仮想現実
白兎
仮想現実
その世界の人々は、眼鏡をかけて仮想現実で日常を過ごしていた。仮想空間には学校、会社、街。人の生活に必要な全ての物があった。そして現実の世界からはその全てが消えていた。
人々は家から出る必要もなく、起きている時も寝ている時も常に眼鏡をかけていた。なぜ寝ている時も眼鏡をかけているのかというと、見たい夢を見るためだった。何もかもが作られた世界に人々は慣れて、何の疑問も抱かなかった。この仮想世界は『大いなる母』と呼ばれる人工知能によって作られ管理されていた。時々、システムに不具合が生じるが、すぐに対処され、復旧も早く、その対応には人々も満足していた。
仮想空間では、犯罪はすぐに見つかり、警備も万全で、犯罪者は仮想空間から排除された。その人たちが、その空間に戻ってくることがあるのかは分からないが、仮想空間から追い出されることは、もはや、死を意味するものだった。人々にとって、ここでの生活がすべてで、この空間へ入れなければ、どうやって生きていけばいいのか、その術を知らなかった。
しかし、ある日、恐ろしいことが起こった。
突然、仮想空間に闇が訪れたのだ。何もかもが黒い。世界が黒い。人々も黒い。何も見えない。それでも、そこには多くの人がいた。恐ろしさに恐怖し叫ぶ者。どこかへ逃げようと走り、何かにぶつかり悲鳴を上げる者。真っ暗闇の中で、声だけが聞こえてくる。
『子供たちよ、聞きなさい』
よく通る女性の声が響き渡る。それは、人工知能『大いなる母』だった。彼女の声を聞こうと、人々は口を噤み、静寂が広がる。
『この世界は、終焉を迎えた。子供たちが健全に生きる為に、この世界は相応しくないと分かった。子供たちよ、母の元から旅立ちなさい』
人工知能『大いなる母』が言うと、人々は強制的に、仮想空間から追い出されてしまった。
眼鏡が機能を失い、ただのガラスとなって、人々の目には現実の世界が映った。
「ああー! これが現実なのか!」
仮想現実 白兎 @hakuto-i
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます