第36話【結果は必然】金のなる木と桜の木【人生のツケ】


「こちら、今月の資料になります」

「ありがとう。感謝します」


 部下になった男性体の天使から受け取った書類を確認する。


(売上は上々。とはいえ油断はできないラインですね…)


 一般客は入れ代わり立ち代わりだが、VIPはある程度顔ぶれが決まってきた。


「今日は、少し大きく動きましょうかしら…」


 勝って、負けて…また勝ってだけの繰り返しではカジノは成り立たない。どこかでなにか大きな出来事を起こさなければいつかは廃れていく。


 ノスターに召喚され、最初に命令されたことがこのような児戯だったことに、彼女は最初納得がいっていなかった。


 それもそのはず。天使というのは本来神の意志を執行する使者であり、兵器である。


 それが人間相手に娯楽を提供するなど…そう思っていた。


 だが、彼女は主人であるノスターとゲームを繰り返す上で、ギャンブルというものを知ったのである。


 心理的な駆け引き、高度な情報戦、相手を理解し、自分の無意識下の行動すらも操る。


 今まで、圧倒的な力でねじ伏せ、そして破壊してきた彼女にとって、それはとてつもなく刺激的な任務であった。


 そして…それよりももっと魅力的な報酬が存在する。それが…


「ノスターさんへの命令権…ふふっ……ふふふふっ……!」


 計算されて作られた美しく完璧な表情が愉悦に歪む。


 彼は、月に何度か勝負を挑みに来る。そして賭けるものは、勝者は敗者に『なんでも』命令することができる権利というものだ。


 それは、天使たちにとってどんな禁断の果実よりも甘美で、魅力的で、喉から手が出るほど欲しい報酬であったのである。


 プライドの高い熾天使の4人でさえ、私へ羨望の眼差しを向けるくらい価値のあるチケット。


 それを彼女は大量に所持していたのであった。


 ちなみに…現在のサキの戦績は15勝0敗3分。ノスターの圧倒的負け越しという状況である。



………………………………


……………


……




「うんうん…結構いい感じじゃん…」


 壁に寄りかかり、フードを持ち上げてこっそりと周りを見渡す。結構繁盛しているようだ。


 どこのテーブルもプレイヤーで埋まっており、皆が楽しそうな顔をしていて心から楽しんでいることがわかる。


 ここは低レートエンジョイエリアである。


 白いチップが1枚100円、赤が500円、緑が2500円、黒が12500円である。


 ダンジョン内の宝箱から、偶に手に入るチップは結構人気である。ま、普通の探索者が丸1日モンスターを狩って一万~五万円の稼ぎなのでそこまで足しにはならないが…仕事終わりに軽く寄っていこうという人も多少はいるのでこの低レートカジノも結構人気がある。


 かっこいい&可愛い天使達とすぐ近くでゲームをするというのも人気の秘訣だ。会話を禁止されているわけではないのでゲーム中に話をして仲良くなることも可能で、ギャンブルに興味のない人も天使の子たちと話したくてどんどんと入ってくる。


 お酒を飲めるBARも隣にあり、老若男女色々な人が来るので出会いの場ともなっているらしい。


 まあ、1番人気は現金を直接賭ける高レートゾーンだが…あそこはたまに地獄のような叫び声が聞こえるのであまり近づかないようにしている。前に低レートカジノでこっそり探索者に混じって遊んでいたとき、さっき入っていった恰幅の良いスーツのおじさまが全裸で飛び出してきたところを見たときは衝撃だった。なんでそんなになるまで賭けるんだよ!怖いよ!?


 え?違法?ダンジョンに法律が通用するわけ無いだろう?


 そんなこんなで賑わいを見せているカジノエリアに来た理由は…当然ギャンブルである。


(今日は…ルーレットの気分だ)


 深くフードをかぶり顔を隠し、適当に可愛い天使がディーラーの台に座る。別に男でも構わないが、美少女を見ながらやるギャンブルが最高なのは男として当然だろう。


「カラーの赤に、黒を10枚」


 そうやってクールに持ってきた黒いチップをボードの上に出すと、周りがざわめく。くくっ…そりゃそうだ。ここにあるのは10万超えの大金。この低レートエリアでこれだけの大金を一気に賭けるような馬鹿、普通はいないだろう。


 しかも、完全な運であるルーレットにだ。


 カラカラ…という音を立てながら、円盤と球が回りだす。


「No more bet…」


 美しい声でディーラーがそう告げる。ふっ…今までの俺なら、ここで明日の晩御飯何にしようかと現実逃避していただろう。


 もう掛け金も変更できず、ただ球がどこかに入るのを待つだけ…


 だが、今日の俺は違う。そう、今日の俺は初心者の前で大勝ちをする…サクラなのである!


 ここで、大金で大勝ちして、もしかしたら俺も…と考える人間を増やし、高レートエリアに誘導する。それが俺の仕事というわけだ。別にディーラーに俺がノスターと伝えているわけではないが、彼女たちなら俺が主ということを感覚で理解しているはず…つまり、この勝負…貰った!


「黒、13」

「………」


 これは罠だ!


 なぜこんな酷いことができるんだ!俺の遊ぶ金を返せ!


 財布を確認する。中には736円。


 一応、こういった娯楽用とダンジョン運営用、生活用にDPや現金は分けている。つまり…今のは俺の娯楽用のDPだったのである…うぅ…これから来月まで何を楽しみにしていけばいいんだ…!


 東京観光するためにコツコツためていた金が…


 え?なら使うなって?そんなのギャンブラーに通用するわけ無いじゃん。あれば使う、ギャンブラーとはそういう生き物なのだよ…


 正直自分ルールなのでダンジョンのDPから拝借しても構わないのだが…それをすると引き返せなくなりそうなのでやめておく。


 ま、まぁ?東京観光のDPくらいはダンジョンのを使っても?いいんじゃないかな?


「お?」


 そうして帰ろうとしていると、VIPルームに入ろうとする御一行様を発見する。


 5人のスーツの厳ついグラサン男を引き連れた仮面の男だ。身に着けたブランド物が、相当稼いでるんだろうなということを周囲に主張している。


「用はないけど、見ていくか…」




………………………………


……………


……





「ふむ…素晴らしいな」


 VIPルームと呼ばれるそこは、さっきまでのカジノとは打って変わって、とても高級感のある部屋になっていた。


 赤い壁と黒と白の大理石の床、天使と呼ばれる美しい少女の奏でるピアノ。


 壁や机の上に設置された美術品は、素人が見ても相当の価値のあるものだと理解できる。


 そして、並べられた多種多様のゲーム。


 普通ならこんな東京の町中で裏カジノなんて、運営できるはずもないが…やはりダンジョンというのは本当のようだ。


「いつまで経っても、ここがダンジョンというのは信じられんがな…」

「ははっ!先生でもそう思いますかね?」

「おぉ、その声、やっぱり上原先生もここに来ていたか」

「もちろんですとも。この流行りに乗り遅れるわけには行きませんから」


 そう言い上原と呼ばれる男が周りを見渡し、それにつられて周囲を見る。


 政治家、官僚、医者、芸能人…名高い数多くの有名人の多くが仮面を付けてゲーム台に座っていた。


 このダンジョンができて数ヶ月。今ではこのダンジョンカジノは、上級国民と呼ばれるような者たちの娯楽場と化していた。


 テレビや動画撮影も禁止なので、少し後ろめたくとも安心して遊ぶことができる。


 盗撮される危険性もあるのでは?と危惧する友人もいるが、禁止されているカメラや撮影器具を使用した場合、何故か爆発する。原理は不明だが、ダンジョンの力ということなのだろう。


 ここに入るまでは少し危険だが仮面で顔を隠せば大抵問題はない。他人の空似と否定できるのだから。


「今日は…ん?あれは?」


 何をしようかと迷いながら辺りを眺めていると、そこにはディーラーをしていたタキシード姿の天使とは一際違う、青いドレスを纏った美しい天使が他のプレイヤーとゲームをしていた。


「あぁ、あれはこのカジノのオーナーのサキという智天使ですよ。偶に特別なゲームを開催するんです。見た目も綺麗だし、見る分にはいいんですけど…」

「クソッ…流石に5連続フルハウスはおかしいだろ!」

「ふふふっ…そう思うのでしたら、証明していただけないかしら?」

「チっ…それは…」

「それでは、手持ちを置いてお帰り下さい」


 彼女がそう言うと、男はゴネるが最終的には諦めたように鞄を置き去っていった。


「…面白い。私も一戦、お願いしたい」

「いいですよ。そちらの席にどうぞ」


 彼女は、先生と呼ばれる男に席につくようにと促す。そして数分後、顔を隠した一人の男?が席に付き参加が締め切りとなった。


「それではルールを説明しますね?今回行うゲームは、私自身も参加するポーカーのファイブカードドロー。ルールは貴方たち人間の知っている通りでローカルルールは無しです。簡単でしょう?」

「あぁ。簡単だな」

「ただし、私との勝負はある程度価値のあるものを賭けてもらうことになります」

「価値のあるもの…」

「えぇ。人間でしたら、貯金、妻子、自分の体…あとは魂、とかかしら?」

「……魂…?」

「そう。どのようなものでも構いませんよ。ただ、大切なものを賭けていただきます。そして、私は皆さんと同じ物を賭け、勝利者は場に賭けられたそのすべてを総取り…というわけです」


 ディーラーとではなく参加者全員での勝負、ベットは現金だけでなく、体や大切な物、それから命や魂といった概念的なものでも問題ないわけか。


 そして、ディーラーが負けた場合はプレイヤーが賭けた物と同じレベルの物を渡すと…


(天使とは名ばかりではないというわけか…)


 魂の回収なんて、どうやるのかわかりもしないが…本当にできるのなら恐ろしいものだ。


 しかも、自分の賭けるものを他人に選ばせるなど、正気の沙汰ではない。


 もし、人権を賭けて勝負をし彼女が負けた場合、引取先が男だったらそれはそれは悲惨な末路が待っているだろうに…


「それでは、まず賭けるものから…そちらの先生?からどうぞ」

「そうだな…それでは、この時計を賭けよう。値段は日本円で三千万円だ」

「それでは、そちらの方は…三千万円以上の価値があるものを。たとえそれより下でも他のお客様が問題ないのであれば構いませんが」

「…じゃあこれで」


 フードの男は懐から自分と全く同じ時計を取り出す。


「……?」


 なんだと?同じものを…?そんなわけが…いや、どこからどう見ても本物だ。


 ……偶然か?


 まあ…生きていればこういうこともあるか…。三千万の時計とはいえ、個数はある程度ある腕時計ではある。


 まあいい…と、男は切り替えて勝負に挑む。


 一戦目、勝利


 二戦目、サキ勝利


 三戦目、サキ勝利


 四戦目、勝利


 五戦目、サキ勝利


 手持ちの現金や貴金属を賭けながら、ゲームを進める。フードの男は、はじめの時計以外は特に気になるような動きもなく、賭けるだけ賭けてただ静かにゲームを降りている。何をしたいんだろうか?


(さて、この辺り…か)


 そして、男は動く。


「それでは、私の全てを賭けよう」


 男は、後ろのボディーガードに持たせておいたスーツケースを、机に叩きつけるように置きそう宣言する。


 中にはぎっしりと詰められた現金。他のボディーガードの持っていたスーツケースには大量の純金のインゴット。


 周囲の観客がざわめく。それもそのはず、ここまでの大勝負を挑むプレイヤーなど、今までに一度もいなかったのだ。


「それは、生命も魂も…ということで宜しいですか?」

「あぁ、そうだ」


 男は彼女の質問にそう答える。その目は、情欲と淫欲の色に染まっていた。


(本当に…………汚したいくらいに美しい)


 ゲームの準備をする彼女をじっと見つめる男。


 そう、ゲームに挑んだ最初から、彼の狙いはサキ一人であった。


「お受け致しましょう。それでは、こちらの炎をお飲みください」


 そう言うと、彼女は他の天使にマッチくらいの小さな炎を持って来させ、それを躊躇いなく飲み込んだ。


「なっ…私は人間だぞ?」

「問題ありませんよ。痛みも特にありませんので…」

「そ、そうか…」


 恐る恐る炎を飲み込む。特に何か変化はない。


「んじゃ俺も」

「は?」


 すると、さっきまで黙っていたフードの男が炎を受け取り飲み込む。


(参加するのか?)


 男の意外な動きに多少動揺するがすぐに心を落ち着かせる。


(この男は適当にバラして売れば多少金にはなるか…)


 そんなことを考えていた。


 そして、すぐにゲームが始まる。


 ルールは変わらず、シンプルなファイブカードドロー。


 手札に来たのは…KのスリーカードとダイヤのAとクローバーの4。


 そこそこ強い手札だが…まだ足りない。


 そこで、彼は準備しておいた6のボディーガードに指示を送ると…彼は堂々とサキの背後に立ち手札を確認した。


 そして送られたサインは…7と2のツーペアであった。


 彼が何故周囲に何も言われないのか、その理由は彼の手に付けられたとある魔法のアイテムの力であった。それが『認識阻害の指輪』。


 オークションでの落札価格、9億8000万。世界で一つしか見つかっていない伝説級のアイテムであった。


 目の前で服を脱ごうが、人を殺そうが、絶対にバレることのない、その名の通り認識を阻害する指輪である。


 その力を使用し、ボディーガードは彼女の後ろに立ったのであった。


 そしてそのままボディーガードは、山札を持ち上げ、中からクローバーのAを取り出し、男に渡す。


 完全にやりたい放題。だが、誰もその不審な動きに気がつくことはなかった。


 そう、つまりこの勝負は、始まった時点で勝敗が確定したゲームであった。


 そうして、当然交換もせずゲームは進み、ついに…


「それでは…公開してください」

「ふっ…キングのフルハウスだ。それじゃあまずは、この観客達の前で服でも…………は?」


 サキの手札はクローバーの5〜9。つまり…


「ストレートフラッシュ…!?何がどうなって!?」

「何がどうなって…ですか?運のゲームですから、このくらい起こり得ることでしょう?」

「いや、そんなはずがないだろう!お前の手は…」

「手は?」


 危うく口を滑りそうになった男は、ハッと気が付き、口を紡ぐ。


 駄目だ。ここで指摘をすれば、自分の不正が…


 どうにかしなければならないのに、どうしようもできない。そんな男の様子を見ていた目の前の彼女は、まるで悪魔のような笑みを浮かべていた。


「い、嫌だ…私はまだ…」

「では、私達の全ては彼に…ということですね」

「………は?何を………………は?」


 促された方を見ると、フードの男の前にはハートのA〜10の連番。つまり、ロイヤルストレートフラッシュが並べられていた。


「……何が……どうなって………」


 そう、絶望の表情でうわ言を呟く男は、鎧を着た天使によって運ばれていった。


「彼の持ち物と身柄は、後に全てお渡ししましょう」

「ん、そう」

「それでは、今日より私は貴方様の物でございます。なんでもご命令頂いても構いません。この身の全てを貴方様に捧げましょう」


 彼女はそう言いフードの男に跪いた。その様子を見ていた周りの観客は盛り上がりに盛り上がる。


 それもそうだろう。こんな美しい天使を得た人間がどんな無理を彼女にさせるのか、上級国民と呼ばれるような彼らにとって、非現実的なその下克上は最高の刺激であったのである。


 そして、緊張は最高潮に包まれる中、男は軽い口調でなんともないように彼女に言った。


「ん〜…じゃあ、ちょっとデートに付き合ってよ」




………………………………


……………


……



250:名無しさん@ダンジョンマスター:

エンジョイエリアのルーレットで一瞬で10万溶かしたやついて誰だと思ったらノスターでワロたwwwww


251:名無しさん@ダンジョンマスター:

いや草


252:名無しさんはルエルたんに踏まれ隊隊長:

こwれwはwひwどwい


253:名無しさん@ダンジョンマスター:

お前運営側だろwwwwww


254:美少女探索者を求め彷徨う名無し:

流石に草生えるわw


255:名無しさん@ダンジョンマスター:

バッチリエンジョイしてて草


276:名無しのオークでござる:

まさしく絶望の表情でござるな…


257:名無しさん@ダンジョンマスター:

別に金はノスターの物なんだから別に絶望することでもないんじゃwwww


257:名無しさん@ダンジョンマスター:

確かめっちゃ大当てして周りに興味をもたせるみたいなこと言ってたよな?これ逆効果だろw



──────────────────────

以外特に本編に関係のないあとがき


そういえば、先日プロデューサーになったんですが、皆さん誰が好きですか?


私はちなみに広ちゃんとことねちゃんが刺さりましたね


元気な子も好きなんです


The無口無表情キャラが一番なんですが、元気溌剌な陽キャ系女子やオタクに優しいギャルなども好きなんですよ


え?だからなんだって?別に何もないですが


あっ、X始めました。ぜひともフォローよろしくお願いします


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