第16話【配信者は】順調な活動は油断を招く【厄介ファンも多い】
「っ!避けろっ!!」
そう叫び、呆然と立ち尽くす彼女を引っ張り、全力で横に飛び転がる。
その瞬間、目の前を眩い光が通り過ぎだ。そしてその光は壁にぶつかり、凄まじい勢い衝撃と轟音を体に感じる。
「あれがブレスってやつ!?威力やばすぎだろ!?」
ブレス、竜の咆哮とも呼ばれるそのレーザービームのような一撃は、竜の咆哮と言うにふさわしい威力であった。
これ…やばいかも!?
『逃げて!超逃げて!』
『あれ何!?ドラゴン!?』
『あれは中位…いや、上位竜じゃ!深層でも数体しか確認されてなくて、討伐された記録もない化物の中の化物じゃぞ!!?』
『上位竜ってあれだよな?帝級探索者二人が死ぬ気で逃げ帰った化物?』
『大地の試練にもいるんだ!?』
暴力的なまでの威圧感とその気配。
深層にいると聞いていたが、まさかここまでとは…!
茶色のゴツゴツした体と背中にはたくさんの水晶、地竜と言うやつだろうか?
先程のコメントに見えた上位竜という情報が正しいのなら、奴は500,000DPの最高額ドラゴンってことだろう。
こんな序盤の場所に出てくるって頭おかしいんじゃないの?普通最初はもっと弱いやつでしょ!
「グルルルルルルルル………」
竜は、唸りながらこちらの方を睨んでいる。
ルエルは…どうやら少し離れていたため当たらなかったようだ。
どうするか…そんなの決まってる。
「やるしか…ないってやつだよなぁっ!!」
バールを構え、全力で突っ込む。
作戦とはとても大事だ。仲間の能力やできることを把握し、役割を与え効率的に全体を動かす。
だが、俺にそんな完璧な作戦が考えられるわけがないぃっ!
「かっっ!!!?!」
硬すぎるだろ!?
正面から全力で叩きつけるが、信じられない硬さである。
まるでダンジョンの壁を拳で殴ったような鈍い衝撃がバールを握る俺の腕に響く。
これは本格的に対策を考えないとっ!?
そこで、いつの間にか目の前まで迫っていた爪を躱す。あぶねぇっ!??
本当にギリギリだった。あと少し遅れていたら死んでっ!!!??
そこで、突然腕を引かれる。
「うおっ!!!?」
その瞬間、目の前を竜の尻尾が通り過ぎる。
「大丈夫ですか!?」
「ありがと!超助かった!!」
攻撃を避けたためか、敵の前だというのに完全に気を抜いていた。
神々さんに腕を引っ張られていなければ確実に死んでいただろう。
「これからどうしますか?」
「どうするかって言われても…なんか作戦とかある?」
「……私は4と3と6でスキルは無しで、あの竜にダメージを与えるのは無理です。申し訳ありません…」
彼女とともに、一度竜から距離をとって作戦会議をする。
竜は一撃の威力も脅威だが、防御力という面でも圧倒的だ。あの鱗を貫通してダメージを与えるには…
(あれが当たれば…いけるか?)
ルエルの右腕に装着されたパイルバンカーを見てそう考える。バスターランチャーは殲滅兵器。ここでは使えないだろうがあの兵器なら…
まだ一度も使ったことのない兵器だが、あの武器の威力はアニメで見たことがある。
あのレベルの威力が出せるのなら、上位竜と言えど確実にダメージを与えられるだろう。
「ルエル、パイルバンカーの準備を頼む」
「無理です」
「んえ?」
予想外の回答が返ってきて驚く。あれ?こういうときってはいとかわかりましたが基本じゃなかった?
もしかしてこの土壇場で今までこき使いやがってみたいな不満爆発…と…か………?
「……あれ?」
そういえば、よくよく思い返してみると…
「もしかして、ルエルって走れない?」
「はい。構えることは可能ですが、これを持って走ることは不可能です」
「ランチャーを置いたら?」
「無理です」
「ちなみにそれって何キロあるの?」
「合わせて3tです」
俺は彼女にとんでもない重しを持たせていたようだ。
え?3tをずっと担いでたの?確かにそういえばルエルが走ってるところ見たことはなかった。それに俺が死にそうなさっきのときも全然助けに来てくれなかったけど…もしかして走れないからってこと?
「撃つのも厳しい感じ?」
「撃てはしますが、射程の問題が…」
「射程か…」
そりゃそうだ。パイルバンカーはほぼゼロ距離で放つ超近距離兵器。
重量の問題もあって早歩きが限界なのなら…無理だ。奴の攻撃を掻い潜りながら接触できるとは思えない。こちらで注意をひきつけても、どこかで巻き込まれるか気づかれるだろう。
それならルエルのスピードか筋力を上げるしかないが…
──────────────
DP︰17,000
FW︰450,000
『召喚』『調整』『交換』
──────────────
(DPが足りないな…FWは……え!?なんでこんなに増えてんの!?)
確か昨日確認したときは八万いくらかくらいだったはずなんだけど…
いや…よく考えてみれば妥当か?SNSで俺のことをいいなと思うだけでFWが増えるなら、彼女の視聴者以外にもSNSでさっきの大穴のシーンを見た人たちがいいなと思ってくれることもあるだろう。
とはいえ、これだけFWがいるなら明日になればどうにかなるかもしれない。
ドローンの下に記された時間は23時45分…つまりあと15分か。
「神々さん!一つ作戦があるんだけど!」
「何でしょう?」
「…あと15分、時間を稼ぎたい…協力してくれないか?」
15分。この化物を相手に15分なんて、普通ならただの自殺行為だと王級探索者の彼女ならわかるだろう。だが…
「わかりました。15分ですね?」
そんな無茶な願いを、あっさりと引き受けてくれる。
彼女が俺達を見捨てれば、多分彼女は一人で逃げ切ることができるはずだ。それでもここに残ってくれるということは…本当に彼女は善人というものなのだろうな。人気になった理由もわかる気がする。
っと…そんなことは置いといてあと15分。何がなんでも時間を稼がねば…
「ルエルはとりあえず端で待機。絶対にダメージを受けるなよ?」
「了解です」
ルエルもしパイルバンカーを撃てなくなれば完全に詰みだ。ルエルが行動できなくなることだけは避けなければならない。
本当なら武器を下ろしてもらい戦闘に参加してもらいたいが、それで彼女がやられでもしたら絶望だしな。
「ふぅ…そんじゃ、行くぞクソトカゲ!」
ここで待機は悪手。奴に攻撃させる隙を与えてはならない。
ダメージが通らないのはわかっているが、だからといって何もせずに突っ立ってるわけにはいかない。できるだけルエルからヘイトを逸らさないといけないのだ。
「おん……どりゃっ!」
土竜の腹に全力でバールを叩き上げる。ダメージは…ないか。鱗のない場所ならと思ったが、やはりそんなこと関係ないらしい。
「っと」
振るわれる爪を余裕を持って躱し、距離を取る。やはり速度はそこまでだ。全体的に動きを見ておけば近接攻撃は当たらない。
「シッ!」
そして竜がこちらに注目した隙をついて、神々さんが青と黒色のシンプルな装飾の西洋剣を振るうが、やはりキンッという甲高い音とともに弾かれる。
速度はゆっくりだが、余裕と言えるほど遅くもない。奴の一撃をもろに受ければ確実に即死で鋼鉄のように硬い体。
こんな化物、ルエルがいなければどうやって攻略すればいいんだ?どう考えても普通の探索者が勝てる相手ではないだろう。
「おっ!?」
そこで、飛んできた岩を避ける。なんだと思い竜の方を見ると、奴の上には数十の岩石が。スキルも使えるのかよ…
「ふっ…!おっ…!とぉっ!」
情けない声を上げながらも、竜の投石を避ける。早いが、こちらもやはり避けられないほどではない。このままどうにか躱し続ければぁぁ?!
そう考えていたとき、竜が飛んだ、というか跳んだ。いや、まあドラゴンなんだから飛ぶのは当然なのだが…その体で…?!
「んぬっぅ!!!」
右に飛び、竜のプレスを躱す。
ダンッ!という音とともに、地面がまるでガラスが割れたように砕ける。
すべてがギリギリで、あと一歩でも遅れれば死ぬという恐怖が体を急かす。早く、早く、早く…
時間は…23時47分。
「嘘だろ?今ので2分かよ…」
15分という短い時間のはずなのに、彼らにとってはまるで永遠にも感じられるほどの長い長い戦いが幕を開けたのだった。
▼
「はぁっ…はぁっ……」
体力には余裕があるはずなのに、呼吸が乱れる。時間は…59分23秒…あと37秒ですか…
落ち着け、そう心に言い聞かせるが、その意思に反するように心臓は勢い良く鼓動する。
震える手で剣を握り直す。こうなった原因は私なのに、彼にばかり任せるわけにはいかない。
「っ!!!せぁっ!!!」
攻撃の硬直を狙って目に剣を突き立てるが、無意味と言わんばかりに甲高い金属音とともに弾かれた。目すらこんなに硬いなんて…!
『逃げたほうがいいんじゃ??』
『なんか戦ってくれてるし彼に任せて逃げよう!』
『ダメージ与えられないならやる意味ないよ!』
『怪我しないで!』
ちらりと見えたコメント欄は、まるで私ではどうしようもないと言うようなコメントばかりだった。
心配してくれているのだろう。
警告してくれてるのだろう。
生きてほしいと願ってくれているのだろう。
────────鬱陶しい。
私が、探索者を始めた理由は、ただの気まぐれだった。
見た目が良くて、性格が良くて、才能があって…何もかもが完璧で特別扱い。
だから、才能がすべての探索者になった。もしかしたら才能がないかもしれない。努力できるかもしれないと、そう思って。
だが、現実は残酷だった。
探索者になり、世界最速で王級になった。かかった期間は約一年。ステータスも簡単に上がり、挫折なんて一度も味合わなかった。
配信者を始めた理由も、少しでも難しくなればいいと思ったから。話をしながらダンジョンを探索するという枷を自分に掛けただけ。それでも余裕だったのだから、本当に才能というものはどうしようもない。
そんな私だったが、1週間前に初めて探索で行き詰まった。
俊敏で、モンスターを一瞬で討伐するという手法で戦っていた私には、大地の試練の下層のゴーレムはとても固く、全く歯が立たなかったのである。
嬉しかった。
自分の才能が通じないことが、どうしようもないほどに嬉しかったのだ。
そして、彼との出会い。
才能、容姿、生まれ、誰もが彼女のことを特別として扱った。
自分のことを、ただの美月として見てくれたのは彼が初めてだった、しっかりと目を見て話してくれたのは…彼が初めてだったのだ。
彼と過ごした時間は数分もないだろう。だが、それなのに彼に強く惹かれていた。
「出会いは…最悪でしたけど…」
彼との出会いを思い出して、顔が熱くなる。思った以上に押しの強い人に絡まれて困っていたときに助けられたのが一番最初、そして、次が暴漢に怯えて穴に落ちるなんて醜態…
だが、こんな状況でこんなことを思うのは場違いかもしれないが今の私は今までの人生の中で最も幸せだ。
死ぬかもしれない場所、竜という名の強敵、自分を自分として見てくれる仲間…こんな完璧な条件が揃っていることなど、人生で早々ないだろう。
「だからこそ…期待に応えなければならないのです」
その瞬間、目の前に影が差す。上を見上げると、そこには大きく跳んだ竜。
なかなか攻撃が当たらない彼は置いておいて竜は、まず私を仕留めに、ということですか…
「舐めないでください」
剣を構え、竜に向ける。
『避けて!!?』
『無理でしょ!』
『死の恐怖でおかしくなったか?』
『やっぱ女探索者って…』
『早く避けないと!』
「ふふっ…」
初のお披露目は今日のつもりではありませんでしたが…
これから彼は竜を討伐するのだろう。なら、それに負けないくらいのインパクトがなければ自分なんてただの空気になってしまう。
だからこそ、彼や自分に命の危機があってもこの15分間隠し続けた。
別にもっと有名になりたいとか、フォロワー数を増やしたいとかそういうことではない。
目的はただ一つ。彼の印象に残るために。
そして…このタイミングこそが、一番輝ける最高の瞬間!
「─────────弾け!」
落ちてきた竜が剣に触れる寸前、そう彼女が叫んだと同時に…
「ォぉぉぉっっっっ!!!!???!」
信じられない爆発音とともに、竜は宙を舞ったのだった。
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