プリンスナイトと陰陽師

「び、白虎様!」

「む、水瀬舞奈みずせまいなか。祠を留守にしてすまなかったな」


 市内のとある小さな山には、白色の虎が降り立っていた。彼こそが、この地の守護者にして最強と名高き妖、白虎である。

 そんな山中は、白虎の帰還を知った水瀬家の陰陽術師達で埋め尽くされていた。


「白虎様、よくぞご無事で」

龍翠りゅうすいか、お前にも心配をかけたな」


 術師達をかき分け現れたのは、水瀬家現当主の水瀬龍翠(みずせりゅうすい)である。

 彼の目には深い隈ができており、どれほどの心労を抱えていたのかが見て取れる。


「舞花が白虎様を見つけたのか?」

「いえ、怪我した白虎様を保護してくれた方がいまして」

「そうだったのか。その人には後でお礼を言いに行こう」

「して龍翠、儂の不在中何があった?」

「はい、実は……」


 本人達は認めないが、今回の白虎様襲撃が火山家によって行われた事。また、火山家に属する神社が謎の式神に襲われ、水瀬家にその疑いがかけられているという事。そして、それらの事件の真実を懸け、神前試合を挑まれた事を簡潔に話した。

 


「実はそのことで話があってだな、神社を襲撃した術者についてなのだが」

「なにか知っているのですか?」

「うむ、実はだな……」


 白虎は神社を襲撃した術者である真白のことを説明した。


「……なるほど、わかりました。そういうことならその術者を不問にします」

「そうか、すまないなありがとう。ということじゃから姿を現していいぞ」

「はい」

「「!?」」


 隠密を解除すると、突然現れた真白に驚愕する。陰陽術師達は突如現れた真白を警戒する。


「みな突然驚かせてすまない。こやつはワシを保護してくれた者じゃ」

「一切気配を感じなかったぞ!?」

「白虎様を保護してくれた者だと聞いたが何者なのだ?」

「突然驚かせて申し訳ありません。神原真白といいます。神社襲撃について謝罪をしたく来ました」

「そうですか……。初めまして、私が水瀬家当主、水瀬龍翠みずせりゅうすいです。白虎様を保護してくださりありがとうございます。事情は白虎様より先程聞きましたので貴方の素性や事情について詮索するなと厳命されていますので、火山家への襲撃に関して追求するつもりはございません。」

「すみません、ありがとうございます」


 白猫のおかげで不問にされたことにホッとする。


「神原さんでしたっけ? お願いがあります。私たち水瀬家が神前試合できっと負けることになります。なので、協力をしてくれませんか?」

「ちょっと舞奈! 神原さんに迷惑をかけるわけには……」

「姉貴は黙ってて。私は神原さんと話してるの」

「……っ」


 試合には、炎魔を使役する火竜剛健ひりゅうごうけん。その剛健と同等の力を持つとされる式神術師、剣城燐つるぎりん。そして、火野山家現当主である火山暁ひやまあきら3名が出場するのだと舞奈が説明した。

 水瀬家は妖との共存を謳う派閥であり、白虎のように協力的な妖と友好関係を築くことで、人々を守っている。それ故に、戦闘経験は他派閥よりも遥かに少なく、あくまでも協力関係であるため、従魔術師のように妖を使役しているわけでもない。

 対して、火山家は戦闘に特化した派閥であり、人に仇なす妖を滅することでその地位を築き上げてきた。

 そんな背景のある派閥同士が争えば、考えずとも結果は見えている。水瀬家に勝ち目はないのだと。


「……わかりました。役に立つかわかりませんが、その神前試合に参加します。僕からも一つお願い、いいですか?」


 ことの発端は真白に原因がある。原因の責任を取るため真白は参加を申し出る。


「私にできることならば」

「我ら一同も協力させてもらいます」


 舞花と父である龍翠が協力を申し出てくる。


「式神を召喚することぐらいしかできなくて、陰陽術の基礎と知識を教えてくれませんか?」

「お主ならあれ程の式神に作れるならば充分だと思うがのう。それとスキル? とやらも使えるようだし」

「相手は実践経験が豊富にある陰陽術師だ。僕は実践経験がない素人だから、できる限り戦う手段が多い方がいいんだ」

「なるほどのう」

「わかりました。ぜひ協力させていただきます」

「ありがとうございます」


 相手は戦闘のエキスパート。対して真白は戦闘や喧嘩もしたことのない素人。

 いくらチート能力があろうとも勝てる保証があるわけではないので、真白としては戦う術が多いほどいいのだ。


「ちなみにだけど、その神前試合で死んだりはしないよね?」

「もちろんだとも死にはしないが、怪我をすることはある。そのかわり、出てくれるのであれば出来る限りの礼はする」


 お礼は別にいらないが、試合自体には興味がある。参加すれば色々な陰陽術が見られるはずだ。

 他の陰陽術も使えるようになってみたい好奇心はある。


「本当に死んだりとかはしないんだよね?」

「うむ、それは約束する。万が一危険があれば、儂が全力で止める」


 怪我は仕方ないとして死ぬことがないのなら安心して出られる。


「正体を隠して出ることは可能?」

「問題ない」






「姉貴、これくらいで十分なんじゃない?」

「いえ、まだよ。あの時見た白いカラスは、こんなレベルじゃなかったわ」


 水瀬家の本家がある神社。そこでは、2人の少女が術の修練に励んでいた。勝負着であろう巫女服はすでにボロボロであり、2人の特訓の激しさを物語っている。


「神原さんが協力してくれるみたいだし、私達がそんなに頑張らなくても大丈夫じゃない?」

「舞奈(まいな)、なにを言ってるの。仮に大丈夫だとしても、私たちの家の問題を他人任せにしていいわけないの。それに、試合は3対3のチーム戦なんだから、神原さんがどんなに強くても私たちが足を引っ張ったら負けるかもしれないでしょ? だからこそ、私たちで2人は倒す気概で挑まなきゃダメだよ」

「はぁー

……姉貴がそう言うなら、わかったよ」


 姉貴呼ばれる女性は、水瀬舞花である。そして、彼女と同じ面影を持ちながらも、少しだけ幼い顔立ちの少女の名は、水瀬舞奈(みずせまいな)。舞花の妹だ。

姉の舞花は真面目なのに対して舞奈は非常にめんどくさがりで、真白に全て任せちゃえばいいのにと思っていた。

 舞花と舞奈は、水瀬家に仕える術師達の中でもトップクラスの実力を持つ。そのため、代表として今回の試合に出場することとなっていた。


「さぁ、まだまだやるよ!」

「へーい」


 静かな筈の神社の庭先では、2人の術師による激しい訓練の音が響き渡るのだった。


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