第33話【踊る道化と】とある少年と即席パーティ【笑う観衆】
「よっしゃあああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
「うおっ!?」
全力でガッツポーズをし、そう雄叫びを上げる。
「ちょっと…うるさいんだけど?」
「突然叫ぶんじゃねぇよ、耳に悪いぜ…」
「少し落ち着いたらどうですか?まぁ、喜ぶ気持ちもわかりはしますが…」
周りから何か言われているが、そんなことはどうでもいい。だって俺は選ばれたのだから。
周りを見渡すと、現状を理解できていない者たちが半分、あとは、皆ギラついた目をしていた。それもそのはず、事前情報ではこのダンジョンにはステータスを上げる宝石や、宝くじ1等当選と同じ価値の神薬すら隠されているという話もある。わざわざ東京まで来た甲斐があったぜ!
人間が運営しているダンジョンとか、探索者を見れる大型モニターとか、普通のダンジョンとは全然違うけど、安全そうだし二層はかくれんぼみたいな感じって聞いたし、中級の俺でも行けそうな感じがする。
「……よし、行くか!」
ここでモタモタしている暇はない。どうやら早い者勝ちのようだし、ここは一番に行ったほうが─
「おいおい、ちょっと待てよ!」
そこで、現状を理解していると思われたうちの一人の男に手を掴まれる。
「な、なんだよ?」
「いや、一人で行くのはバカがすることだろ。オレと一緒に行かねぇか?」
「は?あんたと…?」
そんな提案をしてきた男を上から下に眺める。
第一印象は、チャラそうな大学生だ。染めたには染めたが手入れをしていないらしきプリン色の髪、耳にはシルバーのピアス、軽鎧を纏っていて背中には大きな大斧。戦士のようだ。
「でも、俺も戦士だしな…」
「それでも、一人より二人で行ったほうがいいに決まってるじゃねぇか。神薬なんてオークションでの最低価格が七億だぞ?二人で山分けしても余裕で遊べる金が手に入るぜ?」
「た、確かに…わかった、よろしく頼む」
「よしきた!オレの名前は獅子堂狂介、中級探索者だ!」
「俺の名前は竜崎克也。中級探索者だ」
「ふふふっ…話は聞かせてもらいましたよ!」
そんな話をしていた二人の元に、眼鏡をかけた青年が近づいてくる。
「あんたは…?」
「ふっ…僕の名前は目金命…裏の世界では、情報屋と呼ばれています。どうです、僕も連れて行ってはくれませんか?戦いは苦手ですが、罠やモンスターの情報においてはネットの知識など比べ物にならないほどの知識もあります。その場で宝の鑑定も可能ですよ?」
「は、はぁ…」
グイグイとくる目金に気圧される竜崎。
「いいじゃねぇか、人数が多いほうが確率は高くなるんだからよ」
獅子堂は竜崎に向けてそう言う。
「まあ、それもそうか…よろしくな!メガネ!」
「よろしくお願いしますよ、お二人とも!」
「ちなみに、等級はいくつなんだ?」
「僕は下級探索者でありますが、知識の分野でお役に立ってみせましょう!」
力強く答える目金を見て、二人は安心する。
「よし、それじゃあ…」
そして、ようやくダンジョンに向かおうとすると…
「待ちなさい!」
「またかよ!」
彼らの前に、一人の少女が立ち塞がる。
赤みがかった長い金色の髪をツインテールに纏めた可愛らしい少女は、彼らに向けて指を指し言う。
「ワタクシも連れていきなさい!」
「つ、連れて行けって言われても…」
流石に戦力にはならないんじゃ、そう言おうとした竜崎の言葉を遮って目金が叫ぶ。
「…あ、あなたはもしや、一条華鈴さんでは!?」
「……誰だ?」
「し、知らないのですか!?最近東京で噂の探索者、一条家の一人娘である一条華鈴…本物のお嬢様ですよ!」
「へぇ…」
「ほぉーん…」
興奮する目金の話をよくわからないのか不思議そうに目の前の少女を眺める二人。
「お嬢様だかなんだかしらんが、足手まといを抱えるわけには行かないんだ。悪いけど…」
「ふーん…これを見てもそんなことを言えるかしら!」
そう言い彼女は三人にステータスタグを掲げる。そこには筋力2 耐久3 俊敏5 精神3と表示されていた。
「嘘だろ!?君が特級探索者だって!?!」
「そうよ!ふん、貴方達がどうしてもって言うなら、協力してあげてもいいけど…」
彼女がそう言いちらっと彼らの方を見ると…
「「「お願いします!!」」」
三人は、綺麗な掌返しでそう彼女に土下座でお願いするのであった。
………………………………
……………
……
「ん〜…今のところは罠すらありませんね」
「というかただの迷路って感じだな…」
ダンジョンにいの一番に突入して10分程度、特に何もなく順調にダンジョンを進む。
部屋や分かれ道などはそこそこあったが、間違った分かれ道の先はただの行き止まりだったり、沢山ある部屋の中にはロッカーやタンス、ベッドなどの日常でよく見るような物が設置されているだけであった。
「部屋の中にもお宝は無い…し……お?」
雑談をしながら、近くにあった扉を開くと、そこには宝箱があった。
「おぉ!遂に宝か!?」
「ちょっ!罠があるかも──」
そう言い一目散に宝箱に近寄り手をかける獅子堂に目金はそう警告するが獅子堂は勢いのまま宝箱を開き…
「………おん?なんだこれ?」
獅子堂が宝箱に手を入れ、中のものを取り出す。その手には長い髪のフランス人形が握られていた。
「フランス人形ね…なんで宝箱に?」
「もしかして、この人形も高価なものなんじゃねぇか!?」
期待を込めてそう獅子堂は言うが、それはないと一条は否定する。
「…安物のフランス人形だと思うわ。そもそもそんなに有名なフランス人形なんて早々ないもの」
「ちぇっ。じゃあただのハズレかよ」
一条の話を聞いた獅子堂はフランス人形を投げ捨てる。
「んじゃきーとりなおして早く行こうぜ」
「そうだな」
「えぇ」
「了解です」
そうして、彼らはその部屋を後にした。
彼らを目で追うフランス人形に気がつくこともなく…
………………………………
……………
……
「なんかおかしくね?」
「ん?何がだよ」
足を止め、三人にそう話しかける竜崎。
「だって、もう一時間だぜ?流石にここまで何もないのはおかしいだろさっきあった開会式でも結構色々用意してるっていってたし…」
「確かに、よく考えてみればここまで何もないのは少し違和感がありますね?今までの行動は全て映像として放送されているはず…なのにここまで何もないと観客も飽きてしまうでしょう」
「そうね。それにワタクシ達に追いつく探索者がいないのも少しおかし………ひぃっ!!!」
一条が突然悲鳴を上げて後ずさる。
「ど、どうした!」
一条が指を指した方向を見るが、特に何もない。
「い、今、長い金髪の女の子が首を曲がり角から出してこっちをじっと見つめてて…」
「ん…?ん〜…そんなやついないぞ、疲れて見間違えたんじゃないか?少し休むか?」
「そうそう、こんなところに女の子がいるわけ無いだろ?いるとしたら…幽霊とかか?」
「特級探索者も疲れは溜まるものなのですね。一度ここの部屋で休みましょうか」
目金が近くにあった扉を開き、その部屋にぞろぞろと入っていく。
「ふぅ…やっと飯が食える」
各々準備していた食事を鞄から取り出し、口に含む。
「にしてもこの部屋、随分と広いな…他の部屋は奥に壁が見えたのに、ここだけ薄暗くて奥は見えないな」
「それに、なんだか寒くなってきたわね…幽霊ってのが出てくるならここかしら?」
「ば、ばば馬鹿馬鹿しい………おおおばけなんているわけ無いでしょう科学的に考えて……あれ?獅子堂さんは?」
そこで、目金は、目の前に座っている少年とお嬢様を見て疑問を浮かべる。
「……あれ?いまさっきまでここにいたはず…」
竜崎はさっきまで隣にいたはずの影がなくなっていることに気がつく。
顔は確かめていなかったが、確かに隣に誰かが座ったはずだと。
だがそこには…
「……それ…何?」
「うおっ!?なんだこれ!!」
長い金色の髪が大量に散らばっていた。
「一条さんの抜け毛?」
「なわけ無いでしょ!そんなにも抜けたらワタクシ禿げてるわよ!」
「それじゃあその髪は…」
「─ッ──ミ─ケタ」
「ん?目金、なんか言ったか?」
「はい?僕は何も…」
「じゃあ一条さん?」
「違うわよ」
「アソ……ボ?」
「それなら誰が……」
声の聞こえた方を見る。するとそこには…伸びに伸びた髪を引きずるさっき見た人形。
「……は?」
「イッショニ…アソボ!」
「くっ!?」
咄嗟に剣を振るい、こちらに貫こうと伸ばしてきた髪を切断する。
「ふっ!!」
その隙をついて、一条が直接本体に切りかかるが、寸前で膨大な量の髪に受け止められた。
人形から距離を取り、二人で身を寄せ合う。
「…硬いわね…初めて見るタイプだわ」
「ふぅっ…何だこの人形…?こいつが天使なのか?」
見た目はただの髪の長い人形。だがこれは天使というより呪いの人形じゃないか?
「目金!この人形の情報とかないのか!?」
後にいるはずの目金に呼びかけるが返事はない。
何してんだ!そう思い振り返ると…
「……嘘だろ?」
そこにはもう誰もいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます