第24話【我、深層に】バランスブレイカー【突入す!】


「…到着っと」


 フラムに降ろしてもらい、辺りを見渡す。どうやら敵は今のところはいないようだな。


『まじでどうなってるの?』

『ちょ…嘘でしょ?えぇ…?』

『翼は翼だった(?)』

『まるで天使だな。天使だったわ』


 コメント欄は困惑している様子だ。ふっ…彼らはきっと配信が終わったあと検証とか色々するのだろう。そしたらFWは更に増えるだろうな…お前らは俺の養分なんだよ!はーははははっ!!


「そんじゃ行きますか。とりあえず初戦はフラムに任せてもいいか?」

「お任せください」

 

 フラムを先頭にして、ダンジョンの深層を進む。


 少しくらい石レンガの通路だ。普通のダンジョンと比べて結構広い。うちのダンジョンの3分の2くらいの通路だ。


 適当に歩くが、特に変化はない。ほぼ一直線だ。


 確か大地の試練は実力試しのダンジョンというだけあって迷うような迷路ではないのだが、深層も同じ感じのようだな。


 人の気配もない。普通のダンジョンの深層は少ないながらも人がいるらしいが、試練の深層はやはり人気がないようだな。


 まあそれもそうか。モンスターの素材は手に入らないし、他のダンジョンと比べてモンスターの力も数倍以上はある。罠はあまり無いらしいが深層は二階層以降は人が踏み入れたことはないようだし、そこから先は未知の領域、常人なら行こうなんて思わないだろう。


「………っ?」


 すると何者かの気配を感じ取る。


「フゥーッ………フゥーッ………」


 そしてすぐに、通路の奥から黒い化物が現れた。


 真っ黒の筋肉質な体、黄色い角、体長は5m前後で手には巨大なメイスを持っている。こいつは…


『オーガ…か?』

『なんかめっちゃ強そうじゃね?』

『黒いオーガとか珍しいな』

『赤じゃないんだ』

『あれはブラックオーガじゃ!確か普通のダンジョンではボスモンスターとして現れるオーガの最上位種で推奨等級は王級じゃぞ!とんでもない筋力で一撃でも攻撃を受ければ帝級探索者でもひとたまりもないぞ!』

『流石深層、オーガの上位種も出てくんのかよ…』

『なんでボスモンスターが普通に出てくるんですかねぇ?』

『普通のダンジョンの深層ってこんなに地獄じゃないよな…?』

『なんで試練の深層はこんな化物しかいないんだ?』


 確か、赤いオーガは通常モンスターの中でも結構強い部類だったよな?色や大きさから上位種なのは間違いなさそうだ。


 普通の深層だと出てこないということは、やはり試練のダンジョンは特別ということなのだろう。


 まだ距離はあるはずなのに、尋常じゃないほどの威圧感を感じる。


 俺が戦えば命を落とす可能性は全然ありそうなレベルだが…


「フラム、やれるか?」

「お任せください」


 フラムにそう声をかけると、彼女はオーガに向かって進む。


『え!?』

『フラムたん一人でやらせんの?』

『流石にルエルたんは手伝ったほうがいいんじゃ…』

『まじで馬鹿なのか?』

『女に戦わせて自分は後ろで待機とかノスターさんまじかよ…』


 散々な言われようである。


「まあ、そう思うのも当然だが…安心してくれ、ルエルのときと一緒だ。フラムは俺より強い」


 フラムは剣を構え、目で捉えられぬほどの速度でオーガの目の前に出現する。


 走り出した音も、振るった音すら聞こえないほどの静寂の一閃で彼女はオーガの右腕を斬り落とした。


「ゴガァァァァァァ!!!」


 オーガは腕を落とされたことに怒ったのか、雄叫びを上げながら彼女に向けて左腕を叩きつける。


 ガンッ!!という音とともにダンジョンの床に拳が叩きつけられる。


 拳を持ち上げると砕けた地面が見えるが、彼女はもうそこにはいない。


「───死になさい」


 いつの間にかオーガの後ろに回っていたフラムは、横薙ぎでオーガの首を刎ねる。


 そうして、首がなくなったオーガの体はそのまま、床に倒れたのであった。


『えええぇ…??』

『あれ?何でオーガ死んでるの?』

『……早すぎないか?』

『瞬きしてたら見逃したんだけど』

『恐ろしく早い攻防。俺は見逃したね』

『もしかしてフラムたんって帝級探索者なの?』


「どうでしょうか?主よ」

「うん。強すぎ」


 正直生で見ていた俺ですら動いたところを認識できなかった。映像であれば何が起こったのかもわからなかっただろう。


 多分神の炎という能力も剣の力も使っていないだろう。純粋な身体能力でこの力か…やばいなこりゃ…


「ま、とりあえずここからは俺がメインで戦うからフラムとルエルはいざというときの為にしっかり見といてくれ」

「了解致しました」


『え?もう出番終わったの?』

『なんで?もうフラムたんに任せればいいやん』

『竜も一人で倒せそうじゃね…?』


 フラムに深層を攻略してもらい、最後の宝玉だけ俺が破壊すればいいんじゃないか?俺も最初はそう考えたが、残念ながらそこまで上手くはできていないようなのである。


 その理由だが天使は俺または宝玉から離れると弱体化するらしいのだ。


 何故?ルエルがそういったのだからそうなのである。


 それに、結局最終局面では俺も戦わなきゃならなくなるみたいだし戦闘のコツは掴んでおいたほうがいいだろう。ステータスはダンジョンパワーでどうにかするとしてもだ。


 というわけでここからは俺の番だ。


「ま、俺も二人ににおんぶ抱っこされてるわけじゃないってところは見せておきたいんだよ」


 とはいえそんなことを説明しても伝わらないと思ったので、適当にそんなことを視聴者には話す。


 初めはもう少し弱いやつがいいんだけどなぁ。


 多分あのオーガなら勝てるかは五分五分といったところだろう。


 ………おっ、消えたな。


 オーガの死体が光となって消滅する。ドロップは無しか。まあ当然だな。


 バールをしっかりと握り、少し慎重にダンジョンを歩き出す。まだ一層なのにあんな化物が出てくるなんて本当に狂ってると思う。こんなダンジョンクリアしようと考えるほうがおかしいのである。


 そんなことを考えながら、俺は深層を進むのであった。



 

          ▼




 フラムの初戦から数十分、視聴者と会話をしながらダンジョンを進む。罠があればルエルが指摘してくれるし、そこまで警戒しなくても問題ないことに気がついたからだ。


『オーガから全然何もないな』

『なんか全然モンスターいないな』

『普通のダンジョンより少ないの?』

『宝箱も罠もないね』


「そうだなんだよなぁ…お宝もないとテンション上がらないし」


 結構どんどんと進んでいるのだが、やはり目ぼしい物は何もない。


 ダンジョンといえば宝や素材があってこそだと思うのだが…なんでだろうか?


(人に来てほしくないから…とか?)


 よく考えてみればダンジョンにお宝を設置する理由は集客、つまりFWを増やすためだろう。なら、宝がないということは、この奥には来てほしくない理由があるということではないだろうか。


 つまりやはり深層はDPを貯めておくための倉庫ということなのだろう。だが、そのことを知らない人々は探索しても美味しくない深層を攻略はしない、という…


「マスター!」

「っ!」


 ルエルが俺を呼んだと同時に、通路の奥で黒い影が蠢く。それを認識した瞬間、俺は全力で身体を傾けた。


 ガキンッという金属音が空洞内に響き渡る。


「危っっな!?」


 俺の目の前には深緑の色の鬼がいた。手には大きな野太刀らしき刀を持っていて、それを俺に向けて振り下ろしていたのだった。


「危ないじゃねぇか…よ!!!」

「グギッ!?」


 野太刀を振り下ろし、無防備な鬼の腹に全力の一撃を御見舞する。


 フルスイングを受けた鬼は、そのまま壁に吹き飛び、壁に激突する。


「舐めた真似しやがって…」


 土煙の中から、鬼はゆっくりと姿を表す。


『ゴブリンじゃん』

『なんか厳つい?』

『ゴブリンって野太刀持てるの?』

『オーガ…には見えないな。身長低いし』

『ゴブ…リン?』


 見た目はゴブリン、というのが一番正しいだろうが、この気配は普通のゴブリンとは思えない。だけど…


「ゴブリンの上位種ってでかくなかったっけ?」


 確かゴブリンの上位種はオーガやオークと変わらないようなビックサイズだったはずだ。1、2mのこんな人型サイズではなかったはずだが…


「……まあいいや。とりあえずぶっ飛ばしてから考えよう」


 俺はバールをしっかりと握り直し、ルエルを確認する。


 ルエルは棒立ちでこちらの方を眺めている。人間サイズに有効な攻撃手段は殲滅兵器以外は持ってないもんな…


 どうやら俺がやらなくてはならないようだ。


「────ふっ!」


 距離を詰める。武器は取り回しの悪い野太刀。できるだけ至近距離で戦うのがいいだろうっ!


「ぬりゃっ!!」


 野太刀の腹をバールで叩き反らして、その隙をついて殴りつける。


 が、当たりどころが悪かったのか先程と同じようには吹き飛ばない。


「おっ!?」

「ガァッ!!」

「おんりゃっ!!!!」


 振るわれた野太刀を体を反らして回避し、そのままの勢いで足を使って顎を蹴り上げる。仰け反ったゴブリンはたたらを踏みながら俺から離れた。


 やはり硬い。一撃で仕留めれれば楽なんだけど…


「無理は必要か…」


 このままだとジリ貧なのは明らか。少しは無理をすることも必要ってことだろう…


「………よし。やるか」


 腰を落とし、動きをしっかりと見る。そして、奴が痺れを切らし、動き出したと同時に…飛びかかる!!

 

「グガァァァッ!!!」

「こなくそっ!!」


 正面から、大振りの一撃を受け止める。手が痺れるが…行ける!


 受け止めたバールの先で野太刀を引っ掛けで横にずらし、ゴブリンのバランスを崩して首に手を伸ばす。そして…


「死ねっ!!」


 ゴブリンの頭を掴み、膝を叩き込む。


 グチャッという音と、骨と肉を砕き潰す感触。そしてゴブリンの体から力が抜ける。どうやら完全に死んだようだ。


「ふぅ……どうよ?」


 ゴブリンから手を離し、すぐさまカメラの方を向き視聴者に感想を求めると…


『結構強い』

『見直したぞ』

『流石にゴブリンには負けないか』

『ドヤ顔やめろ』

『ゴブリン程度でイキるな』


 そこには意外と賞賛のコメントで溢れていた。


 おぉぉぉ…承認欲求が満たされるぅ。


 ネットで生きてきた俺にとっては承認欲求は非常に大事なモチベーションになるし、こういう地下のダンジョンはモチベーションが大事だ。ずっと暗い地下にいると気分が落ち込んでくるからな。


「まあ、このくらい俺にかかれば余裕って…わ…け……」


 そうやってコメントにイキっていると、カンカンっという通路を歩く音が響く。


 そして、ダンジョンの奥からさっきと同じ五体の鬼が、新たに姿を表したのであった。


『ほら、余裕なんだろ?早よ倒せよ』

『これは草生える』

『即落ち二コマかな??』

『頑張れノスターww』


 ……\(^o^)/



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る