第2話 車窓の人々

 今回、お父様に任せられた仕事は不本意でしかなかったが、一度引き受けてしまったからにはやらねばならない。一両日中に荷造りを終えてシモンの街に行くべきだろう。聞くところによると蔵書の配架はすでに終わっており、後は魔導書を管理できる司書を配置したら明日からでも運用を開始できるとのことだ。ならば出立は早い方が良かろうと、トランクを一個抱えて駅馬車に乗り込みシモンの街に向かっている。

 昔はエミル村まで行く駅馬車によく乗ったものだが、最近は全く使っていなかった。妙に体が疲れて、出歩くのも億劫だったし。まあ、そんな訳で久しぶりに乗った駅馬車には同乗者が六人ほどいた。同乗者を観察してみると、ボロボロのローブを被った少女……十七、八ぐらいの少女とその隣に座るいやらしい笑みを片頬に浮かべた中年紳士の二人組。何とも妙な取り合わせだ。奉公に出されたにしては雰囲気が暗いので借金のかたにでも取られたのだろうか。まあ、珍しいこっちゃないが。次に、私の後ろに座ってぶつぶつ何事かを呟いている領校の男子学生。見たところ支給品と思しき教科書を読んでいるので試験でも近いのだろう。まあ、がんばれ。次に、大荷物を抱えたおばちゃんが二人。荷物の中身はジャガイモか柴と見た。きっとシモンに行商に行くのだろう。柴は紙の原料にもなるし。最後にこれまたローブを羽織った女が一人。最初に挙げた少女とは違い装飾こそないもののかなりの上物だ。恐らく、魔法的な効果も付与されているのだろう。冒険者が使うには高価すぎる品なので貴族お抱えの魔導士か何かだろう。あるいは後ろの中年紳士の用心棒か。どっちにせよ下手につつけば蛇が出てくる相手に相違ない。関わらないようにしよう。……にしても中年紳士の隣にいるボロボロローブの少女、どっかで見た覚えがあるような。領校の同期や一期下にはなんな感じの娘はいなかったはずだし……気のせいか。仮に、知り合いだとしても私に出来る事はあまり無い。だからローブの少女が旧知の人かどうか特定しても意味がまるで無い。

 思い出せない知人を思い出そうとする無為な活動に見切りをつけて、今後の事について考えることにした。住処はまだ見つけて無いから、これから探さねばならぬ。今日、明日はシモン総督の叔父様のところに厄介になるしかない。それ以降の住まいは冒険者向けの下宿で過ごす?それはそれでどうだろうか。ていうか、受け取った地図に書いてあった魔法図書館の所在地って色街じゃなかったっけ。領校の先輩に教えてもらったからよく覚えている。・・・・・・まあ、何にせよ叔父様に聞けば良かろう。きっと、私の居ない六年の間に何があったのか教えてくれるはずだ。

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