第34話【踊る道化と】とある少年と即席パーティ【笑う観衆】


「やれぇぇぇぇれ!!!」

「惜しいっ!あと少し!」

「ミエルちゃん頑張れー!!!」


 少年たちがダンジョンで人形と出会う少し前、外の会場は大盛り上がりであった。


 モニターには、頭に光輪の付いた市松人形と戦う探索者が映し出されていた。


「やっぱり、東京にしたのは正解だったな」


 そんな会場の様子を部屋から眺めながらそうつぶやく。


 ダンジョンに人を集客するにあたって、2つの問題があった。


 一つ目が知名度だ。普通に考えたらダンジョンを運営しているなんて話、誰も信用しない。


 普通にただネットで公開するだけではこれだけの人が集まることはなかっただろう。神薬効果で注目度は上がってはいたが、だからといって人が県外から集まってくるかは難しいところだ。


 そのため俺は神薬を1本、政府に寄付した。当然ネットで寄付するよと宣言してからだ。


『迷える子羊ちゃんへのプレゼントだよ☆』


 という安価で決まった謎の文を添えて…だが。


 とても恥ずかしかったが、結果は大成功であった。寄付ということで印象もよくFWも増えたし、何とその神薬は生まれてから15年間寝たきりで病院生活であった余命1ヶ月の少女のもとに無料で送られたそうだ。


 日本も捨てたもんじゃねぇなと、そう思ったね。


 どうやらその彼女は奇跡の少女としてテレビで話題となり引っ張りだこで、今は夢であったアイドルに向けて日々頑張っているそうだ。俺に直接感謝を伝えたいと言っていたので、ぜひとも有名なアイドルとなってうちの宣伝をしてもらいたい。

 

 二つ目が立地だ。最初のダンジョンの場所は松山市のとある路地だったのだが…まあ何というかそこまでいい場所ではなかった。松山市は愛媛の県庁所在地で四国では都会寄りなのだが、有名なダンジョンは大地の試練くらいで探索者が少ない。


 そのためどうにかできないかと思ったのだが…ダンジョンは想像以上に便利であった。


 何と全国どこにでもダンジョンが1km以内になければワープ?できるのである。


 何というご都合主義。これがあれば移動時間短縮、徒歩圏内にダンジョンを移動させれば車も電車も必要ないというチート機能であった。


 まあ客を迎えた今では使えなくなった機能だが…仕方がない。


「「「おおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」


 観客席で歓声が上がる。モニターを見ると、そこには戦闘中なのにもかかわらずカメラに向けてバチコーンっ!とウインクでアピールする市松人形が。


 どうやら随分と楽しんでいるようだ。


 彼女の名前はミエル…ではなくトリアエルという天使だ。最初は霧の姿をした天使?で、肉体を持たない存在であった彼らは、召喚してすぐに適当に景品として用意していた人形に乗り移ったのである。


 そんなこんなで三体の人形に別れた彼らを全員トリアエルと呼ぶのもおかしな話なので、例外で簡単に名付けることにした。市松人形の彼女がミエル、フランス人形がキコエル、そしてツタエルがくるみ割り人形の姿をしている。


 名前の由来は三人の弱点に関係しているのだが…弱点なので秘密にしておこう。


 え?誰に秘密にしてるのかって?知らねぇよ。


 あとはアズリーだが、彼女はあまり人前に出るのが得意ではないらしいので、二層の防衛は三人に任せると言っていた。人形であったため本当に大丈夫か?と思うこともあったが、見た感じ遊んでいても大丈夫なくらいには強い。カメラにアピールする余裕もあるくらいだしな。


 どんな姿でも大天使は大天使というわけなのだろう。


 ちなみにアズリーは彼らを指定した場所に配置したりタイミングを指示したりするなどの裏方作業に徹しているようだ。


「おっ…終わったか」


 さっきまで剣を振るっていたはずの男は突然力なく崩れ落ち光となって画面から消えると、階段の前に鎧を着た男が現れた。彼は何が起こったのか理解できないという様子で周りをキョロキョロと見回していた。


 本物のダンジョンだからといって、人を殺すのはまずい。ということで、層によって敗北条件を設定した。そして二層の敗北条件は気絶だ。二層の天使にはアズリーの付与した特殊な力があり、それが生命力吸収である。


 触れられるとどんどんと体力が減っていき、最終的には気絶するというものだ。本来は寿命を奪うという恐ろしい力のようだが…物は使いようというわけだ。出力を抑えて体力に限定しているらしいし問題ないだろう。多分…


 それと、ちなみにだが二層の彼らは本来は人形でなく実体がない霧で物理攻撃は無効なので、彼らに見つかったら確定ゲームオーバーというわけだ。スキル系の属性攻撃は効くみたいなのでその辺りは油断しないよう気をつけてもらいたいが。


 そんな彼らが探索者を待つ場所は、行き止まりや宝箱の中、そしてたまにダンジョンを徘徊する等というランダムなもの…と思わせておいて、アズリーが遭遇しやすいように誘導している。そりゃ出会わず何も起らないなんて視聴者からは批判殺到間違えなしだしな。


 おっ…次の犠牲者が現れたようだ。


 モニターに映っているのはフランス人形を持ち上げたヤンキー君。その後ろには三人の少年少女が。


 今回唯一の4人パーティの期待のメンバーだ。やる気も十分。彼らにはぜひとも楽しんでもらいたいが…まあ戦いにもならないだろうな…


 そうして俺は、観客の反応を楽しみながらモニタリングを続けるのであった。



………………………………


……………


……



「ここは一体…」


 突然の出来事に目金はあたりを見回して困惑する。さっきまで目の前にいたはずの二人はいつの間にかいなくなっていて、辺りの景色はさっきまでとは全くの別のものになっていた。


 白い美しい壁は汚れた石レンガの壁に、通路の真ん中には泥のような水が流れていた。天井から滴り落ちる水が肌に触れる。


 どうやら下水道のようだ。


「……転移罠の確率が一番高そうですね。獅子堂さんもこんなふうに飛ばされたのでしょうか?ならすぐ近くにいる可能性もありますね……何もしないよりは、行動するほうが良いでしょう」


 目金はすぐさまそう判断し、歩き出す。


 すると…


「お?目金じゃねぇか!」

「獅子堂さん!無事でしたか!」


 数分程度で、すぐに二人は合流することに成功した。


「獅子堂さんはいつの間にここに?」

「あ?オレはあんたらが部屋に入ったときだよ。一番うしろでドア閉めようとしたら急にここに…」

「なるほど…やはり転移罠のようですね。それでは獅子堂さん、これからは慎重に進みましょう」

「あ?どうしてだよ?転移の罠に警戒すればいいんだろ?」

「いいえ、獅子堂さんが転移されたあと、獅子堂さんが見つけたフランス人形が襲い掛かってきまして…」

「嘘だろ?人形が?」

「はい。まぁ、特級探索者である一条さんがいるので向こうは問題ないと思いますが、こちらは中級と下級、しかも僕は戦闘はあまり得意ではないので、獅子堂さん頼りとなります。できるだけ体力を温存しながら進むのが吉かと」

「お、おぉ…そうだな……あっ?」


 そこで獅子堂は、水のザーッという音に紛れて、カチャカチャという何かが動く音を耳にする。


「どうしまし……これは」


 どんどんと大きくなる音に、目金も気がつく。


 カチカチという音はどんどんと大きくなり、遂に姿を表す。


 それは、彼の身長の倍の大きさのくるみ割り人形であった。


「くるみ割り人ぎょぎょぎょっ!!?「目金っ!!」」


 パンッという乾いた音が通路に響き渡るとほぼ同時に、獅子堂は目金の体を思いっきり引き寄せる。何が?目金が状況を確認しようとくるみ割り人形の方を見ると


 くるみ割り人形はマスケット銃らしきものをこちらに向けていた。


「ちっ…突然襲い掛かってくるなんて…いい度胸じゃねぇか!」


 獅子堂はそう吠え、背中の戦斧を手に持ち飛びかかる。


「オラァっっ!!ぐぬぬっっ…うおっ?マジかよぉっ!??」


 全力で戦斧を叩きつけるが、マスケット銃で戦斧を受け止められ、そのまま押し負けるように吹き飛ばされた。


「ふっっ!!」


 その硬直を狙って、目金は手に持った小型のクロスボウから矢を放つが…


 パンッという音とともに、その矢は粉々に砕けちった。


「矢を撃ち抜く!?一体どこのクレー射撃のプロですか!!」

「おい馬鹿!前見ろ!!」

「───え?」


 理不尽な動きに文句を言いながら、次の矢を番えようとする目金に獅子堂が警告する。


 何が?そう思い目金が前を見ると、そこにはドアップのくるみ割り人形が…


「がぴャッッ!」

「目金を離せっ!」

 

 頭を掴まれた目金を助けようとくるみ割り人形に飛びかかるが、くるみ割り人形はその状態でいとも容易く獅子堂の斧を捌き切り……


「ガフッ!?」


 獅子堂は顎を蹴り上げられる。


 そうして、二人は1分足らずでどちらも意識を失ったのであった。



………………………………


……………


……



「竜崎、今っ!」

「おうよっ!」


 顔を狙った刺突の攻撃を防ぐために髪で顔を覆うフランス人形。その隙を見逃すまいと一条は竜崎の名を呼ぶ。


 竜崎はチャンスを逃さず髪のない胴体を横薙ぎにするが、人形の体が小さく、距離を測りきれずに浅く切り傷をつけただけに終わる。


 そこで入れ替わるように一条が前に出て、剣を振るうが、フランス人形はもう髪を彼らに向けて伸ばしていた。


「せいっ!!やぁっ!!」


 伸びてくる髪を躱し、本体に直接剣を振るうが、どれだけ回数を重ねようとも刃は通らない。


 硬い、そして早い。


 死角からの攻撃すらも防がれるのだから、本当にどうしようもない。


「仕方ないわね……竜崎。逃げますわよ!」

「え!?逃げんの!?」

「そうよ。ワタクシたちじゃ、絶対に勝てないわ」

「はぁっ!?あんた特級探索者だろ?!なのに逃げるって…」

「馬鹿言わないで。上級だからこそ引くのよ。引き際は見失うな、探索者の基本でしょ!」

「…あぁ…そうだな」


 熱くなっていた竜崎は、一条の言葉でどうにか冷静さを取り戻す。


「だけど、どうやって逃げるんだ?背中は見せられないぞ?」

「……そうね。ワタクシが囮になるわ。そのうちにこの部屋から少しでも離れなさい」

「はぁっ?何馬鹿なこと言ってんだよ!それなら男の俺が残ったほうが…」

「馬鹿ね。どっちが逃げても変わらないわよ!」

「うぐっ…それは…」

「早く行きなさい。一個でも宝箱を開けて、儲けが出たら今回のMVPよ!」

「…わかった!」


 そう返事をして、竜崎は扉の方に向かおうとする…


「うぉっ!!!」


 が、扉の手前で転倒する。


 まさか逃げる俺を優先して狙ってきたのか!?そう思い戦う一条とフランス人形の方を見るが、フランス人形は一条の剣を髪で覆い尽くし、彼女の手を髪で縛りあげようとしていただけでこちらに何かしてきた様子はない。


 ただコケただけ、その事実に恥ずかしさが込み上げて来る。一刻も早くこの場から離れなければならないのに…


「がっっ…?!!くっ……そ!!何がっ…!!」


 その瞬間、首を黒い髪に締め上げられる。どうにか手で引き剥がそうとするが黒い髪は金属のワイヤーのように硬い。


 まさか、コケたのもこの髪が…?!


 そのことに気がつくがもう手遅れであった。呼吸ができず、段々と意識が遠のいていく。


 そして意識が途切れる寸前…


「フフッ…」


 視界の先、あと一歩だったはずの扉の前で、美しい市松人形が笑みを浮かべていたような気がした。





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以外特に本編に関係のないあとがき


名前のみの案を自分なりに発展させてみました。 

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 名前︰トリアエル

 詳細︰偶像を司りし大天使

 能力︰三位一体

 消費︰100,000DP


ミエル 

姫カットの黒髪、桜色の和服の市松人形


キコエル

長い金髪に碧眼、赤いドレスのフランス人形


ツタエル

黒い帽子に赤い鮮やかな兵隊姿のくるみ割り人形


オリジナル天使 @zenosax

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