第35話【シークレット】男にはやらねばならぬ時がある【ミッション】


 ダンジョンを民間に開放して、1ヶ月程度が経過した。


 現状は特に問題もなく順調である。たまに喧嘩などが起きたりするが…売り子天使や騎士天使がさくっと叩き出してくれるので大事にもなっていない。


 三層以降のダンジョン制作も着々と進めており、天使もどんどんと増やしている。


 そんなこんなで順調なダンジョン運営だが…ひとつだけ、とんでもなく重大な問題があるのである。


 それは…


「………なぁ、ユリ、少しくらい外に出たほうがいいんじゃないか?」

「えー?嫌っすよ〜私はずっとここで寝ていたいっす〜」


 ちなみにユリの口調はいつの間にかこうなっていた。というよりははじめはよそ行きの態度で、少しは信頼度を稼いだということではないのだろうか?


 態度からして敬意は全く感じられないがな。


 とはいえ、今日ばかりはそれを許すわけにはいかないのである。


「ユリ。前に賭けで勝ったときの命令権をここで使用する。今から四層で探索者を10人退場させるまで帰ってくるな」

「じゅっ!?主様!流石にそれは横暴が過ぎるんじゃないっすか!?」

「へぇ…ユリの命令はなんだっけ?1日ユリの下僕…だったか?あれでどんだけお前にDP使ったと思ってるんだ〜?」

「あっ!痛い!痛いっす!頭ぐりぐりやめるっすよぉっ!!」


 白いラインの青いジャージを着た彼女は天使としての威厳のかけらもないような、芋虫のような動きで俺の手から逃れようとこたつから這い出て、そのままフラフラと部屋から出ていった。


 ちなみに彼女の服は俺が今まで使っていたただのジャージだ。新しいのあげるからと言ったのだが何故か返してはくれなかった。


 よし。一番最初に一番厄介な存在の排除に成功した。これならあとは二人と一匹…


「フラム、少し仕事をお願いしたいんだけど…」

「何なりとお申し付けください。主よ」

「今から夕方まで、四層のチェックをお願いしたいんだけど…できる?全体的に確認して、何かミスとかがないか探してきてほしいんだけど…」

「もちろん構いませんが…主の手掛けたものを私が確認したところで意味があるとは思えませんが…」

「まぁまぁ、配下の意見も聞くのがいい主人ってもんだからね?ほら、行った行った!」


 少しゴリ押し気味だが、フラムの背中を押して部屋から追い出す。よし、二人目も成功だ。


 さて、あとは一番簡単な…


「ルエル、今からマナの散歩に行ってきてくれないか?」

「わかりました」

「ワフっ!」


 いつものように部屋の隅でぼーっとしていたルエルにリードを渡し、さくっと一人と一匹を追い出し…部屋の中は遂に一人になる。


「くくっ…ふははははっ!ようやくこのときが来たぞ!!」


 そうして俺はパソコンの前に座り……セクシーな画像を調べる。


 そう、重大な問題、それはルエルを召喚してから数ヶ月…俺はまだ一度もオ〇ニーができていないということである!


 生殺しもいいところだ。


 まずルエル。白いニーソックスとボディースーツの間から覗く真っ白な太もも、ボディースーツによってその小ぶりな膨らみは強調されていて、透けへそはなんとも蠱惑的である。


 外見年齢は幼い。手を出したら犯罪になりそうな外見をしているが…それでもあの容姿は反則である。


 早くおまわりさん保護してあげてください!


 フラムもフラムだ。


 やはり目を引くのは彼女のその完璧なスタイルだろう。


 大きな胸は、彼女の服をこれでもかというくらい圧迫しているし、へそ出しのおかげで太っているようには全く見えず、むしろそのスタイルの良さを際立たせている。


 それに、ホットパンツによって下半身…特にお尻の形が遠目からでもわかるくらいフィットしていて、自然と目が引き寄せられる。そこから伸びる白く女性的な太ももなんて、まさしく人類の至宝そのものだ。


 主の命令が絶対である彼女なので、そういうお願いをしても、彼女は歓喜の表情を浮かべながら何でもしてくれるだろう。


 予想ではあるが、文字通り『何でも』だろう。彼女の忠誠心はそれほどまでに高いのである。


 まあ童貞の俺にそんな命令を下せる勇気なんてあるわけがないのだが。

 

 この一ヶ月、だらしないユリにもよく惑わされた。


 彼女は二人と比べると、そこまで特徴的な体つきではない。胸は小ぶりで、同じ年齢の少女と比べると小柄な体型といったくらいだ。


 ただ、彼女は無気力…いや、無防備なだけなのである。


 俺がいるときでも、熱くなれば服を脱ぐし、前かがみになれば下着をつけていないのでその小さくも確かに存在する谷が首元から嫌でも目に入る。


 俺を信頼してくれているのだ、そんな彼女を裏切るような行為はしてはいけない、そう頭では理解しているものの、俺の目は彼女のそのブラックホールに吸われてしまう。


 また、風呂上がりのユリの姿を見た日には悶絶必須である。


 ほか二人は俺の目の前で着崩すなんてことはしないのだが、ユリは別だ。


 そう。上だけジャージを着た状態なのである。まさしく全人類が夢に見た彼ジャー…歩けばチラチラと目に入る水色のリボンのついたパンティーはなんとも可愛らしい。


 その状態で扇風機の前に寝そべるのだから、もう手のつけようがない。太ももの暴力である。


 また、カジノ組…というかサキも厄介だ。あの娘、何かあるたびに耳元で囁いてくるんだよなぁ…ぞくぞくするからやめてほしいが、もっとやってほしいという男としての欲求もある。


 他の大天使たちは、ある程度距離があり、仕事って感じで接せられるので助かるが、ある程度階級が高くなっていくとどんどんと遠慮がなくなっている気がする。


 だからこそ、今日、俺は賢者となる。


 主としてふさわしい威厳を手に入れるために、俺は…!


「すまないっす〜忘れ物したっすよ〜」


 バンッ!!


 全力でパソコンの画面を叩き割る。


「ん?忘れ物??何を忘れたんだい?」

「え…?え、えぇ…?スマホっすけど…大丈夫っすか?それ…」

「ん?何のこと?」


 彼女の指差す方向には、壁に叩きつけられ砕け散ったモニター。何もおかしな物はないじゃないか。彼女は何を言ってるんだろう?


「……負けたんっすね…分かるっすよ。負けて煽られると、全部ぶっ壊したくなるっすもんねぇ…主様もゲームは程々にっすよ」


 彼女はそう俺に警告しながら部屋から出ていった。

 

 ふぅっ…危ねぇ…何か勘違いをされてしまったようだが、問題はない。台パンキャラが定着するくらいだ。


「これは…もう使えないな」


 うん。動くわけがないな。くそ…君とともに俺は賢者となるはずだったのに…!


 仕方がない。第二の秘密兵器であるスマホで調べるとしよう。


 やっぱりこういう時はFONZA一択…


「ふんっ!」

「申し訳ありません!主にお知りおきいただきたい…こと…が…?」


 真後ろに突然転移してくるフラムが何をしているかを認識する前にスマホを握り潰し、ネットの検索結果ごとこの世から抹消する。


「な…何か粗相をしてしまいましたか…!?誠に申し訳ありません…!今すぐにこの首を」

「いやいやいや!判断が早いよ!全然そんなことないから気にしないで!?」


 俺のスマホを握りつぶす行動を、怒りのせいだと勘違いした彼女はいつものように剣を抜き、自分の首を切断しようとする。


「フラム、頼む。俺にはフラムが必要なんだ。だから、そうやって簡単に死のうとしないでくれ…!」

「私が…必要…?」

「そうそう、フラムがいないと俺、生きていけないよ!」

「ですが…私は………」


 ぬ…今日は随分としぶといな…こうなったら…


「大丈夫だ。フラム…」

「そこ…はっ…駄目…ですっ……!」


 手を伸ばし、彼女の光輪を撫でる。


 ふふふっ…これこそ必殺。光輪撫でである。


 少し前に発見したどんな天使でも一瞬でおとなしくなる必殺技で、翼の100倍効果がある。ユリやサキにやろうとしたらめっちゃ怒られたがな。でも彼女達は翼はオッケーなので、もしかしたら天使によっていい場所と駄目な場所があるのかもしれない。


 まあ、フラムに効けば問題ないのである。


 そうして、5分程度で彼女を落ち着けさせ、本題であった伝えなければならないことを聞く。


「はぁっ…はぁっ……それが…最近…ダンジョンの一層で…不審な者を見かけることが増えたので…」

「不審な者?」

「はい…どうやら認識阻害の魔具を身に着けているようで…」


 認識阻害の魔具…前に、ルエルやフラムに渡したようなダンジョン産のアイテムか?


「わかった。気をつけておくよ」

「はい…では、私はこれで…」


 そして、彼女は音もなくぱっと目の前から消え去る。


 ………ふぅ…危ない。あとちょっとで賢者じゃなくて死者が現れるところだったぜ。


「よし!とはいえこれでもう邪魔をするものはいない!パソコンとスマホは使えないが、俺にはまだこれがある!」


 そうして、俺は秘蔵の本を取り出す。


 こんな日のためにDPで交換しておいた新作の同人誌である!


 なぜ最新の同人誌すら交換できるのかは不明だが、理由はどうだっていい。


 これで俺は…ふんっ!!


「マスター。マナが帰りたいと言い出したので、帰還しました」


 扉が開く前に手に持っていた本を粉塵にする。できるわけがない?違う、やるんだよ。


「わふっ!わふっ!」

「ちょっ…やめっ!マナぁどうしてお前はそんなにもタイミングが悪いんだ〜!」


 八つ当たり気味に、俺に飛び込んできたマナを撫で回す。


 ……もういいや。修行僧になろう。


 そうして、彼は諦めた。ノスターの息子はもう二度と立ち上がることは…ないわけではない。


 彼の戦いは、これからも続くのであった。

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