第13話 夕食

 彼女が〈リリー・ブリューメ〉で最も高価な料理を対価として要求した情報は、私にとってそれ以上の価値を持っていた。だが、その価値ある情報を元に私が行動を起こすかどうかはまた別の話である。


「して、どうするんだ。探さないのか?」


一息にエールを呷ったマーサが私に訊いてきた。


「探してどうするのよ。あの子が私に会いたがっているとは限らないでしょう?」

「随分と慎重なこった」

「……貴方が大胆過ぎるのよ。スカウトの癖に」

「仕事と私の関係は別だよ。あれがスピカ・ラングレー護衛対象のお嬢とかならもう少し考えるがね」

「…………」


沈黙した私を気遣ってか、マーサは、


「あいつの気持ちなんてあいつにだってわかるまいよ。状況が混とんとしてくればな。そして、あんたも、あんた自身の気持ちは分からない。違うかい?」


と言った。私はこの問いに何て答えたら良いのか分からなくて、口ごもってしまった。マーサの言葉は的を射ていたが、認めたくない自分も確かにいたのだ。


「お待ちどお様……あら、どうしたねお二人さん。暗い顔して」


間が良いのか悪いのか、そこにマスターが料理を運んできた。


「いえ、特には何も」


私は胡麻化して頼んでいたスープとパンを受け取った。ザウアークラフトとはキャベツの塩漬けであり、酸味が特徴である。また、アイスバインは豚すね肉の塩漬けを煮込んだものを何種類かの付け合わせと共に食べる料理である。〈リリー・ブリューメ〉のそれは非常にボリュームがあり、冒険者に喜ばれている。


「お、うまそうだな。ん、呼ばれよ、よばれよ」


マーサがナイフとフォークで豚肉をつつき始めた。私も、スープを口に運ぶ。スープの酸味が食欲をそそる。かつてと変わらない味に私は安堵した。


 食事がひと段落した頃、マーサが再び口を開いた。


「それで、何で今日はシモンに居たんだ?私はてっきりスピカ・ラングレー昔の女を探しにきたのかと思ったがどうも違うようじゃないか」

「仕事よ。魔法図書館の司書になったの。いえ、ならされた、かしら?」


どっちだと思う?と訊くと知らねえよ、と言われた。むぅ、ちょっと冷たいじゃない。昔はもっと優しかったのに。


「ああ、あそこか。一時、町中で揉めてたからな。良く知っているぜ」

「……マリアからあらましを聞いては居たけどそんなに揉めてたの?」


揉めてたなんてもんじゃねえよ、アンナ、とマーサは言った。


「色街の強制引っ越しの時なんて目も当てられなかったぜ。なんせ百人近くがお縄になって更生院に送られたっていうからな」

「……今はどうなの。やっぱり火炎瓶とか飛んでくるの?」

「さすがにないと思うぜ。あれほど、この街の行政機関が連帯してことに当たったのは初めてだろうし、過激派は軒並み生首か更生院さ」

「そう」


流石に、火炎瓶の投げ込まれる職場には勤められないので心底安心した。

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