第12話 夕食前の歓談
上着を脱いで、上衣を整えると私はマーサを連れて部屋を出た。マーサは大人しく私の後に付いてくる。部屋のカギは自分で締めた。一応、財布は持ってきているので部屋に置いてきたものを盗まれても何とかなる。
「おお。アンナ。夕食かい?あれ、マーサも。何だか二人でいるのは久しぶりだねぇ」
宿のマスターは豪快に笑った。まだ、お婆さんというよりかはオバちゃんの芸風を保っている。この婆さんが物静かに料理を運ぶようになったら世も末だろう。
「おう。久しぶりなんだぜ」
マーサは私の方に腕を回した。やめろ暑っ苦しい。
「どうも。マーサにアイスバインを……、私にはザウアークラフトのスープとパンを」
「あいよ。そこの窓際の二人掛けの席で待ってておくれ」
「はい。お願いします」
私は首に回されたマーサの腕を気にせずに歩き始めた。およ、とマーサが一瞬足をもつれさせたが、すぐに私から離れて自分で歩き始めた。
「なんだよ。スープだけって。腹の具合でも悪いのか?」
「違う。一日中馬車で揺られていたからよ。こんな日に重いものを食べたら次の日しんどいじゃない」
私は運ばれてきたお冷を一息に呷るとぐてっとテーブルに伏してしまう。総督府に魔法図書館。お上差し回しの施設に行くと肩がこる、と私が言うとマーサちげぇねえや、と賛同してくれた。
「しっかし、馬車に揺られたぐらいで食欲がなくなるとは六期の神童も形無しだな」
「年を取るとわかるわよ。私の場合、一線から退いてもうだいぶ長いし」
「年て、まだ二十歳にもなってないじゃないか。やっぱ、半年も引き籠るからだ」
「……、それで、アイスバインに見合う情報は何?」
この話題を続けるには旗色が悪かったので話を元に戻した。
「ん?まあ、お前さんがお熱だったスピカ・ラングレーを見かけたと言ったら」
「酒も頼んで良いわよ」
やりい、と言ってマーサは「おばちゃん。エール一つ」とカウンターに声をかけた。まあ、一杯だろうが一瓶だろうと払えない額ではない。この店の酒はさして高くはない。
「で、どこで見かけたの?」
「エミル村の遺跡を覚えているか?」
「もちろん」
昨日、今日だけでどんだけ話題に上がったか。
「私は、知っての通り
いま、初めて知ったわよ?
「そん時だったかな。胡散臭い中年紳士と白いローブを羽織った魔法使いの女の二人連れを見たんだ。危ないと思ったんたがその白ローブが滅法強いやつであっという間に魔物を倒していくんだ。ほれぼれするほどの手際の良さだったぜ。そいで、そのローブが一瞬はだけたて顔が見えたんだが、その顔があんたのお気に入りのスピカだったって訳さ」
「……」
「どうかしたのか」
「いや、何だかその取り合わせに覚えがあるような、ないような……」
「ま、そのうち思い出すさ。声をかけようか迷ったんだがこっちも生憎クエスト中だったからね」
悪かったとは思っているよ、と彼女は肩をすくめた。
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