プリンスナイトと火事の現場
「おはよう真白。聞いたか? 昨日の事件」
「事件?」
「ニュース見ていないの?」
由紀達は知っているみたいで玲二にニュースの内容を教えてもらった。
市内の神社が突如燃え上がり、全焼したらしい。幸い、1名が病院送りになっただけで他に怪我人はいなかったようだった。
カラスから煤の匂いがしてたのを思い出す。もしや、うちのカラスがその神社と火災が起きたことに関係があるんじゃないかと考えた。
放課後、玲二に火災が起きた神社の場所を教えてもらい現場に向かった。
紗希は先に帰ってもらい、真白はなにか痕跡がないか調べに来た。
当たり前だが立ち入り禁止になっていて入ることができない。
ふと誰かに見られているような気がした。空を見上げると、奇妙な鳥が飛んでいる。昨日見た式神でこちらを見ているようだ。
「あれは昨日の式神?」
真白は昨日の火災についてなにか知ってるんじゃないかと思い、霊力から術者の居場所を特定してみる。
すると離れた場所にいることがわかった。
場所を特定できたが、どんな人物なのかわからない。真白はスキルを発動してみた。
「『千里眼』」
これはアストラルのスキルで自分の視界を任意の場所に移動させることが可能になるスキルだ。遠くだろうと壁の向こうだろうと、このスキルの前では丸裸なのだ。
スキルも再現できるみたいで、プリンセスナイトの能力も再現できたのだ。他にもツカサのプリンスナイトの能力、結界や
カラスが帰ってきた後、アストラルの掲示板でトッププレイヤー達が活躍しているスキルを見て使えそうなものから微妙なものまでスキルを取得した。
術者がいる場所に視線を向けると巫女服を来た女の子がいて、年は一つ上くらいだ。
真白は空間跳躍をすると術者の場所に転移した。
「消えた!? いったいどこに!?」
舞花は真白が急に消えたことに驚いた。ふと、後ろに気配を感じて振り向くと観察していた青年が目の前にいた。
「あなたはいったい何者ですか!?」
目の前に現れた真白を見て警戒する。
突然消えて目の前に現れるものだから警戒されても仕方がない。
「突然驚かせてごめんなさい。お姉さんに聞きたいことがあって来たんです」
「私に聞きたいことですか?」
「はい、昨日の火災についてなにか知ってますか?」
「えぇ、もちろん知ってますけど」
「それを詳しく聞かせてもらえますか?」
「……わかりました」
「まだ名乗っていなかったなかったですけど、僕は神原真白です。お姉さんの名前は?」
「私は水瀬舞花です」
舞花は警戒しつつも自己紹介し、昨日の火災について話してくれた。
白いカラスが火山家という派閥の神社に潜入したらしい。式神を他派閥の神社へ許可なく潜入させる事は、宣戦布告の合図となるらしく、白いカラスが水瀬家の術式にとても似ていて宣戦布告と勘違いしたみたいだ。
宣戦布告と勘違いした火山家は白いカラスと戦いになった。火竜剛健と名乗る陰陽師と白いカラスは戦い、制したのは白いカラスだったみたいだ。
そして今現在、水瀬家と火山家は険悪な関係にあるらしい。真白は頭を抱える。自分のせいで水瀬家と火山家が最悪な関係になってしまったのだ。
「すみませんでした。知らなかったとはいえ派閥の神社に式神を潜入させて」
「謝らないでください。悪気がなかったということはわかります。神原さんに一つ聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「もちろんです。なんですか?」
「白虎様を居場所を知りませんか?」
白虎様とはもしや白猫のことじゃないかと思う。
舞花は白虎様を捜索しているらしく、証拠はないが火山家が白虎様を襲ったらしいとのこと。
「怪我を負っていたので、家で保護していますよ」
「本当ですか! 白虎様の元に案内してくれませんか?」
「わかりました。ついて来てください」
舞花は相当白猫を心配しているらしかった。とりあえず、白猫に帰る場所があって何よりだった。
「ただいまー」
「お、お邪魔します」
「うむ、おかえり」
「おかえりなさいませ」
家まで案内して帰ってくると白猫とセレナが出迎えてくれた。
「び、白虎様、ご無事でしたか?」
「おお! 水瀬舞花か。うむ、この通り怪我はしたが元気じゃよ」
「真白様、その方は?」
「白猫の飼い主みたいだよ」
「白虎様は水瀬家を守ってくださる守り神です。白虎様を救ってくださってありがとうございます。水瀬舞花といいます」
「セレナと申します」
セレナと舞花は互いに自己紹介をする。セレナもどこか気品のあるお嬢様だが、舞花も良いところのお嬢様っぽいようだ。
「それよりどうしてお主達が一緒におるのだ?」
「実は……」
白猫が真白と舞花が一緒にいる理由を聞いてくる。真白は火災が起きたこと原因を説明する。
「……なるほどのう、ずいぶんと大変なことになっているとは」
「ごめん白猫。僕のせいで」
「いや、ワシも説明せずに式神を飛ばした責任がある、故にお主は悪くない。水瀬舞花よ、家に戻るぞ」
「はい、白虎様」
白猫は舞花を連れて帰ろうとする。
「白猫、僕も連れていって。式神を飛ばした責任があるし、そのせいで最悪な状況になってるんでしょう?」
「しかし……」
「白猫、お願い」
「うむ……わかった」
「白猫、ありがとう」
白猫は渋る。白猫は真白を陰陽師との派閥争いに巻き込みたくはなかった。
真白が真剣にお願いしたおかげで同行を許してくれた。
「儂が連れて行こう。二人とも乗ってくれ」
そう言うと、白猫が闇を纏いながら膨張し、大型車ほどもある白色の獅子となった。
「びっくりした、それが本来の姿なの?」
「うむ、そうだ。それでは行くとするか!」
「背中に乗ればいいの? 毛掴んで大丈夫?」
「うむ、問題ない」
「白虎様、失礼します」
「では飛ぶぞ」
「「へ?」」
その直後、白色の虎は空を駆けた。
「ぎゃあああああああああああ!!」
「きゃあああああああああああ!!」
そして、住宅街に真白と舞花の絶叫が響き渡った。
「ガハッ、ここは……」
「火竜、気がついたか」
市内の総合病院。そこの一室で、
その横には、慣れた手つきでリンゴを剥く
「安心しろ、ここは病院だ。これでも食べて、まだ休んでいろ」
剛健は差し出されたリンゴに怪訝な目を向ける。剥かれたリンゴは全て、ウサギの形に切りそろえられていたためだ。
しかし、腹が空いているのは事実。嫌な顔をしながらも、そのリンゴを食べる。
「現場にいた術師達から、事情は聞いた。突如現れた鳥型の式神と交戦し、霊力を使い果たしたらしいな」
「はっ。そんな俺を笑いに、わざわざから来たのか?」
「いや。同じ筆頭陰陽術師として、お前を倒した相手が気になっただけだ。もし本当にそんな相手が居るのなら、火山家は大変な事となる」
「あ? なんで大変なことになるんだ?」
「その場に居合わせた術師の話では、鳥型式神は水瀬家の術式に似ていたそうだな」
「ああ、たしかそんな事言ってた気がするぜ」
「それを聞いたウチの当主様がな、先ほど水瀬家へ向かったのだよ。『神前試合』を申し込むと言ってな」
「ブフッ」
まさかの事態に、剛健は思わずリンゴを吹き出す。
『神前試合』。それは、陰陽術師同士で起こった問題解決に利用される格式高い儀式の1つである。真実、物品等を互いに賭け、勝者がそれらを得られるのだ。
今回の騒動をまとめると、水瀬家の崇める白虎を勝手に襲い、火山家が仕返しを受けただけである。
通常であれば、この程度の事態において、気軽に取り行っていい儀では決して無いのだ。それこそが、剛健がリンゴを吹き出した理由でもある。
「がっはっは!ウチの当主様は、ほんとどうしようもねぇな!」
「……」
本来であれば、主人へ向けた無礼な言葉を訂正させるはずだが、燐は黙認した。
彼自身もまた、今の当主へ不満を募らせている一人に他ならないためだ。
「……我々は、五行の中でも『土』に次ぐ大派閥。我々の申し出を断るデメリットを、水瀬家の当主は理解しているはずだ」
「どこかの当主様と違ってな!」
度重なる無礼な発言を、燐は静かに流す。
「おそらく、水瀬家の当主はこの試合を受けざるをえない。近いうちに戦いになるだろう」
「なるほどなぁ」
しかし、燐が最も懸念しているのは、試合を執り行うこと自体ではない。
「もしも、お前を倒した陰陽師が水瀬家の者ならば……今回の試合で必ず現れる」
「!!!」
「どれほどの手合いかは不明だが、偵察用の式神一体でお前を倒せるのだとすれば……神前試合は我々の圧倒的不利だ」
燐の不安をよそに、剛健の笑みは深まっていく。その表情からは、もう一度あの式神と戦えるかもしれない喜びと期待が見て取れた。
「……とりあえず、試合は近いうちに行われるはずだ。それまでに身体を治しておけ」
「おうよ! へへ、楽しくなってきたぜ」
剛健の快活な返事が、病棟へ響き渡り自分を倒した陰陽師との再戦に燃え上がるのだった。
To be comtinued
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