第43話【大地の試練】黄金の龍【攻略配信】


「くそっ…どうすればいいんだよ…」

『これ結構まずいんじゃ!?』

『頑張れノスター!負けたら死ぬぞ!』

『サキちゃん生きてー!超生きてー!!』


 目の前には、未だ無傷のケリオがこちらをじっと見つめていた。


 こちらは、怪我はないものの体力を消耗したフラム、かすり傷が増えてきたルエルと俺。


 後ろでは腹に大きな穴をあけた重症のサキと、そのサキの周りで俺達の戦闘を見守るラクナがいた。


 最初、奴は俺とルエルとフラムの相手をしていた。


 順調、とは言えない程だが、どちらも様子見と言うような動きで進んでいた戦いは、ケリオの動きで一変する。


 突如最初に俺を狙って放たれた岩柱とは一線を画す速度の岩柱がサキを貫いたのであった。


 突然の襲撃に反応できなかったサキは、そこで一発KO。致命傷…かは不明だが、もう戦える体ではないだろう。


 正直、めちゃくちゃピンチである。


 早くしないと、サキの方も心配だし、どうにか打開策を見出さなければならないのだが…妙案は思い浮かばない。湧いてくるのはどうにかしなければという焦りだけであった。


(気になることもあるけど…それでどうしたって感じだし…)


 ケリオが主に警戒しているのは、フラムとサキ、そして次にルエル、その次がラクナで、最後が俺のように見える。


 フラムはわかる。彼女はどんな生き物にとっても脅威になり得る存在だ。全てを焼き尽くす光はたとえモンスターといえど恐怖を覚えるレベルだろう。


 サキはフラムには届かないものの智天使という上から二番目の階級であることも納得の水使いだ。


 彼女の水はまるで津波。何もかもを呑み込む濁流である。


 だが、身体能力は大天使とほぼ変わらない。ステータスで表すなら1か2程度の違いだ。


 そして、ケリオは未だサキの水の本領を見ていない。


 彼女がここでやったことは、水で攻撃の軌道をそらしたり、視界を塞いだりくらいだ。フラムの光と比べれば水鉄砲くらいの威力であろう攻撃。


 それなのに、重症を負ったサキを未だにケリオは警戒し続けている。


 何故だ?天使の階級が高いと、何か感じることでもあるのか?


(いや、それにしては、フラムよりもサキの動きに集中しているような気がする…やっぱりなにか…ん?)


 そこで、ふとケリオの左腕が目に入る。


 そこには、気にする程のものでもない小さな傷が。


 ……左腕?あそこは、確かサキの水を受けた……


(水に弱い?いや、そんな単純な弱点なら今も積極的にサキを狙うはずだろう)


 あんな硬い体に、あの勢いの水でダメージが入るとは思えない。


 それにだ。俺が考えついたことを彼女たちが気づかないものなのか?


 彼女たちの頭脳は、人間の知恵など遠く及ばないのだ。


 ダンジョンを運営しているとき、俺はそれを強く実感した。一を教えれば百を理解する。天使とはそういうものだ。


 そんな彼女たちが、こんな単純なことに気が付かないわけが…


「………フラム!ルエル!前衛は任せた!」

「お任せを」

「了解しました」

『嘘!?ここで!?』

『逃げるな卑怯者ー!』

『女の子二人に前衛任せて下がる主人まじか!?』


 二人にそう言い、俺は後ろに下がりサキのそばに近寄る。


 うざいコメント欄は無視である!


「なぁ、サキ。もしかして…ケリオって水が弱点だったりする?」

「はい。正解ですよ」


 俺がそう聞くと、彼女はなんともないようにそう返事をした。


 えぇ〜?


「え?何で教えてくれなかったの?」

「……ノスターさんは…その…」

「その?」


 彼女は、言いづらそうにしながらも、俺が少し圧をかけながら続けて聞くと観念したように答えた。


「────ノスターさんは弱いです。それも、下級天使にすら敗北するくらいには」

「うっ…まあ、そうだけど…」

「フラムさんは、我ら天使が戦えば問題ないと言っていましたが、私はそうは思いません。アレを殺すのは、ノスターさん以外不可能です。なのでノスターさんには強くなっていただかなければなりません」

「はぁ…」


 アレ。彼女か指すそれは、目の前にいるケリオではなく、邪神のことであろう。


「今回は、フラムさんにはとある取引の条件として、あの男を殺さないようにしてもらっています」

「取引?」

「…それは関係ないので黙っておきますが、つまりです。ノスターさんには、自分の力でこの神殿を攻略してもらわなければならないのです」

「ねぇ。もしかして、その傷、そこまで重症じゃない?」

「はい。今すぐ前線に復帰できるくらいには余裕はあります」

「……なるほどね。ちなみに、ラクナはそのことは知ってたの?」

「えっ!?えーっと…知っていました………3分の1くらいは私の提案でもあります…」

 

 ラクナは、突然矛先がこちらに向いたことに慌て、そして申し訳なさそうに項垂れながらそう白状した。


「ふ〜んへぇ〜そうなんだ〜。めちゃくちゃ心配したんだけどなぁ〜」

「それはその…申し訳ありません…」

「うぅ…申し訳ありませんご主人様…」


 ジトーっという目で彼女たちを見ると、二人は見たことないようなくらい小さくなって落ち込む。


「はぁ……まぁ、今回は許すよ。俺の為でもあるんだろうし…だけど、今度から心配させるようなことはやめてくれ」


 彼女たちに、そうしっかりと注意する。俺に頑張って欲しいならしっかり理由を伝えてそう言ってほしかった。上位の天使である彼女があんな一瞬で追い詰められるとか心臓に悪いぞ…


「でも、弱点がわかったのなら、サキも動いてくれるんだろ?」

「勿論です。すぐに片付けましょう」


 サキはそう言い立ち上がる。


「……行くぞ!ここで終わらせる!」

「はっ!」


 二人を相手にしているケリオの後ろから、全力でバールを振り下ろす。


「その程度…っ!」


 だが、流石に気づいていたのかケリオは余裕を持ってバールを避ける。


 これは、予想通り!


 ヤツの視線がこちらに向いたことを確認して、フラムとルエルに合図を出す。


「二人ともっ!!」

「ぬっ!?」


 そう俺が声をかけると同時に、まるで最初からわかっていたと言うように完璧なタイミングで剣とパイルバンカーを使い、地面を打ち砕く。


 ケリオは今までもなかった自分の足元の地面への破壊に姿勢を大きく崩した。 


「サキッ!!!!!」

「完璧ですよ。ノスターさん」


 その瞬間、水の槍が俺の目の前を通過し…ケリオの胴体に風穴を開けた。


 えぇー!弱点属性に弱すぎたろ!?

 

「信じられん…この…吾が……」


 上と下が別れるほど大きな穴を胴体に開けたケリオは、そんな言葉を残して、地に倒れ光となって消滅する。


 さっきまで感じていた圧力も気配も一切感じない。


『倒した!?』

『やったか!?』

『もしかして歴史的な瞬間を目撃した?』

『勝ったか…!?』

『深層クリアまじかよ!?』

『日本の探索者の深層攻略者って初めてじゃね?』


 フラグを立てるコメントも多く流れるが、ケリオはどこからも現れない。


 周りを見渡しても、それらしき影はない。


「勝った…のか…」


 あまりにもあっさりとした幕引きに、拍子抜けする。


 ピンチになる→弱点発見→激闘の末→討伐成功!


 というのか定番ではないのだろうか?……いや、現実はこんなものと言うわけなのだろう。


「まあいい…これで大地の試練はクリアってことだよな?」

「はい。あとは、奥にある宝玉をマスターが破壊すれば…」

「…っ!上です!」


 フラムがそう言ったと瞬間、俺達はその場から全力で離れる。


 ダンッッ!!という音とともに何かが空から地面に落ちてくる。


「黄金の……蛇?」


 俺達を潰そうと上から降ってきたのは、数十m以上の巨体を持った、ギラギラと輝く黄金の大蛇であった。


「いや、違う…こいつは……」


 ズルリと言う効果音が付きそうな動きで、大蛇は壁を回りながら上に登っていく。


 その姿はまるで…





















 ───────黄金の『龍』であった。

 

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