第25話【我、深層に】バランスブレイカー【突入す!】
「はぁっ……はぁっ………いてぇ…」
通路のど真ん中に仰向けで倒れ、息を荒らげる。目の前には最後の一体のゴブリンの死体があった。
五体のゴブリンが現れてから約三十分の攻防を制したのは俺であった。
ちなみに二人はその様子を一人は心配そうに、もう一人は何を考えているのかわからない表情で眺めていた。まあ死にそうにないなら助けなくていいって言ったけどさぁ!怪我したのに助けてくれないのは予想外だよ!
腕は囲まれたときに棍棒で殴られ骨折、腹には矢が刺さっている。ところどころに打撲の跡と出血が確認できる。
うん、普通に死ぬよ?
『ボコボコで草』
『意外と人間って頑丈なんだな』
『普通にヤバそう』
『まあ深層に挑むとか馬鹿な真似してるからそうなるんだよ』
『自業自得』
視聴者も全然心配してくれないし…え?なに?探索者はいつの間にこんなきつい世界になったの?
このレベルの怪我なら、入院することもあるレベルだ。なのにこいつらときたら…
っと、そんなことを考えている暇なんてないわ!
こんな時のために、ちゃんと回復手段は用意してあるのである。
「ルエル、ポーションくれ…」
「わかりました」
俺がそう言うと、彼女は小さなポーチから緑色の液体の入った小さな瓶を取り出し、俺の口に突っ込む。
「ガポッ!?ぱぽぽぴっぷ!!!ぷはぁっっ!!!え!?なんか酷くね!!?」
雑である!なんか最近ルエルが厳しい気がするんですが!?
抗議するようにルエルの方を見るが、彼女はいつも通りの表情でこちらを見ている。えぇ?何?怖いんだけど。何なんだ?何か不満があるのか…!?
『今のって中級ポーション?』
『中級って結構高かったよな?』
『確かオークションとかだと三十万だっけ?』
『まじでノスター金持ち説あるな』
『ルエルたんもフラムたんもその繋がりとかありそう』
『骨折まで治すって中級以上はあるよなぁ…それを1瓶まるまる飲み干すなんて…』
そこで、コメント欄が盛り上がっていることに気がつく。あぁ、そういえばポーションって怪我を塞ぐ以外は結構な高級ポーションになるんだったか?
DPとリアルマネーのアイテムの価値が違いすぎて何を使っても問題ないのかわかりにくいな…
だが、よく考えれば高いのを使ってうちにはこういうものがあるよーってのをアピールするのも有りではあるな…
「怪我は…治ったかな?」
腕を回し、体の感覚を確かめる。うむ、どうやら完全に治ったようだな。
にしても本当に強かったな…あんなゴブリンは初めてだ。
これからもあんな奴らがバンバン出てくるのなら、結構厳しい戦いになりそうである。
深層が他と同じように階層が上がるにつれてモンスターの強さが上がるのなら普通に今の実力じゃ進めないな。
あまり好きではないが、やはり人数でゴリ押すのが一番か…フラムに任せてもいいが、あまり一人に負担を掛けているとフラムではなく視聴者が文句を言い出すだろう。
今回は区切りのいいところで帰って…ダンジョンを作ってFWを稼いで天使を増やして物量作戦…これだな。
「お?これは…」
そこで、少し前に倒したゴブリンの死体が消えた場所に、何かが落ちているのを発見し拾い上げる。
それは、赤い玉であった。
「力の宝石かぁ…微妙だな」
『微妙???』
『くれ!』
『要らないなら俺に寄越せ!!』
『微妙って…え?それめっちゃ高いよ?』
『確かオークションで、五千万円だっけ?』
『中級ポーションなんて比にならないレベルだよな…』
え?五千万??
「嘘でしょ!?この宝石五千万もするの!?」
驚きである。これそんなに高かったんだ…
確かうちには使ってない宝石が一つずつあるはずだから、合計二億円…?
それだけ大金があればもうダンジョンで生活しなくても…いやいや、何考えてんだ俺!俺の仕事は世界を救うことだろ!
危ない危ない…あと少しでニート生活まっしぐらであった。
「ん〜…まあ、この宝石は俺のダンジョンの宝箱に入れることにするよ」
『それガチだったらまじで燃える』
『ここまでノスターの言ってることが本当であれと願ったことはない』
『五千万を簡単に手放すわけ無いだろwwwやっぱ馬鹿だな視聴者はwwww』
『ホントだったら崇め奉るわ』
コメント欄は三信七疑といったところだな。
そうやって話をしながら時間を潰し、ゴブリンの死体がすべて消えたのを確認してからダンジョンの奥に進む。
やはり、モンスターは少ないな。これだけ歩いてオーガとゴブリン6匹だけ。普通なら数十体は相手にする距離だ。
敵が少ないのは助かるが、配信的にはやはり見どころが少ないとFWが増えないからな…あっ。
「ここまでか…」
通路の先には、先の見えない下への階段があった。
とりあえず降りてみるか。ヤバそうなら上ればいいだけだし、そう考え階段を下っていくと…
「おっ!?これは…!」
一気に視界が明るくなり、暖かい風が吹く。ここは…
「地上型か!」
そこには、美しい草原が広がっていた。
果てしない地平線に青い空と明るい太陽、反対側には雲よりも高い大きな山。
どう見ても地上だが、ここはダンジョンである。
ダンジョンには色々な形が存在する。
城型や塔型という地上に現れる建造物型のダンジョン。
洞窟や今さっきまでいたような石レンガの壁、俺の神殿廊下風など外に影響のない通路型ダンジョン。
そして最後が地球ではない別次元に存在する世界に移動すると言われている、火山や海、草原や森といった広大なサイズの地上型ダンジョンだ。
深層の二層は地上型と聞いていたが…実際に目にするとネットで見たものと全然違う。本当の地上にしか思えない。
長い階段を下り、草原に降り立つ。草の感触は、完全にリアルだ。
「おぉ〜」
こんなにも自然を感じたのは久々である。
いいな。うちにもほしい。探索者用ではなく自分の娯楽用に作ってみてもいいかもしれないな。DPに余裕がないうちはできないが…
周辺には目立つものは特にない。遠くにはモンスターらしき影が見えるが、こちらには気がついていないようだ。
「それじゃあ今回はここまでということで…どうだった?」
『おもろかった』
『深層の二階層まで行けるとは思わなかった』
『帰ったらダンジョン運営?』
『下級探索者が深層攻略って頭イカれてるだろwww』
『下級でも深層入っていいの?』
『どこのダンジョンにも等級の上限下限はない。ただ、等級が高いと直接この素材がほしいとかの依頼が入るようになる』
『今後の予定は?』
「そうだな…正直これより先はまだ厳しそうだし、今後の動きをしっかりと考えてからスレ立てるわ。もしかしたら次はダンジョン運営の安価するかも」
『了解〜』
『楽しみにしてるぞ』
『これホントだったら激アツだな』
『ワンちゃん真実じゃないかって期待している俺がいる』
『力の宝石くれ』
「それじゃあまた…」
「主よ。私の後ろに」
「んえ?」
配信を終わろうとカメラに手を伸ばそうとしたとき、突如フラムが俺の前に立つ。一体どうしたのか、そう聞く間もなく、目の前の地面が爆発した。
『おぉぉ!!!???』
『でかっ!!!??』
『なにこいつ…』
『ミミズ…?』
『キモすぎんだろ!』
『ワームだァァァ!!!』
そこには、さっきのオーガよりもでかい…10m超えの巨大なミミズ?がいた。
テカテカヌメヌメとしたピンクっぽい色の体、ギザギザとした歯のついた口とブルブルの唇。
体には謎の粘液が付着していて、動くごとにその粘液を散らしている。
地面をぶち抜いて俺を食おうとしていたようだな……いやきっしょ!!
「主よ、どう致しましょうか?」
「跡形もなく消し飛ばせ」
彼女にそう命令を下す。
「参ります」
俺の要望に応えようと彼女はワームに向けて剣先を向ける。
「主の炎にその身を焦がせ」
そして神炎の剣はダンジョンで使用した時とは比べ物にならないほどの光を纏い…耳を劈くような轟音と、太陽の中心にいるかのような光を放ち爆発した。
「おぉぉぉぉ!!?!!!?」
膨大なエネルギーと熱が肌を包み込む。
そして、目を開けると視界の先は隕石でも落ちたのかと思うようなクレーターになっていた。ドロドロに溶けた大地は、どれだけの威力だったのかを物語っていた。
体を確認する。おぉ、ちゃんと生きてる…
自分の体が思った以上に丈夫だった…ことはなく、フラムがしっかりと配慮してくれたのだろう。
ルエルも無事だし、今回は前とは同じような問題はなさそう…
「…………あっ」
辺りを見渡すと、そこには余波に巻き込まれ壊れたドローンの残骸が落ちていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます