブを引くと扉は抵抗なく開いた。開いた瞬間、部屋の外から魔力を帯びた空気が流れ込んできた。どうやら、この扉には対魔力シールドが施されて魔力が通れないようになっていたようである。

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