第24話 虚飾
不明図書の術式に関するレポートを書き上げた私は、司書席のそばにあった封筒に紙束——表紙と本文の二枚しかないが——を収めて書類棚に放り込んだ。本来、私が作成すべき書類は多々あるはずなのだが領校や冒険者ギルド、それに総督府の三者による政治的闘争の影響で全部この三者が処理してくれるそうではないか。事なかれ主義の私と知っては大歓迎である。しかし、業務日程についてほぼ知らないというのもあれなものだ。……マリアに聞いておくべきかしらん。だが、マリアは何か書き物をしている。何かは知らないが、一生懸命作業しているのにわざわざ呼びつけるのもかわいそうだ。どうしようか。図書館の中を一人で回ってみようか。司書が勝手にほっつき歩いていたら問題だろうが、今は利用者もおらず、他に仕事もないようだ。少し席を立つ分には問題ないだろう。
「マリア」
「何でしょうか?」
「書架の方を見てくるから。少しすれば戻るからそのまま続けていて」
「わかりました」
私は律儀に顔を上げて対応したマリアに謝意を示しつつ司書席を離れて、閲覧室の方に向かった。
閲覧室の調度は装飾過多に思えるほど優美な物になっている。多分、冒険者ギルドのお偉方の趣味だろう。あるいは、総督府と領校相手に見えを張ったか。まあ、そのどちらであっても構わないのだが。
「それにしてもこの落差は……」
閲覧室や事務室など、人の目に触れやすい場所から離れると内装のグレードが一気に落ちる。カーペットは敷かれず、ドアの蝶番がきしみ、壁は蝋燭の煤で汚れているという有様だった。いや、ここら辺はレストアどころか手入れすらされていない。こぎれいに纏まっているのは事務室と書庫、閲覧室周辺だけだ。
途中でお金が足りなくなったのだろーか。
クラスⅢA以上の魔導書も購入しているということなので中身は問題ないのだが、容れ物にももう少し気を使っても良かったと思う。そうすれば、ここら辺も商談のできる部屋とか、物置とかで貸せたかもしれないのに。そう思いながら土埃で汚れた窓を開けて外気を取り込んだ。
「痛っ」
窓は把手を掴んで外に開く造りになっている。押し開いた拍子に針の様になっていた窓枠のささくれが指先に刺さってしまっていた。そこそこ深くまで刺さってしまっているが”針の様”になっていたおかげで木片が完全に指の中に入ってしまわずに後端が皮膚の外から掴める程度には露出している。
「まったく……」
私は毒づきながら指の先で木片を掴んで一息に引き抜く。木片は抵抗なく私の指から抜けた。途中で折れたりして破片が体の中に残らなかったのは良かったが傷口からは血があふれてくる。思ったよりも深くに入っていたようで出血の量が多い。
「まいったわねぇ……」
右手の人差し指を伝って私の赤い血が床を汚した。
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