プリンセスナイトとオフ会2

行き先は櫻川丘さくらがわおか駅近くにあるゲームセンターで、前にウェンディ達と遊んだ所だった。

 ゲームセンター以外にもカラオケ・ボウリング・スパ・気軽に楽しめるスポーツなど複数の娯楽を提供する複合アミューズメント施設になっているのでオフ会にもピッタリな場所だ。

 最初はカラオケをやることになり部屋に入る。


「あのさ、由紀。その……」

「ん? どうしたの? 真白くん」

「前にアストラルで会ったヒカル君達って、もしかしなくても天草君達だったりするかな?」

「ああ……うん。そうだよ」


 真白と光瑠の関係が良くないことを知っている由紀は、躊躇いつつも答えてくれる。

 由紀もそうだが、光瑠に潤、隆太が普段ゲームをやるイメージがないため、真白は以外に思った。


「なんだか以外だね。由紀もだけど天草君達もゲームやるなんてね」

「あはは、私も普段はあまりやらないんだけど、アストラルで願いを叶えるって聞いて興味を持ったんだ。私がやり始めたら光瑠くん達もアストラルをやり始めたの」


 普段あまりゲームをやらない人がアストラルで願いを叶えると聞いて、興味を持ちアストラルをやり始める人もいるらしい。


「サキさんって紗希先輩なの?」

「うん、そうだよ。それとウェンティはウェンディなんだ」

「そうだったの!? というか、なんで真白が知ってるの?」

「転校してきたその日に家が隣同士だってわかったんだ」

「なんだか、凄い偶然だね。リサさんとユカさん、ユリナちゃんとはどうなの?」

「リサさんとユカさんは現実では会ったことないけど、ユリナちゃんとはセレナと出かけた日にたまたま会ったよ」

「そういえばセレナちゃん、ユリナちゃんに凄い慕われてたね」

「ユリナ様は昴様の再従姉妹でして、何度かお会いしてるうちに懐かれまして」

「ああ、だからあの時、ユリナは嫉妬してたんだね」


 フレスベルク防衛戦の時にセレナとのコンビネーションに嫉妬して怒っていることをひなたは思い出していた。

 真白ははひなたからあれやこれやと歌わされて、リクエストが終わる頃には真白と由紀はぐったりとしていた。

 一緒に歌っていたひなたとレメは平然としているので、基礎体力の違いだろう。


「お疲れ様です。上手でしたよ」


 穏やかに微笑んで真白の帰還を迎えたセレナもいつもより瞳の輝きが増しているので、彼女も楽しんでいることがわかる。


「セレナもノリノリだったね」

「ふふふ、だよね。セレナちゃんが楽しんでくれて嬉しいよ」

「わ、私は別にそんなことは……」

「もー、素直じゃないなー。セレナの顔ゆるゆるだよ。じゃあ次はセレナの番だね」

「え?」

「ひなた、レメー。次はセレナと一緒に歌ってあげて」


 大層ご機嫌なセレナを生贄に差し出すべくひなたとレメに声をかけておく。

 真白の言葉ににんまりと笑ってひなたとレメは「任されたー」と上機嫌な返事を返した。


「えっ、ちょっ」

「セレナが楽しんだなら僕もセレナ歌聞いて楽しみたいなー」

「そっそれは……ひ、ひなた様」

「ほらほらセレナさんも腹くくって」

「そうだそうだ。セレナも一緒に歌を歌おうぜ!」


 乗り気になったひなたとレメがセレナの手を引いていくのを、真白は手を振って見送る。セレナから恨みがましげな視線が投げられるが、真白も通った道なので諦めて欲しいものである。

 これも経験、としみじみ頷きつつマイクを渡されてテンパっているセレナを眺めて満足げに瞳を細めていると、側に居た由紀が苦笑している。


「あとでセレナちゃんに仕返しされない?」

「あはは、されるかもねー」


 気にしないといった態度の真白に由紀は肩を竦めて、それからおろおろとしながらも歌い始めた真昼を眩しそうに眺めた。

 セレナは大概何でも出来るので、歌唱もその例に漏れず上手い。しっとりとした邦楽という選曲がよかったのか、澄んだ声が紡ぐ歌は非常に心地がよく、真白と由紀は聞き入っている。

 夜に子守唄でも歌わせれば直ぐに睡魔を差し向けてきそうな歌声に、真白も頬を緩めた。

 ひなたはひなたでセレナ合わせた柔らかい声音で歌っているが、こちらも上手い。むしろ歌い慣れている分、セレナよりも歌詞や音楽に合わせた抑揚があり、技量的にはひなたの方が上だろう。

 表情は実にご満悦そうなので、恐らくこの曲が終わってもセレナを離さない気がする。


(ふふふ、まあ、何だかんだセレナも楽しんでるみたいだからいいんだけどね)


 見捨てられて不満げだった表情も、今は恥じらいを含みつつも楽しそうに柔らかく緩んでいる。こうしてカラオケなんて経験がなかったらしいセレナは現状を大いに満喫しているようなので、真白としても満足だった。

 カラオケを存分に楽しんだあとはボウリング場に向かった。

 ボウリングは初めてのようでセレナは最初はガターだったが、だんだんと慣れていき上達も早かった。


「さすがだね」

「そうでしょうか?」

「うんうん、コツをすぐに掴んで上手くなるの凄いよ。私も負けてられないね!」


 コツを掴んだセレナはひなたと良い勝負をしている。

 真白と由紀は決して下手ではないが二人より劣るようだった。

 ボウリングでの勝負の結果は一位セレナ、二位ひなた、僅差で真白が三位で四位がユキだった。


「セレナとひなたが圧倒的だったな」

「だね。まあでもセレナが楽しめてるなら僕はそれでいいかな」


 ひなたはセレナを様々なスポーツで勝負をして振り回しながら、おろおろしながらも楽しんでいる様子だ。

 体力がない真白は休憩しつつ、そんな二人を眺めている。


「はい、真白くん。よかったらどうぞ」

「ありがとう。ユキ」


 休憩をしている真白に由紀は水が入ったペットボトルを差し出してくる。

 お礼を言い、水を口にして渇いた喉を潤す。


「そうだ、由紀は願いが叶うと聞いてアストラルを始めたんだよね?」

「うん、そうだよ」

「由紀の願いってなにかなって」

「うええっ!? ええとええと……」


 由紀は顔を真っ赤にし言いづらそうにしてあわあわしている。


「ごめんごめん、言いづらいことなら聞かないよ。困らせてごめんなさい」

「ううん、真白くんは悪くないから気にしないで。慌ててごめんね」


 由紀の慌てる姿は可愛いと思いつつ、ちょっとからかってみたくはあった。


「あはは、楽しかった!」

「おつかれー、ひなたちゃん、セレナちゃん」


 満足したのかひなたとセレナが戻ってきた。

 ひなたは満足そうな顔をしていて、セレナは疲労しつつも満足そうな顔をしている。


「真白、ちょっともらうねー」

「ああ、うん……って」

「ひ、ひなたちゃん……そ、それ……」


 ひなたは真白の飲みかけの水を受け取ると喉の渇きを潤す。


「ん? 二人ともどうしたの?」

「いやー、その……気にしないのかなって……」

「か、かん、間接キス……」

「友達なら平気平気!」


 なぜ由紀が顔を赤くして慌ているのかはわからないが、ひなたが気にしないなら真白は気にしないことにした。


「ユキ、これなんてどうかな?」

「あ……素敵だね。いい感じ」


 女子三人が楽しそうに会話するのを、真白はのんびりと店の端で眺めていた。

 隣には、同じくのんびりと三人を眺めるレメが居る。


「楽しそうだね三人とも」

「そうだな。……どうしてあんなに服で盛り上がれるんだろうな」


 由紀たっての希望で五人揃ってショッピングモールにやってきたのだが、ブティックで女性三人がああでもないこうでもないと服を体に当て始めた辺りから手持ちぶさたになったのだ。


 別に買い物に付き合う事や服選びは苦でもないのだが、あそこまできゃっきゃうふふと女子の園のような雰囲気をかもされると話に入りにくいので、距離を置いている。

 レメは服はわからない故に真白の隣に居るらしい。


「やっぱり女の子はいつになっても美しい自分でありたいと思うからじゃないかな。あと純粋に着飾るのが好きってのもありそうだし」

『そういうものなのか? オイラにはちっともわからないぜ。男は買い物や服選びが苦になるやつが多いって聞くが、お前は苦にならないのか?』

「まあ、紗希姉さんと瑠璃ちゃんに散々付き合わされてるからねー。それに着飾る姿を見るのもいいけど、ああやって楽しそうに選んでるのを見るのがいいんだよ」


 世の中の男子は女子の買い物に付き合うのは億劫らしいが、真白は紗希と瑠璃に散々付き合わされているので慣れている。性格的にもそこまでせっかちではないし、待ち時間も楽しみを見いだせる。

 それに、セレナ達相手だと彼女達が嬉しそうに笑っているだけで結構な充足感があるので、結構楽しい時間だった。


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