プリンスナイトと防衛戦2

『おおっ! シロ坊にチビ助来たか!』

「ん? この声、トトお爺さん?」

「声が聞こえるけど、どこからだ?」

『ほっほっほ、ここじゃよ』


 声が聞こえる方に振り向くと戦車のような物からトトが出てきた。


「トト爺、なんでここに!? さっさと逃げろよ!」

「ブレスベルクが襲われているのに逃げるわけにはいかぬだろ? それにワシの開発した機械を試してみたくての」


 トトが言ってることは本当だろう。モンスター達相手に楽しそうに武装を向けて攻撃している。

 威力も凄まじく、モンスター達を一撃で倒していってる。


「【ホーリーアロー】!」


 ユキが放った光属性の広魔法が目の前にいたシルバーウルフを数体まとめて串刺しになる。

 HPを大きく削られたウルフ達をシロウとセレナ、サキが斬り倒した。

 ウルフ達は光の粒子となって消えたが、アイテムは落ちない。イベント中はアイテムがドロップしないようになっている。

 イベントが成功、失敗、どちらに終わろとも、倒した分は後でまとめて成績として配分されることになっているのだ。


「【バーニングストライク】!」


 シルバーウルフに囲まれたヒナタが拳を地面に叩きつけると、セレナを中心に爆炎を巻き起こす。

 光の粒にされた仲間達を無視するかのように、新たなシルバーウルフがヒナタに群がる。


「わわわっ! やばーい!」

「【加速アクセル】」


 超スピードで敵の合間を縫ってヒナタを抱き抱えると、シロウらはウルフの群れから脱出した。


「【ホーリーアロー】!」

「【ウォーターボール】」

「【ウィンドウカッター】!」

「「【ストライクショット】!」」


 ひと塊りになったウルフ達へ、ユキとリサ、ウェンティの魔法とユカとルリの矢が飛来する。瞬く間にウルフ達は瀕死の状態となった。


「【ファントムラッシュ】」

「【セイクリッドスラッシュ】!」

「【フェイタリットスパイラル】!」


 よろめくウルフ達にセレナとサキ、ユリナの攻撃が繰り出される。弾けるようにウルフ達は光の粒子となって消えていった。


「騎士君、ありがとう!」

「どういたしまして。ヒナタ、突出し過ぎだから気をつけて」

「いやー、囲まれたところを一気にドカンってやるのが楽しいんだけどね」

「うん、まあ、気持ちはわからなくはない。けど、気をつけてね。」

「うん、わかった。ありがとう! 気をつけるね!」


 ヒナタを下ろして寄ってきたシルバーウルフを斬り伏せる。

 シロウは背後からシルバーバードに強襲された。だが、どこからともなく飛んできた矢にシルバーバードは撃ち落とされて瀕死の状態になった。

 瀕死の状態になったシルバーバードを斬り伏せる。ユカかルリかと思って飛んできた矢の方を見ると、城壁の上で矢を構えた【人間族ヒューマン】の男性が見えた。ツカサだった。

 ツカサは敵であるが、ありがとう、と手を振ると、向こうも手を振り返して、すぐさま次の獲物に弓を構えていた。

 乱戦、混戦、大熱戦。

 倒しても倒しても次々とやってくる。機械都市の防衛装置が稼働し迎撃しているが撃ち漏らしたモンスター達は城壁にしがみつき、乗り越えて都市へと侵入しようとする。

 城壁のプレイヤー達はそれを突き落として、遠距離攻撃のできるプレイヤーは空から侵入する鳥系モンスターを撃ち落とす。とにかく忙しかった。


 モンスターを倒してもシロウ達には経験値が入ってこない。後日精算されることになっている。

 次から次へと迫り来る銀色のモンスターを、シロウとセレナ、ウェンティが縦横無尽に立ち回り、仕留めていく。ウェンティは【剣の心得】を取得しているので、剣で斬り伏せたり、魔法で仕留めていく。基本的にシロウらはパーティプレイで動いているが、ヒナタが突出したり、突発的イベントが起こり、まだ連携に慣れていないユリナの手助けに入ったり、後方のユキやリサ、ユカやルリが狙われることもある。シロウらは互いにフォローしあっていた。

 つまりパーティの周りをぐるぐると回って常に状況を把握していないといけないのだ。


「……うー。なんでこんなことに……」


(これじゃあ騎士さんの邪魔ができないじゃないですか……)


 愚痴をこぼすユリナに申し訳ないと思いつつも、頑張ってもらうしかなかった。


「セレナ、お願いがあるんだけど」

「なんでしょうか?」

「ユリナちゃんのやる気をアップさせるためにセレナの力を貸してほしいんだ。ユリナちゃんのやる気をアップさせてくれたら、好きなものを奢る、だからお願い」

「……かしこまりました。約束を忘れないでくださいね」

「もちろんだよ」


 モンスターを斬り伏せつつ、セレナにユリナのやる気をアップさせるために頼み事を頼んだ。

 セレナは若干嫌がりつつも、ご飯を奢るという事に反応して不承不承になりつつも頼みを引き受けてくれた。


(んー、ご飯を奢るっていったらなんでも言うこと聞きそう……)


 ご飯で釣られた事に若干ちょろいと思い、なんでも言うことを聞くんじゃないかとちょっと邪な考えになる。

 もちろんシロウはそんなことするつもりはない。


「……何やら失礼なことを考えているような気がします」

「もー、そんなことないよ」


 セレナがジト目を送ってくるが、シロウは誤魔化す。


「ユリナ様」

「はい、なんですか? お姉様」

「ユリナ様が頑張っていただけたら、できる範囲でご褒美をさしあげます」

「お姉様、本当ですか!?」

「はい、もちろんです。私がで・き・る・範・囲・でお願いします」

「わかりました!! お姉様からのご褒美のために私、頑張ります!!」


 大好きなセレナからご褒美を貰えると聞いて、ユリナはやる気を出す。


(とりあえず、これでユリナちゃんは大丈夫だね。セレナの頼みだったらなんでも言うことを聞きそうだな)


 西門前の戦いはプレイヤー側が有利に傾きつつあった。何人かのプレイヤーはやられて死に戻ってしまったが、なんとか戦況は立て直せた。


「アイアンゴーレムが来るぞ! 気をつけろ!」


 誰かが叫ぶ。

 街道の向こう側にアイアンゴーレムが突き進み、土煙が立ち上っていた。

 アイアンゴーレムはシルバーウルフなどと比べるとかなり手強いモンスターだ。一人で倒せないこともないが、耐久力が高いので時間もかかるし、動きは遅いが攻撃力は高く防御力が高くないとほぼ一撃でやられる。


「【フレアバースト】!」


 炎がアイアンゴーレムに向けて爆炎が起こる。城壁の上にいた魔法使いが放ったようだ。

 上級魔法のようだが、耐えてゴーレムの進軍は止まらない。


『これならどうじゃ!』


 トトはボタンを押すと戦車のような物から砲身を展開されて、収束砲が放たれる。

 まともに食らったアイアンゴーレムは消滅した。何体かは生き残っているが虫の息に近かった。


「盾職は前に出てくれ! ウォール系の魔法を使えるやつは頼む!」


 どこからか聞こえてきた声に数人が従う。盾を構えた重装備のプレイヤーが、襲いくるアイアンゴーレムに向けて盾をかざした。


「【アースウォール】!」

「【ファイヤーウォール】!」

「【アイスウォール】!」


 土と炎と氷の壁が前面に展開し、ゴーレム達を分散させる。盾で動きを止めたゴーレム達に上空から弓矢部隊の矢が雨霰と降り注いだ。その隙に盾の間から槍を持ったプレイヤーがゴーレムを突き刺している。

 シロウ達はそこから漏れ出したゴーレムを確実に潰していった。

 ゴーレム達は次第に数を減らしていき、シルバーウルフやメタルスライムといった雑魚だけになった。どうも波があるに思え、嫌な予感がした。


「シロウ様、今のうちに城内に一旦引き上げたがいいかもしれません。他の門も気になります」

「だね。わかった。一旦引こうか」


 シロウがみんなに指示を飛ばし、ユキから城壁にかけられた縄ばしごで城壁の上へと上がっていく。シルバーバードがそこを狙ったりして襲ってくるが、城壁城の弓矢部隊や魔法使い、防衛装置などに射ち落とされていた。

 シロウ、セレナ、ヒナタ、ユキ、リサ、ユカ、サキ、ルリ、ウェンティ、レメと、城壁の上に消えていき、最後にシロウが城壁へと上がった。

 城壁の上は弓矢や杖を持つプレイヤーとNPCだらけだった。魔法を放ち地上のモンスターを倒し、矢を放って飛行モンスターを落とす。

 城壁を降りて、街の中に入ると消化活動や怪我人の手当てに走り回っている人達が見える。プレイヤーの人達も助けてはいるが、ほとんどのプレイヤーはモンスター撃退に回っている。


「騎士くんかリサさん、マナポーション持ってないですか? 手持ちが切れちゃって……」

「あっ、私もです」

「持ってるわよ。色々と多めに持ってきてよかったわ。とりあえず二人に十本譲るわね。また足りなくなったら言ってね」

「ありがとうございます。助かります」

「リサさん、ありがとうございます!」


 ユキは魔法主体のスキル構成だから、MPが切れるとマズいのだ。ウェンティは剣の心得を取得しているが、魔法の方が使う頻度が高かった。


「少し休憩しましょう」


 セレナが提案してシロウ達は城壁に寄りかかるようにして休憩に入った。

 シロウはメニューを開きモンスターの数、生き残っているプレイヤーの状況を確認する。


「どうやら全体的にモンスターの数は減ってきているみたい。参加したプレイヤーも三割は死に戻ってるみたいだよ」


 参加プレイヤーのところにハルカ、カオリ、コウキ、イオリにミヤビとツカサ、ヒカルとジュンにリュウタの全員は生き残っているみたいだった。


「よし、それじゃあもう一回戦闘に……」


 再び防衛戦に参加しようと、城壁へと上がるための石階段に足をかけたとき、外から悲鳴のような声が聞こえてきた。


「おいおい、マジかよ!

「ウソだろ!」

「ちょっとあれは……!」

「来るぞっ!」


 次の瞬間、ドカンッ! と分厚い鉄の門に衝撃音が走り、なにかが当たった衝撃で門が歪んでしまった。


「何が起こったんだ!?」

「一体なにが起こったのよ!?」


 衝撃に驚いたレメとヒナタ。


「門から離せ! ヘイトを稼いで向こうへ離脱しろ!」


 門の外から届く声を聞きながら、階段を一気に駆け上がる。

 城壁の上に立ったシロウの視線に飛び込んできたものは、大きな銀色の竜が尻尾を門に叩きつけているところだった。

 シルバーの鱗と青い双眸。象牙のような大きな角が二本、頭から後ろへと伸びていた。

 前脚と後脚は太く、その先からは鋭い爪が覗いている。首のところから長い尻尾の先まで背ビレが伸びているが、その背には翼がない。完全に地上特化の竜である。


「シルバードラゴン……」


 城壁に立っていた誰かがつぶやいた。


『ゴガァァァァァッ!』

「ブレスが来るぞ! 離れろおぉぉ!」


 誰かの声がきっかけにしたように、シルバードラゴンの口から火炎放射器のように炎の息が吐き出された。

 炎に包まれたプレイヤーが何人か光の粒子となり消え失せる。一撃だった。


「ぬおっ!?」


 間一髪、トトは戦車のような物を捨ててブレスの射程範囲から逃げ出していた。

 しかし、ブレスによって戦車のような物は焼け焦げて使い物にならなくなってしまった。


「正面に立つな! 後ろにまわっ……!」


 指示を出していた魔族の男性プレイヤーが、ブンッ、と振られた太い尻尾に吹っ飛ばされた。回転した勢いで、尻尾が城壁に叩きつけられて足下がその衝撃で大きく揺れた。

 幸い崩れることはなかったが、何回も繰り返されると危険だ。とにかくドラゴンを引き離して倒さないといけない。

 城壁の上にいたプレイヤーが騒ぎ始める。


「他の門から応援を呼ぼう!」

「無理だ! 四つの門全部にドラゴンが現れているらしい! ここにいる奴らで倒すしかない!」


 東西南北、全部の門にドラゴンが現れているようだ。そのうち一匹でも城壁を壊して街に侵入したら大変なことになる。


「わ、ドラゴンです!」

「けっこう迫力があるね」

「都市を守るために行こうよ、騎士君!」


 シロウ達のパーティは早くもやる気で、ここで見ていても仕方がないので、シロウ達も参戦といくのだった。


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