第14話 酒宴
夕食を終え、部屋に戻ると何故かマーサも私について部屋に入って来た。
「……そう言えば、貴方どこに住んでいるの?」
「あたしは冒険者だぞ。宿屋とかでその日暮らしよ」
「そう」
私はそれ以上聞かずに彼女を部屋に招き入れた。マーサは少し不思議そうな顔をしている。
「どうしたの?」
「いや、てっきり嫌がられるかと思って」
「なんで?」
私が訊くと、マーサはそりゃ、お前領校は学生同士は平等という建前があったし……、とか言う。この宿で一番高い料理を奢らせといて何をいまさら。
「公の場じゃないし気にしなくていいわ。私も昔なじみの前でぐらいは肩の力を抜きたいし」
「そうかい。そう言ってくれるとうれしいねぇ」
彼女は何かを堪える様な表情をしながらテーブルセットの椅子に座った。何だろう、お腹でも痛いんだろうか。
「どうせだし二人きりで飲みなおさない?せっかく、あったのに他の人の話ばかりだったし」
「ん?でもあたしはさっきエールを飲んじまったぞ」
エールならもういいという視線に私は首を振ってトランクから透明なガラス瓶を取り出した。出る前にお父様のワインセラーからくすねてきたのだ。
「おま、それ」
「キルシュワッサーよ。飲んでみたいって言ってだしょ」
調度良かったわ、と言って部屋に置いてあったグラスに注いで彼女に渡す。キルシュワッサーはサクランボの蒸留酒でブランデーの一種だ。基本的にストレートでは飲まないが食後酒としてなら別。そういう意味でも調度良かった。
「悪いな」
「気にしないで」
学生時代にさんざん迷惑を掛けたのだ。少し高めの酒を融通するぐらいしても罰は当たらないだろう。私もテーブルの対面につく。
「じゃ、再会を祝って」
「再会を祝って」
彼女が音頭を取ってグラスを打ち合わせて一息に中身を飲み干した。私は空になったグラスに酒を注ぎ、彼女に瓶を渡しす。すると向こうも遠慮なくグラスに酒を注いでいる。まあ、一晩で飲み切ることは無いだろうが次は足りぐるしいかもしれない。
「にしても久しぶりだな。お前が王都に上って五年、いやもう六年になるんだったか。お前さん、何をしていたんだい」
「司書の勉強とか、魔法の勉強とかを色々と。ま、結構忙しくしていたわよ」
「そうかい。ま、あんたなら王都でも務まっただろうな」
「あら、ありがとう」
私は甘い香りのする酒を一息に飲んだ。度数の高い酒だからグビグビと飲むべきではないが、雰囲気に当てられて飲んでしまう。
「大丈夫かよ」
マーサが心配そうに訊いてくる。
「大丈夫よ」
二日酔いは覚悟の上だった。
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