第17話【配信者は】順調な活動は油断を招く【厄介ファンも多い】
「おぉぉぉ!!??」
竜が、物凄い吹き飛んだ。飛んだではなく、吹き飛んだのである。
綺麗に、真っ直ぐ飛んだ竜は宙で停止し…ゆっくりと下に…
「ノスターさん!いけますか!?」
そんなことを平然と行った張本人である神々さんにそう言われ、現実に引き戻される。
そうだ、ぼーっとしてる暇なんてなかった!今の時間は……0:00丁度!!
「ルエル、受け取れ!!!」
急いで交換を開き加速装置と増力装置を交換する。200,000DPなんて、もはやはした金である。ここでルエルが動けなくて…なんてヘマもしないのだ!
交換で現れたのは、2つのUSBメモリ。
それをルエルの方に投げると、彼女はUSBメモリを綺麗にキャッチし…
食べた。
えぇ…食べるそれ?
足とかに挿入する場所があるとかじゃないんだ…
「身体能力の上昇を確認。標的を固定。対龍用兵器、起動します」
そう言い機械の杭を構えると、キュィィンとけたたましい音を鳴らしながら周りに蒸気を放出する。
「参ります」
そして落ちてくる竜に向かって…ルエルが初めて飛んだ。いや、ルエルも跳んだだけだこれ!
「対象との距離、24m…15m…3m…対龍用兵器、射出」
遂に竜の横に並んだルエルは、その機械の杭を竜の首に叩きつけるように接触させ、杭を打ち込んだ。
ドシュッ!!というなんとも言い難い鈍い音が空間内に響き渡り、そのまま竜とルエルは地面に落下し、土煙が視界を埋め尽くす。
「ルエル!どうなった!?」
慌てて近寄ると……そこには首に大きな穴を開け、その場に横たわる巨大な竜がいた。
うわぁ…結構グロテスクだな…
「ノスターさん!無事ですか!」
「神々さん!本当に助かりました!最後の打ち上げとか、完璧でしたよ!!」
「は、はい!こちらこそありがとうございます!それで、竜…は……」
土煙の外から現れた神々さんは、竜の死体を見て驚く。まあそりゃそうか。本当に倒せると思ってもいなかっただろうしな。
『まじで倒したの?』
『CGとかじゃなくて…?』
『近くで見ると相当なサイズだなこれ…』
『みみちゃんも凄いけどルエルさんがヤバすぎる…』
『あの杭みたいなのでどうやってこんな穴開けたんだ?』
『流石ルエルたん!』
『てんしつよい』
『これは文句なしの最強天使』
『下級二人と王級に討伐されたって、帝級探索者涙目じゃん』
『これ素材取ったらいくらなんだろ…』
『ルエルたんつええええ』
どちらのコメント欄も大盛り上がりだ。これはフォロワー数爆上がりが期待できそうだな。
「一体、どうやって?」
「どうやって…?んールエルがこうちょちょいと?」
どうやらコメント欄から察するに、ルエルがどうにかしたのはわかるが、ギリギリどうなっていたかは見えなかったようだ。
正直俺に説明できるような語彙はないので適当に濁す。
「あっ」
勝利の余韻に浸っていると、竜は光となって宙に霧散していく。やはり素材は残らないか。ドロップも無し。これだけ命を懸けた戦いだったのにである。
とはいえ勝ちは勝ち。今は素直に喜ぶことにしよう。
そうして俺達は、深層にて初めての勝利を収めたのであった。
▼
「大丈夫ですか!!」
あれから約11時間後。途中燃料の問題で配信を止めた以外、特にそれ以降何かしら起こるわけでもなく、深層へビルに使うような大型のゴンドラが降りてくる。
「おぉ、コレが試練のダンジョン用昇降機か」
初めてみたぞこれ。確か深層に潜る探索者へ貸し出ししているという話を聞いたことがある。
こちら、なんと超天才発明家が天田財閥と共同で作り上げたダンジョン内でも動く昇降機らしい。
確かあのドローンも天田財閥とその発明家が制作したらしいし、天田財閥とその発明家には感謝感激である。彼らのおかげで俺は配信でFWを増やせるわけだし。
だが新人、お前は許さん。
あいつのせいで俺達は準備もできずに深層に落ちたのだ。1発どころか3発は殴らないと気がすまない。
とりあえず帰ったら絶対に見つけ出してやる。
「ノスター氏!ご無事でござるか!」
「え?榊田さん?どうしてここに?」
すると降りてきたゴンドラには、職員らしき人物三人と、なんとあのオーク…ではなく、榊田太が同乗していた。
「皆さんの救援のために大地の試練で護衛を頼める探索者を募集したのですが、深層というと皆さん拒否されてしまい…ですが、特級探索者である彼が是非ともと立候補してくれて」
職員の人が、そう説明する。
「拙者、友人の危機であればどんな状況でも駆けつける所存で」
「おぉ……」
榊田君は当然のような顔で言った。友人…友人か…いいな。素晴らしい響きだ。いつ友人になったのかは不明だが、嬉しいものである。
「と、こんなところで話をするより、早くここから上がりませぬか?」
「それもそうだな。神々さんもシャワーとか浴びたいだろうし」
「ご配慮いただきありがとうございます」
そうして、俺達は深層から脱出し、協会に戻ってくると…俺達は大勢の人々に包囲された。
「あの竜を討伐したというのは本当ですか!?」
「今の気持ちを率直に!」
「帝級探索者が逃げ帰った竜相手に恐怖を感じなかったのですか!?」
「是非ともお話を!」
「新人さんの件に関して、どうお考えですか?」
「天田財閥との契約解除という噂は本当でしょうか!」
す、凄い数の記者だ…流石は有名配信者。影響力が半端じゃない。
辺りはカメラやマイクなどの機材とフラッシュで埋め尽くされていて、とんでもない量の数がいることが伺える。これは今日のニュースは彼女で独占だなぁ…そう思っていると…
「ルエルさんでしたか!?一体いつから探索者に!?」
「竜を討伐されたのは神々さんではなくルエルさんのように思えましたが?」
「下級探索者がなぜあれほどの実力を!?」
「どうやってあんな穴を開けたのですか!!」
ルエルにも来た。神々さんにも負けず劣らずの記者数である。
え?俺ですか?1回も話しかけられてませんが何か?
まあ、俺は正面で戦いながら時間稼ぎくらいしかしてなかったし、正直最後の神々さんの打ち上げとルエルのコンボが印象深すぎるから仕方がない。
神々さんは有名人だからかいい感じに躱して入るが、ルエルは…駄目そうだ。完全無視の完全無言。カメラに目を向けることなくぼーっとしている。俺が連れて帰らなければルエルはきっと記者に囲まれ続けるのだろう。記者ってのは粘り強いと聞いたことがあるし、たとえ相手が無言でも話を聞き続けるのだろうな。
神々さんには悪いが俺達はさっさとこの場を離れさせてもらい…
「美月!!」
「東雲さん!!」
そんな人々の中から一人の女性が現れる。
黒い髪を後ろで纏め、スーツを身にまとった美女だ。彼女は…?
「申し訳ありませんが、神々はダンジョン探索で疲弊しています。インタビューは後日時間を取りますので今日のところはお引き取りください!」
彼女はそう記者の人たちに説明し、こちらに向
かってくる。
「すみません!今から少々お時間よろしいでしょうか?」
「え?あ、はい」
「ありがとうございます。協会内に部屋を取っているので付いてきてください」
彼女は俺達に向けてそう言い記者に割り込むように進む。俺達はその後をカルガモの親子のようについていくのだった。
▼
「美月を救っていただき、本当にありがとうございます」
ソファに座りスーツの美女と対面すると同時に、彼女は丁寧に頭を下げる。
「えーっと…貴方は?」
「ご挨拶が遅れまして申し訳御座いません。私は美月のマネージャーの東雲真奈と申します。よろしくお願いいたします」
「あ、ノスターって言います。よろしくお願いします」
丁寧に渡された名刺を恐る恐る受け取る。マネージャーさんか…有名配信者ってのはマネージャーなんてものもいるのかぁ…
「それで東雲さん。話というのは…」
「そうですね。お疲れでしょうから簡潔に説明いたします。まず、今回の事件を引き起こした天田新人についてです」
「あぁ、あの男がどうしたんですか?」
「実は、ダンジョンから出てきたあと行方不明になっていまして、現在警察が捜査していますがまだ見つかっておりません。もしかしたらノスター様のもとに現れるかもしれないので…」
「そうですか。もし現れたら適当に殴って警察に引き渡しますよ」
「え?あ、あぁ…ありがとうございます…?」
…あれ?今俺結構非常識なこと言った?
うーん…最近なんか自分の言動が適当になっている気がするぞ?気をつけておこう。
そこからは、今後の流れについての話をした。
俺達はテレビには出ないとか、神々さんは今後一週間から1ヶ月は活動を休止するとか、インタビューやダンジョン内で起こったことの報告や天田新人への賠償請求とかだ。
テレビに出るのはシンプルに面倒くさいので断った。休止に関しては俺には関係ないし、賠償請求関係については俺は自分で飛び込んだので何か言うのも筋違いだろう。
「それでは、お時間を割いていただきありがとうございました。今後の流れや進展がありましたら連絡させていただきますね」
そうして俺達は、顔を隠し協会から外に出る。そこにはまだ大勢の取材班がいたが、バレずに通り過ぎることができた。
「そんじゃ、今日は帰るかぁ…」
色々あったが、深層のモンスターも倒せたし、とても満足のできる成長ではあった。もう少し自分を鍛えたり改善すべきことも見えてきたしな。
ルエルの行動制限にも気がつけなかったし、もう少し仲間のことも気にしたほうがいいのかもしれないな。
一度ダンジョンに帰って、全体的に見直すことにしよう。
そんなことを考えながら、俺達は帰路につくのだった。
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