蠢動
第27話 マーサの受難
これでは密談をしに行く、というよりは夜逃げするような雰囲気だ、とマーサは思った。くたびれたローブと汚れたブーツがより悲惨な気分にさせる。
「いっそ、新品でくりゃ良かった」
と、嘆けども時はすでに遅い。ローブや革靴を買いに街に戻っていたらクライアントとの会談に遅れてしまう。何にしても厄介な事だ。アンナには
「本当に、どうして受けちまったかねぇ……」
思えば、アンナは昔からいいやつ過ぎた。領校に居る間はアンナは極めて上品であるように振る舞い、少なくとも領校の同期や先輩、後輩にあれが将来領主になったとしても十分に信頼できると確信できる聖母のごとき振る舞いをしていた。かなり、意識的に振舞ってはいたようなのでストレスになっているのではないかと心配していたのは秘密だ。息抜きの仕方はどこで覚えたのか知っているようだったので完全に杞憂だったし。とにかく、型にはめたような判断しかできない奴ではなかった。なのに、今あいつは火中の栗を拾おうとしている。あの様子では親父に命じられたのかもしれないがそれでもあいつなら上手い事断る方法はあったはずだ。アンナの考えが全く読めなかった。
物思いに耽りながら歩みを進めていると、ヒュン、と風切り音がして石がすこし離れた草むらに落ちた。続けて、二個、三個、と飛んできた。何だか、私の方に寄ってきているようである。不思議に思って石が飛んできた方向を見るとゴブリンがいた。
「!!!!!!」
慌てて周囲を見回すと、私はゴブリンに囲まれていた。
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