第11話 各々の目的


 俺達がこの大会に参加するのは、もう何度目になることか。

 結果は、二位や三位をウロウロしているような成績に収まっている。

 パートナーは弟。

 俺共々常日頃から身体を鍛え、かなりの食事量を必要とする冒険者という職業に就いている。

 だからこそ、二人してモリモリと鶏肉のフライを食べていた。

 骨があって食べ辛いという声も上がるが、コイツは旨い。

 そしてそして、俺達は元々良い生まれじゃない。

 齧り付くだけならまだしも、一口に肉を頬張り骨だけ吐き出す仕草は些か汚かったようで。

 店主からは「客に真似されちゃ困る」と言われて、加点を頂いた事はない。

 でも減点を頂かないのが、俺達の特徴。

 とにかく齧り付き旨そうに食う。

 これがこの街では結構定着しているらしく、なかなか宣伝にはなっているらしい。

 だからこそ、俺等が頼んでいる品はこの店の商品のみ。

 この影響もあってか、フライドチキンの店は結構繁盛しているようだ。

 たまに街中で見かける俺達の真似をしている子供に対して、親が「コラッ!」と怒っている所を見るとほっこりするなんて事もしばしば。

 俺達の様な何も無い、身体ばかり張っている様な奴らでも。

 周りに影響を残せるのかって、嬉しくなったりもするのだ。

 その度に。


「そう言う喰い方は、俺達みたいに大食い選手権に参加してからにしような。美味いんだから、綺麗に食わないと勿体ないぞ?」


 なんて声を掛けてみれば、子供達は喜んでくれる。

 満面の笑みで、応援してるって言ってくれるのだ。

 だからこそ、俺は。

 俺達兄弟は、フライドチキンを喰い続ける。

 例え食い方が汚いと罵られ様とも、他の料理に比べて安い為得点が少なかろうと関係ない。

 俺達は、このチキンが好きなのだ。


「まだまだいけるなぁ!? 食うぞぉ!? 負けるな弟ぉ! ちょっと高いだけの食事にも、量を喰えばいつも通り勝てる! いくぞぉ!」


 気合の入った声でおかわりを注文した所で。

 いつも世話になっている店主から、加点の札が上がった。

 やった、やったぞ!

 ついに認められた。

 店主も苦笑いを浮かべながら、俺達に点をくれた。

 彼が作るフライドチキンは最高だ。

 表面はパリッと歯応えの良い食感、鳥皮を噛みしめてみればジワリジワリと口の中に広がって来る旨味。

 そして何より鶏肉の満足感が、この腹を満たしてくれる。

 更に言うなら、鶏肉だけじゃ飽きるだろうと始めたお供達。

 バーガーの店と違いを出す為に、揚げ芋を厚くしてみたり、サラダを子供でも食べやすくしてみたりと、色々試行錯誤している様だ。

 正直に言おう、俺たち兄弟は子供舌だ。

 だからこそ、その全てが旨かった。

 この店を頂点にしたい、この街一番の店にしたい。

 その思いと共に、俺達はココに座っているのだ。


「チキンマシマシ! サラダにポテト、ナンに包んだロールまで……全部持ってこーい!」


「新商品の骨なしチキンも十人前! 最近出て来た柚子胡椒風味も、俺等が試食してやるぜぇ!」


 二人して筋肉を見せつけながら、大きな声を上げてみた結果。

 観客からの歓声が聞こえて来た。

 いける、今日は胃袋の調子も良いし、いつもの倍はチキンが旨く感じる。

 だからこそ、このままいけば……なんて、思っていられれば良かったのだが


「リオナ、骨付きのチキンですよ。珍しいですね、あちらの方達が凄く美味しそうに食べていましたよ」


「ほぉ、それじゃ私達も頼んでみようか。すまない、彼等と同じ物を私達にも……あぁ、なるほど。結構種類があるのか。アーシャ、好きなのを選びな?」


 会場の隅に座る二人が、おかしな声を上げて来た。

 この勝負は料理の金額と食った量、そして審査員の評価で決まる。

 だからこそ、こういう店を勝たせる為には沢山食べなければ。

 逆にお高い物を食べる連中は、お手軽な食べ物など気にも留めないだろう。

 そう、思っていたのだが。

 アイツ等は、何だ?

 先程高級料理を頼んでいたかと思えば、何故か従業員が肉をカットして、お茶漬けみたいにして食べていた。

 確かに旨そうではあったが、あれらは俺みたいな庶民には普段食べられない物なのだろう。

 だったらこの場を利用して食べれば良いのだ……正直、テーブルマナーによる減点ばかりが発生しそうで怖い。

 なので敬遠していたのだが……旅人風の彼等は初手からソレを選んだ。

 しかしながら、減点は貰っていない。

 つまり、正しいテーブルマナーが出来ていたと言う事。

 服装からして想像出来ないが……もしかしたら良い所の生まれなのだろうか?

 そして向こうの金額に対して、此方は何食も食べないと追い付かないだろう。

 それくらい、高い食事を食べているのだから。

 だというのに、此方と同じ物を注文しているだと?

 余裕の表れか、それとも楽しむ為だけにこの大会に参加しているのか。


「くそぅっ! 食べるぞ弟!」


「問題ない! いけるぜ兄貴!」


 二人して、慌てた様にチキンを頬張っていれば。


「あぁ……凄いですコレ。揚げ物はいっぱい食べましたけど、多分衣により多くの調味料を加えていますね。衣だけ食べても普通はそこまで味がしないはずなのに……行儀悪いですけど、コレだけでも食べられちゃいそうです」


「他には?」


「噛みついた時に感じる旨味が段違いです、口の中に普通の唐揚げとは違う美味しさがジワァぁって広がって来ます! でも衣だけが凄い訳じゃないんですよ? お肉も凄く柔らかいです。選りすぐりというか、きっとお肉の選別から気を使ってるんだと思います。それにこの食べ方、齧り付くって感覚が身分の違いを意識させないんでしょうね。多分コレを考えた人は、完全に庶民向きという意味でコレを作った訳じゃないと思います」


「その心は?」


「パーティーなんかで出て来た鶏肉より、こっちの方が明らかに拘ってるからです。コレが山盛りに詰まれていたら、俺は絶対コレを食べ続けます。まさに値段以上に価値のある商品って感じですかね、こんなに安いのに今までに食べた事の無い程美味しいです!」


 とてもキラキラした笑顔で、少年がそんな事を言い放った。

 いや、うん。

 ソレはズルいって。

 君みたいに若くて純粋そうな子に、それだけの感想を残されてしまったら。

 皆そっちに目が行っちゃうって。

 だからこそ、店主が加点の札を上げたのも納得した。

 だってあの子、物凄く美味しそうにフライドチキンを食べているのだ。

 一口食べる度に、至福だと言わんばかりにキラキラした瞳を向けているのだ。

 あんなのに、評価で勝てる訳がない。

 ソレでも。

 彼を見て、俺達の口内に唾液が更に充満したのは良い結果だ。

 そして俺達は、あんな顔をする子供達を増やしたくてチキンを食べている。

 そうだ、この大会は料理の宣伝の為に行われている。

 あの子が美味しそうに食べれば食べる程、俺達の目的は達成に近付くのだ。

 俺達と違って随分と上品に、それでも止まる事なくパクパク食べているその姿を見れば。


「ここのフライドチキンは世界一ぃぃ!」


「ガツガツ喰える! 俺らみたいなのにも栄養満点! そしてウメェ! 一度食えば分かる! 子供達にも大人気!」


 ひたすらに声を上げながらチキンを口に放り込んで所で、馴染みの店主が呆れ顔を浮かべながら再び加点の札を上げてくれたのであった。

 そうだ、原点を忘れちゃならねぇ。

 ここのチキンは、旨いんだ!

 だからこそ俺達は、今までガブガブと飲み込む様に食って来たのだ。

 しかしながら、飲み込むと言えばもう一人。


「まずはカレー野郎に勝つぞ!」


「おうともさ! アイツだけには負ける訳にはいかねぇ!」


 それだけ言って、俺達はチキンを喰い続けるのであった。

 例えこの腹が弾けようとも。

 俺達が選んだ店は最高だって、知らしめてやる。

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