第42話【大地の試練】大地の試練【攻略配信】
「ここが三層か…?」
『いやいや、え?嘘でしょ?』
『なぜそんな平然としていられるのか』
『深層の三層は前人未到の区域なんだよなぁ…』
『二層は天使による殲滅が攻略方法だったと…』
そんなコメント欄を無視し、俺はキョロキョロと辺りを見回しながら進む。
現在いる場所は、地獄となった草原を1時間ほど歩き階段を見つけ、その階段を下った先、つまり深層の第三層である。
現在攻略されているダンジョンは深層のない下層のみのダンジョンだけで、深層のあるダンジョンは最高到達点が二層までだったのだが、それをあっさりと塗り替えた俺の配信にはとんでもない視聴者が集まっていた。
なんとその数12万人。
そんなわけで、コメントが爆速で投稿されていて、読まないというより読めないのである。
そんな大量の視聴者に見られながら、三層に到達したのだが、そこは特に何もない通路が続いていたのであった。
他の深層も共通して、一層は普通の迷宮型、二層は地上型なので、次は建造物型のような感じか?と思ったが、どうやら違うようだ。
迷宮型…というかただの通路である。
明かりは一定の距離に立てられた松明のみで、まるでこの先に何かがいますよと言わんばかりの重たい雰囲気を感じる。
ボス?いや、でもまだ三層だしな…
ダンジョンのボスは、だいたい中間に一体、最終に一体という感じだ。
なのでここで出てくるなら相当浅いダンジョンだし、そして相当強いボスが出てくることになる。
正直あと三層くらいは欲しかったが…俺の肌は鳥肌が立っていて、この先に何かがあると危険センサーがビンビンである。
階層が浅いダンジョンはそれだけ危険性が増す。つまりこの先にボスがいるのであれば…
「……死ぬかもなぁ」
前線を彼女たちに任せても、俺にも危険はある。
ルエルの話だと、俺も戦わないといけないようだし、とりあえず生き残ることを目標に立ち回り、ラストアタックだけ貰う感じで行くしかないだろう。
とどめを刺さなくてもいいならそれで構わないが、もし俺がとどめを刺さなければならないとなると…不可能に近いだろう。
俺のステータスはドーピングありで筋力が6。
だが、大地の試練のモンスターは防御力に特化したモンスターが多い。
しかもだ。通常であの地竜が出てくるということは、ボスはそれ以上のモンスターであろう。
まあ一体しか出てこなかったから、もしかしたら最初が一番難しいダンジョン的な感じかもしれないが。
新しいとっておき、持ってこればよかったぜ…
そんなことを考えながら何もない通路を進んでいくと、ついに終わりが見える。
「……ここか」
『ダンジョンの扉デカすぎだろ!』
『映像なのに鳥肌やばいんだけど?』
『絶対ボスやん…』
『三層で出てくるのか。早いね…』
そこには、とんでもなく大きな大扉が待っていた。
俺のダンジョンの最初の通路にあった白い神聖な雰囲気の扉とは違い、ただの岩で作られたとても重厚な扉だ。
そして、その奥から感じる威圧感。
ナニカがいる。
目ではなく、恐怖心がそう告げている。
……だが、進まないわけには行かないだろう。
「フラム。頼む」
「失礼します」
俺がそう言うと、フラムはゆっくりと扉に手を翳し…
「あ、そうじゃっ─────」
フラムが何をしようとしているのかを理解した俺はそう止めようとするが…一歩遅かった。
扉が弾け飛び、中の様子が顕になる。
そこは、深層の入り口と同じくらい大きな何もない岩でできた空間であった。
そして、そんな空間の中央には一人の男が腕を組んで立っていた。
黄金の髪と蛇のように鋭い瞳。
うちのカルマよりも高い身長と、それに見合った丸太のように太い筋肉質な体。
「ほう…随分と豪快な挨拶ではないか。人間とはこんなにも乱雑な種族であったか?」
………喋った。
『キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!』
『!!!???!!』
『まさかの知能あり!?』
『深層のネームドとかもう伝説の化物だろ!!!!』
『会話できるモンスターっているの?』
『一応過去に何度か言語を発するモンスターも見つかっておるが、大体が高位モンスターで人間のことを見下していて会話にならないんじゃ!というか人間の声を認識しないレベルじゃぞ!?』
『それと、言語は聞き取る人間のイメージによって違うんだっけ?』
『殺せ!イケメンだァァァァァ!!』
『あれ?よく考えてみれば天使は会話可能のモンスターじゃ…』
どうなってるんだとコメント欄を見るが、こちらもどうやら混乱しているようで、言葉を話すモンスターはとても珍しいようだ。
だが、一応言語を話すモンスターはいるのか…そういえば聞いたことがあるな。普通とは違う突然変異のようなモンスターはネームドといいその外見にちなんだ名前が付けられる、と。
「えーっと…はじめまして?」
「……なんだ。ようやくここまで辿り着く猛者が現れたと思うたら、ただの羽虫ではないか」
「羽虫……?」
「お〜!ちょいちょいまてまて」
その言葉を聞いたフラムは、癪に触ったのか剣に手を伸ばそうとする。
危ない。またやる気だったなこの娘…会話ができるんだ。まだ敵と決まったわけでもないだろう。
…まあ十中八九敵ではあるだろうが、気になることは沢山ある。ここはとりあえず話してみるべきだ。
「うちの部下がごめんね?えーっと…俺の名前はノスター。あんたの名前は?」
「吾が名はケリオ。この地を支配する王である」
「はぁ…じゃあ、ケリオさんはここのボスってことでいい感じ?」
「当然である!」
『……え?会話してるんだが?』
『嘘だろ…?』
『これってもしかして世界が震撼するレベルの出来事じゃ…』
『会話可能のモンスターとか、一体どれだけ研究が進むんだ?』
ほぉ…会話できるモンスターは珍しいのか…
それなら、できるだけこの男から情報を引き出しておくべきか…
「あんたが、このダンジョンを作ったってことか?」
「ふむ?吾がか?違うぞ。吾はここを守るよう命じられただけだ」
命じられた…ルエルの話していた邪神か。
「その命じたあんたの主人はなんて名前なんだ?」
そして、さらに深堀しようと質問をした途端…
「───は?主人?あの男が?」
空気が一変する。
先程までの威圧感よりも圧倒的に重い圧力。息が詰まり、呼吸ができない。目の前にいる黄金の男から、目を話すことができない。
(う〜ん…これが地雷ってやつ…?)
どうやらやらかしてしまったようだ。
「面白い。今も昔も、人間とは龍の逆鱗に触れるのが随分と得意なようだな?」
「い、いや〜俺はそっちの事情とか知らないわけで…」
「ふはははっ…いいぞ?気にすることはない。どうせ…貴様はここで朽ち果てるのだからな!」
そう言ったケリオは目の前から消える。
どこに?そう思うよりも先に、目の前で火花が散る。
「主よ!私の後ろにっ!!」
フラムのいつもよりも鋭い声の警告に、ほぼノータイムでラクナが俺の体を引き寄せ、後ろに飛ぶ。
立っていた場所には鋭利な先端の岩の柱。
あのまま突っ立っていたら、あの岩に串刺しにされていたと理解する。
「羽虫風情が吾の邪魔をするな!!」
「ふっ!」
フラムとケリオは、目にも止まらぬ速さで剣と拳を交える。
カンッカンッという金属がぶつかりあったような甲高い音が連続で鳴り響く。
その様子を、俺達四人は、少し離れた場所から眺めていた。
「ノスターさん。どうしますか?」
「うーん…」
サキにそう聞かれ、考える。
ここはどうするべきだろうか?
援護すべきだと思うが、あの戦いについて行けるとは思えない。
とはいえ何もせずにここで指をくわえて見ているわけにもな…
二人の実力は、正直フラムが押されているように感じる。まあ、素人目線の感想ではあるがな。
さて、ここは誰か一人は保険として残しておくべきか……なら、ラクナか?今の様子からして鎮静化はケリオには通用しないようだが、普通のモンスターには通用する。逃げる時には持ってこいの能力だろう。
「よし…ラクナは体力を温存しながら待機、サキはフラムをメインに全体の援護。俺とルエルは全力で攻撃だ」
「了解しました」
「わかりました」
「気をつけてください!」
三者三様の返事を聞き、ケリオを見る。
俺とルエルはヤツのチャンスを狙う。タイミングは気にする必要はない。何故か?それは簡単だ。
全力で地面を蹴り距離を詰める。
俺が合わせるより、彼女たちが合わせてくれたほうが上手く行くからである!
「ぬぁっっ!!!」
「甘いっ!」
なんの仕掛けも作戦もないただのバールの一撃を振り抜くようにケリオに振るが、片手で下にはたき落とすように防がれる。そのままケリオは腕を俺の無防備な体に振るう。
防御をすることもできない体制、このままであれば死を待つのみだが…
「っ?」
バシュッという音とともに、腕が水に弾かれ、軌道が逸れ、俺のすれすれをケリオの腕が通過する。
それと同時に、フラムに警戒を割いていたようで背後を気にしていなかったケリオの後ろから、ルエルがパイルバンカーを突き立て、射出する。
「ぬおっ!??!」
鈍い音とともに、ケリオは体制を崩す。その隙をフラムが逃すわけもなく、眩く輝く光の剣を振るうと、ケリオは勢い良く遠くの壁に激突する。
「出力、30パーセント」
そしてそこに、追撃とばかりにルエルはもう一つの兵器を構え、撃つ。
シュンッという小さな音とともに、放たれた一閃の光は土煙にすら穴を開けてケリオの方に進み着弾すると、まるでアニメのような光と爆風と轟音が空間を埋め尽くした。
『バスターランチャーTUEEEEEEEE!!!!』
『やっと見れた!』
『パイルバンカーもエグかったがこれはこれでエグいな…』
『これはオーバーキルか?』
『殲滅兵器を人型の相手に使う…流石ですルエルたん』
完璧な連携、そしてクリティカルヒットと言っても過言ではないルエルの一撃。今までの戦いの中で一番コンビネーションが光った場面である。
ま、これで倒せるなら、邪神討伐も苦労しないんだろうけど…
「……中々やるようではないか」
土煙の中から、服が破れたケリオが現れる。
多少傷はあるが…まあほぼ無傷と言っても構わないほどだ。
これで無傷は…自信なくすかも?
倒せるとは思ってはいなかったが、こんなにも余裕だと、同じ方法でやり続けてもこっちの限界のほうが早そうだ。
どうにか、突破口を探さないとやばいな…どうする…?
俺は、可もなく不可もない平凡な頭で必死に考えるのであった。
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