第33話
偶然見つけた洞穴は存外広がりがあった。入り口の周辺の空間の奥には更に別の洞窟が広がっている。ひょっとするとダンジョンとかその類かもしれない。
「何にしても、スカウトの職業意識をくすぐってくれる」
どちらにしても手ぶらでは帰れないのだ。ちょうどいい所に拾い物が転がって来た、と舌なめずりをしながら魔導ランプで周囲を照らす。どうも奥の空間は壁がレンガかなんかで人工的に作られているような感じがする。当たりだ。
「……一応、それっぽい気配はないか」
この手の地下構造物の中には魔物が住み着いたりするものだが、そういう気配はない。多分、入り口も埋まっているのだろう。この穴は、大木の根が地下構造物の屋根を崩したとかそういったところだろう。何にせよ、手ぶらで――勿論、比喩的な意味で――帰れば物理的に首が飛びかねない私にとってはありがたい話だ。
「まあ、生き埋めにはなりゃあしないよな」
威力の高い爆発系の装備は穴の外に置いて行った方が良いのだろうか。まあ、屋外近距離用ばかりだから大丈夫だろう。多分。
「よっと」
まずは、洞穴の中に頭だけ突っ込んで足下の様子を確認する。崩れた建材が散らばってはいるが降りられない感じではない。頭を穴から引き抜いて足から降りられるように姿勢を変える。その後、ゆっくりと体を地下に送り込む。背中が穴の向こうに入ったタイミングで重力に引かれて一気に引きずり込まれた。
「まあ、及第点かな・・・・・・・・?」
穴は私の背よりもやや高いが、床に散らばった建材を積み上げれば地上に戻れるだろう。それよりも、成果を得なければならない。最近、偵察員としての成果が乏しかったので今回のミスが打ち首につながりかねないのだ。偵察員には領主令嬢の友人であることは何の免罪符にもならないし、それを政治的に活用しようとすれば、内務保安委員に粛正されてしまうだろう。ある意味、フェアな職場と言えなくもないし、正直、貴族とか商人とかの縁故づく、賄賂づくの仕事には辟易としていたからこういう縁故の通じない職場というのは居心地が良い。が、何事も限度はあるし、不満もある。上司たちの常に私たちを疑うスタンスも不愉快だ。かと言って、改善を求めることもできない。上司曰く「偵察員の仕事には疑われる事も含まれる」からだ。初めてそれを聞いた時はなんだそれ、と思ったが黙って雇用契約書と服務宣誓書にサインをしてしまった。今となっては後悔しているが……いや、こんな話はどうでも良い。いくら今周囲に脅威を感じないからといって関係のない考え事をするのはスカウト――斥候職としてはあり得ない事だ。私は気を引き締めてこの建造物内の事に意識を集中させた。
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