第15話【配信者は】順調な活動は油断を招く【厄介ファンも多い】
「あっぶねぇ………」
大きなクッションから体を起こす。どうやら、無事に生き残ることができたようだ。
彼女は…気絶しているようだが息はしている。多分問題はないだろう。
「ルエルは?無事か?」
「はい。問題ありません」
「そうか。なら全員無事みたいだな…」
薄暗い部屋の少し離れた場所で、石畳を砕いて着地したらしきルエルが見える。
とりあえずは全員生きている…が、問題はここから帰れるかどうかだな。
「よし、ルエル。ローブを脱いで動きやすい格好になれ。もしもの時はルエルにも戦ってもらうことになると思うから」
「わかりました」
こうなったらどうしようもない。深層から上がるためにはこの大穴を登らなければならないが、流石に下からだと厳しそうだ。あと2日あればルエルの飛行機能でも購入できるが、そんなに長居するつもりもなかったため食料がない。
多分彼女は有名配信者だし、すぐに救援が来ると思うが…
「お?」
そこで、上からふわふわと2つの玉が降りてきた。
『無事!?』
『マジで良かったぁ!』
『みみちゃん起きて!』
『誰その男?』
『良かったよぉぉぉぉ!!』
『怪我もないし生きてるよね?無事だよね!?』
こっちは…どうやら彼女の配信のようだな。みんな彼女の心配をしている。俺の顔は写ってしまったが…まあもうこんな時にどうこう言っている暇はないだろう。
というか同接35万人!?どうなってんだこれ!?
そう思うが、そういえば彼女は深層に落ちたのだから、ファン以外にも、SNSとかでニュースとかになってるだろうしそんな人たちが見に来ているのだろう。
そして俺の配信の方は…
『お前…!見直したぞ!』
『美少女を救うために深層にダイブとか…え?アニメの主人公?』
『空中であんな動きするとは思わなかった』
『カメラ遅くて最後の最後だけ見れなかったんだけど、どうやってそのクッション出したの?』
『ルエルたんTUEEEE』
『なんかノスターの身体能力めっちゃ上がってなかった?』
『みみちゃんを助けてくれてありがとう!』
うむ。賞賛の嵐のようだ。ふふふ…俺の承認欲求が満たされていくぞ…俺のFWが増えていくぞぉ!
これは嬉しい誤算だ。他にも気づいた神々美月の視聴者がこちらに流れてフォローしてくれているようで、フォロワー数がうなぎのぼりである。まだまだ増えることも予想できるし、ダンジョンメニューを確認するのも楽しみだ。
「あー…えーっと…、はじめまして?神々美月さんの視聴者さん方…?ノスターって言います…」
『みみちゃんは無事ですか?』
『気絶してるの?』
『怪我してない?』
『手出すなよ?本気で〇死に行くぞ?』
『後ろのちょっと遠くの大きい白いのなに?幽霊?』
「と、とりあえず落ち着いて…一応見た感じ怪我もないし、気絶?というか寝てるだけだから大丈夫だと思う。専門外だからそこまで精密なことはい、言えないけど…」
『なんかどもってない?wwww』
『緊張しすぎだろwwww』
『いつもの性格はどうしたwww』
「うるせっ、35万人の前でまともに話せるわけ無いだろ!」
俺のことを笑う視聴者に軽口を叩く。ふぅ…少しだけ緊張が溶けた気がする。
「そういえば、誰か協会に連絡してくれた?実はダンジョン用の連絡手段、このドローンしか持ってなくて…」
『連絡したぞ』
『一応俺もした』
『でも配信は繋がってるんだな?』
『この配信に使われてるカメラはネットとか電波とかそういう次元じゃないらしい。どこかの天才研究者が天田財閥と合同で作り出したらしい』
『へぇ…すげぇ』
『こっちも連絡したけど混み合ってた。多分みんな連絡してるっぽい』
どうやら救援は来そうな感じだな。だが、この大穴に助けとなるとどれくらい時間がかかるのか…
「どれくらいかかるとか情報ある?」
『早くても12時間だって』
「12時間か…」
今が23時だから、明日の11時か…
とりあえず、この場で待機がベストだな。少し探索したいという気持ちもあるが、彼女を置いていくわけには行かないしな…
『ねぇ、さっきから配信画面に写ってる白いの幽霊?モンスター?めっちゃ怖いんだけど』
『わかる。俺も見えてた』
『深層の幽霊とか普通に呪い殺してきそう』
『まじで見えるんだけど、カメラの汚れとかひび割れ?』
すると、彼女の配信がざわつき出す。白い幽霊…?あぁ、少し遠くで待機してるルエルのことか?そういえば、このドローンのカメラは遠くにいる人間をプライバシー保護の観点で自動でぼかし処理するみたいな話を聞いたことがあるな。
「ルエル、こっちにおいで」
美月氏の視聴者が不安がっているので遠くで待機しているルエルをこちらに呼び寄せる。すると…
『うぉぉぉ!?!』
『はぁっ!?』
『美少女キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』
『可愛すぎ!?』
『天使?』
『翼生えてるやん』
『みみタソに負けないレベルでやばい』
『名前教えてー!?』
『ふぉおおおおおお』
『やったー!久しぶりのルエルたんだー!』
『ルエルたんマジ天使!』
『なんでローブを脱いでるの?最高なんだけど!?』
『スクショタイムキタコレ』
『ルエルたんもっと視線くれー!』
『ズームお願いしますよ旦那ぁ!』
両者のコメント欄が一気に盛り上がる。
これくらいの宣伝活動は許してもらいたい。なんだって命を助けたんだからね。
視聴者が望むがままにルエルたんをいろんな角度から撮影する。ちなみに動かしているカメラは俺のだけだ。この映像が見たいなら、こっちの配信に来るんだな!
そうやってルエルを撮影していると、同接が凄まじい勢いで上昇する。はっ、やはり男なんてチョロいもんよ!別にHなポーズをしてもらっているわけでもないのにすぐ可愛い女の子に釣られて…
「…あ…あの…」
声が聞こえ、振り返ると意識が戻ったのか、こちらの方を見つめる神々さん。ふむ、ふむふむふむ…
「えっ…あ…何が…」
彼女の周りを回りながらジロジロと確認する。
「よし!怪我はないね!」
起き上がってから怪我をしてて、それで何か言われたら嫌だからな。しっかり確かめておかないと。
怪我がないなら問題はない。状況説明は彼女の視聴者にお願いすることにする。
「それじゃ、これまでのことは君の視聴者に聞いてくれ。正直俺はなんでこうなったのかあんまり理解できてないし」
そういえば彼女が大穴に落ちた理由も聞いていなかったな。聞き耳するのはマナーが悪いと思うのでルエルとともに少しだけ離れた場所に腰を下ろす。
そうして、視聴者が彼女に今までのことを説明をすること数分…
「………本当に、申し訳ありません!」
彼女は突然頭を地につけた。土下…土下座だこれ!?え?ちょっ!なんで土下座したのこの娘?!
「ちょ、ちょっと顔上げて!凄い絵面だからコレ!」
女子高生を土下座させる大学生の男…うん、事案だよこれ!?
「貴方がいなければ今頃私はこの深淵の底で命を落としていたでしょう。本当に貴方のおかげです…」
「いやいや、別にもしかしたら助かってたかもしれないし、俺のおかげってほどでも…」
そう言うが、彼女と彼女の視聴者は思った以上に俺のことをヨイショしてくれる。
『まあ認めてやらんこともない』
『流石に有能』
『今日一日だけはみみたそと話すのを許可してやる』
向こうのコメント欄にも、温かい言葉が飛び交う。
「いやいや…とりあえず頭上げて?コレちょっと関係者各位の皆様に怒られそうだから…」
『美少女に土下座させるとかま?』
『みみちゃんを解放しろー』
『お前はもう包囲されている』
『興奮する?』
こいつら…
俺の視聴者は好き勝手言っている。いつも通りの平常運行のようだ。
まあ、彼らのおかげで俺の緊張が溶けているのもあるし、深層でもある程度平常心を保てている。そのためあまり強くは言えないのだがな…
「それじゃあ一応こうなった理由とか聞いてもいいかな?自殺…ってわけじゃないんだよね?別に話したくないなら話さなくてもいいんだけど…」
「そう…ですね。説明しておいたほうがいいでしょう。私は、いつものようにダンジョンの探索を行っていました…」
そうして彼女はこれまでのことを語りだすのだった。
▼
「そうして動揺していた私はそのまま後ずさりして穴に…」
「落下した…っと。うーん、ストーカー怖すぎ」
とても背筋が凍るような話だ。
彼女は、先日協会内で絡んできた天田新人という男にダンジョン内で襲われそうになったらしい。王級の探索者である彼女は普通なら余裕で勝てる相手だ。
だが、大の大人にあんなふうに迫られたことのなかった彼女は頭が真っ白になり、思うように抵抗できず…っというわけか。
「でも、それって普通に犯罪じゃ?」
「はい。今までは直接的な被害はあまりなかったので、そこまで大事にはしていませんでしたが、今回はしっかりと警察に…」
「ま、そりゃそうか」
当然の末路だな。むしろ今まで動いてくれなかったのが問題だろう。ここまで実害が出てからでは遅すぎる。
「………」
「………」
「………」
シーンというオノマトペが聞こえそうなほど静かな時間が流れる。ルエルは喋らないし、神々さんは立ち上がって自分の体を確認している。
話すことがない。共通の趣味とかあるわけないし…とはいえ、このまま一生無言というわけにも行かないだろう。視聴者だっているし、完全に放送事故だ。でも一体なんの話をすれば…
「あ、あの!」
「ん?」
すると、彼女の方からの接触が!このチャンスを逃すわけには行かない!
「どうかしたの?」
「そういえば、お名前を伺っても?」
「あぁ、えー改めてはじめまして、ノスターと申します」
「ノスターさん…ですか?ぁ、そうですよね。配信中ですから…」
「あー、ま…ハイソウです」
そういえばよく考えてみればノスターって名前おかしいな。だって最近スレで名付けてもらった名前なのに本名だし、免許やタグにもそう名前が刻まれている。
今はまだ問題ないだろうが、いつか大変なことになったりする可能性もあるかも…ま、今更どうしようもないんだがな。
「ノスターさんって…もしかして協会内で助けてくれた方でしょうか?」
「え?あーまぁ、助けたというか漏れたというか…」
「…申し訳ありませんでした。私があのときもっと上手く相手をしていれば貴方に危害が及ぶことも…」
「ん?多分どっちにしろ変わんなかったから大丈夫大丈夫。結局俺には何もしてこなかったから。結局探索者どうこうの話も嘘だったっぽいし…」
「そうですか…ですが、ご迷惑をおかけしたのは真実です。本当に申し訳ありません…」
「だからこんなどこの誰かもわからない男に簡単に頭を下げないでっ………ん?」
そこで、彼女の後ろの通路で大きな影がゆらりと揺れたような気がした。
一体なに…が……………
「Oh my gosh……」
そんな流暢な英語が口から漏れる。
通路から、その巨大な影がゆっくりと姿を表す。
「どうかしましたか?」
『とんでもない顔してて草』
『なんか驚いてる?』
『突然どうした?』
『なんで英語?』
震える指で、通路の方を指差す。
『何をそんなに怯え…』
『?』
『なに…あれ?』
『…あれは…』
『もしかして…』
『嘘だろ…?』
「………ドラ…ゴン…?」
そうして、目撃した全員がその存在を認識したと同時に…
「グォォォォォオオオオオオオ!!!!!!」
巨大な竜は、まるで深淵のように深く重厚な咆哮を上げた。
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