プリンセスナイトとオフ会3

服を買って店をあとにした真白達は、ショッピングモールを目的もなくぶらついていた。


 随一の広さを誇るこのショッピングモールは歩いているだけで案外楽しいので苦ではないのだが、視線を集めやすいので何とも言えない気持ちにもなる。

 贔屓目抜きに三人は見目整っているし。そんな人達が固まっているので、人目を引くのは仕方ないだろう。

 人目を引くので特にナンパ目的で近づいてくる男には気をつけた方がいいだろう。


『どうしたんだ。そんな難しい顔をして』

「そんな顔してた?」

『なんとなくそう思っただけだ』


 真白はあまり表情に出さないのだが、親しい人達にはなんとなくわかる。


「いやー、三人とも美少女じゃん、だからナンパされないか心配でさ」

『ああ〜、なるほどなー。でもそんなに心配することか?』

「特に由紀は高確率でナンパに遭遇しやすいんだよ」


 大人しく儚げな女の子なのでナンパのカモにされやすかった。

 などと、考えているそばからチャラそうな男子三人組にナンパされる。


「ねえねえ、君たち俺等と遊ぼうよ」

「遊ぶわけないでしょう、ナンパならよそ行きなよ」

「つれないこと言うなよ〜。俺等が楽しませてやるからよ」


 ひなた達は迷惑そうな顔も隠していなかった。

 真白はそっとため息をつく。


(……迷惑がってるの分からないから、女の子を引っかけられないと思うんだけどな)


 ちなみにモテる玲二曰く「相手の反応も構わずにナンパして個を押し付けるやつはほんとモテないし見てて痛々しい」との事で、思わず真白も頷いてしまう。

 ちなみに男達は真白のことをボーイッシュな女の子と勘違いしており、男だと気づいていなかった。

 正義感溢れた物語の主人公だったら後先考えずに突っ込んでいってもなんとかなるだろうが、真白は喧嘩をしたこともない。前の真白だったら暴力沙汰に負けは目に見えていたが、今は力があるので勝てないことはないが真白としては基本的に暴力を振るうことを好まない。危険が迫った状態ややむを得ない状況なら拳を上げることも辞さない。

 だが真白は保険をかけておく、いつでも起こってもいいようには探してはいたので、レメに頼んだ。

 真白は目を瞑り、思考を切り替える。


「やあ、偶然だね。そっちの人達はお友達かい?」


 横からボーイッシュな女の人がフレンドリーに話しかけてきた。

 突然の女の人に驚く真白達だが、由紀はその人を見て安堵する。

 男性達は唐突に声をかけてきた女性に眉尻を上げて苛立ったような表情を向けてきた。

 男達はボーイッシュな女性を男性と勘違いしていた。


「なんだぁ? お前誰だよ?」


(沸点低いなぁー)


 真白はそう思った。


「私はそこにいる彼女の……」

「あぁん!? 関係ないならすっこんでろよ。痛い目見たくないだろ? さっさと消えやがれ」


 ボーイッシュな女性は由紀の方を見て言おうとしたが、セリフを遮られた。

 後ろの男性達二人も、ニヤニヤしながらな女性を見ている。


「聞いてんのかテメェ!? 関係ないならさっさと消えろや!!」

「無関係じゃないさ。私はそこにいる彼女の友達だよ。それに彼女達が困っているなら見過ごせない」

「イキってんじゃねえぞ! 殺されたくなきゃささっとどっかいけや!! あぁん!?


 男がボーイッシュな女性の胸倉を掴んだ。

 胸倉を掴んだ瞬間に、真白がかけていた保険が到着した。女性が助けてくれたのは予想外だったが、タイミングはバッチリだった。


「何をされているのでしょうかお客様……? 他の方にご迷惑ですので、こちらまで来ていただけますか?」


 見るからに屈強な数人の警備員達が来た。

 彼らは男達を逃さないように、真白等を含んで取り囲んでいる。レメにお願いしていた人数が多いことに真白としてもびっくりだ。


「あー? ……いや……俺等は別に何も?」

「警備員さん、いいところに来てくれました。暴行罪の現行犯です。警察を呼んでいただけないですか?」

「はぁっ!? なんだよ暴行罪って!? なんもしてねーだろが!?」


 女性の胸倉を離して、真白を睨みつけながら、怒りの混じった驚愕の声を上げながら、今度は真白に掴みかかろうとする。

 掴みかかろうとした男に警備員が止められる。


「知らないんですか? 胸倉を掴んだだけで暴行罪って成立するんですよ。これだけの目撃者もいますし、言い逃れできないでしょ。警察に逮捕されますよ」


 内心ビビりながらも、努めて冷静に彼に事実を告げる。

 ネットでの聞きかじりの知識ではあるが、真白はそんな話を見たことがある。警察を呼ばれても面倒なので脅しでしかないのだが。


「あなた達二人も、この人と一緒なら同罪になっちゃうんじゃないですか?」


 睨みつける男に構わず真白は、残りの二人に対して視線を向けて口を開く。

 別に一緒にいるだけで同罪になるわけないのだが、真白の視線を受けた二人は先ほどまでの笑みがなりを潜め、途端に不安げな表情を浮かべていた。


「お……俺等は関係ねーよ。そいつがナンパしようって言い出して……。胸倉を掴んだのもそいつだけだし、捕まるならそいつだけだろ」

「そ……そうだよ、俺等はそいつに付き合っただけだ、別に何かしたわけじゃない。関係ねーよ。おい、行こうぜ」

「ああ、そうだな」

「おい! お前等俺を見捨てるのかよ!」


 こういう人達の男の友情とは脆いものなのか、連れの二人は警備員に囲まれた枠から出ようとする。

 そんな二人に対して、絶望と怒りを混ぜた表情を向けていた。


「そうですか、確かにこの人しかお姉さんの胸倉は掴んでないですし……貴方達二人は関係ないかもしれないですね。行ってもいいですよ」


 真白の言葉に二人はホッとした表情を浮かべると、そのまま警備員達の人垣が少しだけ割れて、そこから早足に去って行った。


(本当、見切りが早いというかなんというか……。)


 そう思いながら真白は呆れる。


「おい! 待てよお前等!! お前らぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 一方で見捨てられた男は逃げた彼等を追おうとするのだが、それは流石に警備員に止められていた。

 二人に対する恨み言がショッピングモールに響くが、彼は警備員にそのままどこかへと連れていかれた。

 真白は本当に彼を暴行罪で起訴したいとかはないので、あとは警備員達にお任せした。ひなた達が無事であればあとはどうでもよかった。

 とりあえず、真白は警備員と女性にお礼を言う。


「お姉さんのおかげで助かりました。ありがとうございます」

「キミ達が無事で何よりだよ。警備員さんを呼んでたみたいだったから、私が出る幕じゃなかったみたいだね」

「そんなことないですよ。お姉さんがいてくれて助かりました」


 女性にお礼を言うと三人は真白と女性に駆け寄った。


「三人とも、大丈夫だった? 」

「ありがとね真白。お兄さんもありがとございました!」

「助けてくれてありがとございました」

「真白くん、流華るかさん、助けてくれてありがと」


 由紀と流華は知り合いみたいでお礼を言う。


「由紀はこのお姉さんと知り合い?」

「うん、そうだよ。この人は天草流華あまくさるか天草流華さん、光瑠くんのお姉さんだよ」

「天草流華だ。キミ達は?」

「僕は神原真白です」

「セレナと申します」

「小清水ひなたです!」


 よく見てみると確かに光瑠に似ているところがあった。


「キミは私が女性だと気づいたみたいだけど、どうしてわかったんだい? 私はよく男性に間違われることが多いんだけど」

「僕も女の子と間違われるので、そういった人達がなんとなくわかる感じで。それと強いて言うなら『歩き方』ですかね?」

「『歩き方』? それで男か女かでわかるのかい? それとキミは女の子と間違われると言っていたが男の子でいいのかな?」

「そうですよ、僕は男です。説明するとですね、性別が違えば骨格も違うですし、男女で歩き方が違うので結構見てればわかりますよ? まあ、お姉さんの場合は容姿に目がいっちゃいますから。そういうところに注目されにくいんじゃないですか?」


 わかりにくいが若干胸があることがわかる。


『……シロウ、普通の人は歩き方で判別しないぞ。というか、そんな特技をどこで身に着けたんだ?』

「んー、色々なゲームをやってきたから動きや目線でわかるようになった感じかな」

「す、すごいね。真白くん、歩き方で流華さんを一目で女性ってわかるなんて」

「だよねー。私も流華さんのこと男性だと思っちゃったよ。セレナさんは?」

「私はなんとなくでしか、わからなかったです」


 由紀と流華はキラキラした目で真白を見てくるが、ゲームぐらいでしか役に立たない。


「いたいた。流華、急に走り出したみたいだったけど何かあったの?」

「やっと追いついたよ」


 流華の友人が駆け寄ってきた。


「ああ、すまない。知り合いがナンパされていて助けに行ってたんだ」

「そうだったのねー。……あら? あなたレメちゃんかしら?」

「おお! レメちゃんじゃん!」


 二人の女性に名前を呼ばれるとレメは何やらウィンドウを開き、二人が誰なのかわかった。


『リサとユカだな! どうして二人がここにいるんだ?』

「私達二人は流華と遊びに来てたのよ」

「レメちゃんがいるってことは……シロくん達がいるのかな? 今日オフ会するって言ってたもんね」

『おう! ここにいるぞ! お前等来いよ』


 レメに連れられて真白は一歩前に出る。


「は、初めまして神原真白です」

「初めましてセレナと申します」

「は、初めまして草摩由紀です」

「初めまして! 小清水ひなたです!」

「ふふ、まさかみんなに会えるなんてね。会えて嬉しいわ。私は有里益梨沙ありまりさ、よろしくねー」

「私は妹の有里益裕香ありまゆかだよ! よろしくー!」


 現実では会うのは初めてなのでみんなそれぞれ自己紹介をする。


「二人は少年達とは知り合いなのかい?」

「アストラル内では一緒にギルドを組んでるのよ」

「そうそう、現実では会うのは初めてだけどアストラル内ではよく遊ぶんだー」

「そうだったのか。すごい偶然だな」

「流華の知り合いって言ってたけどそれは誰かしら?」

「由紀ちゃんだよ。私と弟とは幼馴染なんだ」

「そうだったのね。そうだわ、みんなの連絡先教えてもらえるかしら? 現実のみんなのこと色々と知りたいわ」

「私も私も! みんなのこと知りたいなー」


 リサとユカと連絡先を交換して別れようとした。


「少年、ちょっといいだろうか?」

「天草さん、どうしたんですか?」

「私のことは流華と呼んでくれ。うちの弟は自分の正しさを疑わなさ過ぎるという欠点があってね。思い込みが激しい、それでうちの弟が少年に迷惑をかけてないだろうか?」

「迷惑ですか? 別にそんなことないですよ。正義感があって頼りがいのある人だと思いますよ」


 光瑠は自分の正しさを疑わないところはあるがそれを除けば、真白は頼りがいのある人だと思っている。


「そうか……その、前に潤ちゃんから聞いたんだがうちの光瑠が迷惑をかけたそうだね。すまない」

「いえいえ、お姉さんが謝らないでください。天草くんの言ってたことも本当なので、自分もそういう所を直したいとは思ってたので気にしてないですよ」


 流華が光瑠のかわりに謝ってくるが真白は慌てる。

 人付き合いが苦手な真白は自分から交流しに行くことはあまりない。

 そういうところを治したいと真白は思っているのだ。


「少年は優しいんだな。光瑠が失礼なことを言ってきたら怒ってもいいんだよ」

「あはは……努力します」


 誰かと喧嘩するのは苦手な真白は自分が我慢すれば話はそこで終わり。喧嘩するよりずっといい、そう思ってしまうのだ。


「少年、これは私の連絡先だ。光瑠のことで困ったら私に頼ってくれ」

「あ……ありがとうございます。」


 光瑠の姉である流華と連絡先を交換して去って行った。


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