プリンスナイトと防衛戦3
一気に城壁から飛び降りる。そのままドラゴンを大きく迂回して、城壁の反対側へと回る。
「まずは注意をこちらに向けさせないとね。【
『ギャオァァァァァ!』
ドラゴンの敏捷を下げる。効果は薄いがないよりは多少マシになるだろう。
【泥沼の手】は継続性の呪いと攻撃、素早さを下げる効果があり、五百ダメージを与えていく。
二本の剣が出現してドラゴンの目を狙うよう命じる。
一本は右目に当たり潰すことに成功した。二本目の剣は首を振って撃ち落とされる。シロウは二本の剣を戻るよう命じる。
ドラゴンは首を大きく振りながら、シロウを牙で突き刺さそうとするが、すでにシロウは離脱している。城壁を降りた魔法使いや弓使い達がシロウと同じ方向から仕掛け、門からドラゴンを引き離しにかかった。
ドラゴンから距離を取ったシロウの目の前に盾を持ったプレイヤー達が並ぶ。そしてドラゴンへ向けて、一斉に【挑発】のスキルを発動させた。
「こっちだトカゲやろう!」
「ブレスをやめろよー!」
「うおー、こええ! ブレスの兆候あったら散開するぞ!」
『グルガアアァァァァ!』
複数の【挑発】に煽られて、ドラゴンが地響きを立てながらこちらへと向かって来た。
盾持ちが五人がかりでその巨体の突進を受け止める。全員【不動】持ちなので誰一人として吹っ飛ぶことはなかった。
「【アクセル・ファング】」
「【フレアフィスト】!」
セレナは四連撃の高速斬撃が尻尾を斬り刻み、ヒナタの拳が触れた途端、爆発を起こす。
セレナとヒナタに続けとばかりに剣を、大剣を、斧を尻尾へと集中させて攻撃する。
「【ソニックリープ】!」
「【メテオフォール】!」
「【パワースラッシュ】!」
『グギャアアアァァァッ!?』
さすがのドラゴンも連続で繰り出されるスキルには適わなかったようで、その太い尻尾が断ち切られて光となり消えた。
怒りに燃えたドラゴンは振り返り様ざまに再び炎のブレスを吐こうとしていた。
「ブレスが来るぞ! 逃げろ!」
「【天の
全ての攻撃を無効化に回復、状態異常を治す効果がある。
光のオーラがプレイヤー達をブレスから守った。
「ブレスは一度吐いたら次まで時間がかかるっぽいぞ! 攻めるなら今だ!」
どこからか聞こえてきた声に、シロウもその可能性が高いと思った。
弓使いから矢の雨が降る。硬い鱗もスキルならなんとか貫けるようで、少しだがダメージを与えていた。
セレナは【加速アクセル】を使ってドラゴンの眼前へと辿り着き、その左目に短剣を突き立てて潰した。
『グギャアアアアアァァァッ!?」
両方の目を潰されて見えなくなったドラゴンが暴れ回る。そのタイミングで今度は魔法使いのプレイヤー達から魔法が次々とシルバードラゴンに放たれた。
「【エクスプロージョン】】!」
「【スノーストーム】!」
「【カラミティサンダー】!」
攻撃力の高い魔力を連続してくらい、ドラゴンのHPが半分近くまで減った。
下位竜とはいえドラゴンはドラゴン。流石にタフだった。
これはかなり骨が折れそうで、四つの門全てがドラゴンに襲われているのだとしたら、勝ったとしてもすぐさま他のところへ救援に向かわなければいけない。
こちらに救援が来るのを待つ、消極的な作戦もあるがそんなことをしているうちに他の門を破壊されたら、都市に住む住人が犠牲になってしまう。
なのでここは攻めるべきだった。
「【アストラルバインド】【ベノムバインド】【アイスバインド】【ロックバインド】【自然の力】」
鎖、毒の蔓、氷、土、地面から出てきた大きな根っこがドラゴンを拘束する。
【自然の力】は拘束、および200ぐらいのダメージ与えていく広範囲の魔法で、周辺にいるシルバーウルフやシルバーバードも拘束されていく。
拘束を破ろうと暴れようとするが、ドラゴンの拘束を解かせないように魔法の集中砲火が降り注ぎ、それが終わったところで盾を持った者を先頭にしながら、剣や槍、斧や大剣を持ったプレイヤー達が一斉に襲いかかる。
ドラゴンのHPは三分の一を切っている。あともう少しだった。
「セレナさん!」
「ヒナタ様、どうされました?」
「ーーーーって、できるかな?」
セレナは話を聞いてみると、ヒナタがとんでもない提案をしてきた。
「できなくはないと思います……。できるのですか?」
試してみても悪くはないとセレナは思う。
「やってみようよ! ダメならダメでまた別の方法を考えればいいじゃん!」
「……わかりました。やってみましょう」
セレナはこの状況を打破できるかもしれないと思い、ヒナタの提案に乗ることにした。
「ヒナタ様、乗ってください」
「うん!」
セレナが向けた背中にヒナタが飛び乗る。
ヒナタの提案はなんてことはない、セレナの足を使おうというわけなのだ。正確にはセレナの【】をだが。
シロウも【加速】を使えるが、素早さ的にはセレナの方が適任だった。
横で二人の話を聞いていたシロウはヒナタには【パワーアップ】と【属性強化】をセレナには【スピードアップ】の強化を施した。
「騎士君、ありがとう!」
「ありがとうございます。ひなた様行きますよ」
「オッケーだよー!」
ヒナタをおんぶしたまま【加速】スキルを発動する。拘束されて動けないドラゴンのところをまっすぐ突き進み、距離を縮めていった。
シロウのかけた魔法の効果でいつもより速くなっていた。
ドラゴンの頭の横まで辿り着いたセレナの背から、勢いよくヒナタが飛び上がる。
「【フレアフィスト】!」
セレナの背中から高くジャンプしたヒナタがスキルを放ち、拳をドラゴンの頭部へと下ろす。
ドラゴンの頭部に拳が当たり、爆発を起こしてドラゴンはよろめかせる。
【パワーアップ】と【属性強化】の効果で攻撃力と爆発力が強化されていた。
『ギャアアアッ!』
落ちてくるヒナタをキャッチして、再び【加速】を使って離脱する。
ドラゴンのHPはすでにレッドゾーンに突入している。こちらの陣営もかなりのプレイヤーが死に戻りしている。
「今だ!」
誰かが叫ぶ。
それがきっかけとなり、次々とプレイヤー達が押し寄せて、各々が全力のスキルを放った。
シロウ達も加わり全力のスキルを放つ。
「【シグナス・スライサー】」
「【セイクリッドストライク】!」
「【スパイラルイヤー】!」
全力のスキルを食らった銀の地竜は巨体をよろめかせ、地響きを立てながら地面へと沈む。
パアッ、と、大きく綺麗な光の粒が辺りに弾け、ドラゴンが塵と化すように光に変わり消えていった。
しばしシロウ達はその光景に魅入っていたが、やがて爆発するかのように大歓声が西門前に響き渡った。
ボスにとどめを刺すとかなり良いアイテムがドロップするというのがある。それをラストアタックボーナスと言われて、とどめを刺したプレイヤーに手に入る。
シロウはそのつもりでとどめを刺すのに参加したが、この状態ではなにもドロップはしないため確認のしようがなかった。
手に入ればいいなという程度で参加したため期待はしていなかった。
ドラゴンが倒されたからか、他のシルバー系のモンスター達が逃走を始めた。弓持ちのプレイヤーがそれに対して掃討射撃を開始して、あっという間に西門にはモンスターの姿は一匹も見えなくなった。
「よし! 余力のある奴らは他の門へ救援急げ! 無理そうな奴らはここで守りを固めるんだ! アイツらが戻ってくるかもしれないからな!」
そんな声が聞こえてきて、やっと倒したというのに、慌ただしくみんなが動き始めた。
その光景を見ていたシロウにトトが片手を上げて近寄ってきた。
「やったの! お疲れ様じゃ」
「よお、トト爺もお疲れだぜ!」
「あ、どうも。トトお爺さん怪我はないですか?」
「ほほほ、大丈夫じゃよ。それでお前さん方はこのあとどうするんじゃ?」
「ギルドのみんなと話して決めます。東門に知り合いがいるので行くつもりです」
「そうか、ワシも行きたいのじゃが、機械をドラゴンに壊されてしまったからの、ワシはここに残って後片付けでもしておるよ。それじゃあまたあとでの」
トトは一部壊れた瓦礫の撤去を手伝いにいった。
「騎士くん、やったね!」
城壁の上にいたユキがリサとユカ、ルリと共にこちらへとやってくる。
「ユキもお疲れー」
「私はあまり活躍できなかったよ。今回のことを教訓にして、少しスキルの構成を考えてみようと思う」
真面目だなと思い、ユキらしくもあると思った。
「あ、ユキ! 見た!? 私とセレナさんのコンビネーション攻撃! すごかったでしょ!」
「うん、ヒナタちゃんとセレナさんすごかったよ」
「むー。ヒナタさんずるいです。私もお姉様とコンビネーション攻撃したかったのに……」
「ユリナ、なに怒ってるの?」
「あらあら」
「あはは……」
拗ねるユリナとキョトンとするヒナタ。それを見て察したリサはおかしそうに笑う。ユリナがセレナのことを慕っていることを知っているシロウは苦笑いになる。
「このあとどうする? 実はフレンド登録した知り合いのパーティが東門で戦っているんだ。できれば救援に行きたいんだけど」
「私も、知り合いのパーティが北門で戦っているんだけど、できれば救援に行きたいの」
参加ギルドにユキの知り合いもいた為、ユキも救援に向かいたいと口にする。
「オイラは全然構わないぞ!」
「そういう事情なら私も助けに行くよー!」
「シロウ様が救援に向かうなら私も同行します」
「お姉様が行くなら私も行きます!」
「私は構わないわよー」
「私もそういう事情なら構わないよ」
「私も全然構わないよ」
「お姉ちゃん、弟くんの為なら頑張っちゃうから!」
「私もお兄ちゃんの為に頑張ります!」
全員OKのようだ。
「よし、それじゃあここは東門と北門の二手にわかれよう」
シロウ達、東門に向かうのはレメとヒナタにリサとユカ。北門にはユキとセレナにサキとルリ、ウェンティだ。
シロウ達はハルカ達のパーティが戦っている東門に、ユキ達はヒカル達のパーティが戦っている北門へ向けて走り出したのだった。
To be comtinued
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