プリンスナイトと防衛戦1

「というわけでして今回だけでいいのでユリナ様をパーティに入れてもらってよろしいでしょうか?」

「皆さん初めましてユリナです。よろしくお願いします!」

「僕はもちろんいいよー」

「私もいいよ!」

「私も」

「私もいいよー」

「ふふふ、また可愛い子が増えたわねー」

「うん、いいよー!」

「みんながいいなら」

「私もいいですよ!」

「みんながいいならオイラはかまわないぞ!」


セレナの紹介でユリナが今回パーティに参加することになった。

ユリナの種族はエルフ族だ。


「真白様、ユリナ様には気をつけてください」

「ん? ユリナちゃんがなにかするつもりなの?」

「おそらくですが、ですので警戒はしていてください」


セレナはシロウにみんなに聞こえない程度の小声で話す。


「わかったよ。気をつけるね」


(お姉様と距離が近すぎます! ……なんでこんな人にお姉様は……)


ユリナはシロウがセレナとの距離が近いことに腹を立てている。

シロウはユリナからから向けられる嫉妬と怨嗟の視線に気がついていた。


(うわー……なんだか睨まれてる)


「ユリナちゃんはなにを使って戦うの?」

「私は糸を武器にして戦います。それと【体術】のスキル持ってるので格闘戦もいけますよ」


ユキの質問にユリナは答える。

シロウ達は【ヘルニス街道】に向かう。まずは連携を試すにはうってつけの場所なのだ。


「【スパイラルウィンドウ】!」

『ギャアアア!』


ユリナの糸で三匹のシルバーウルフが細かく切り刻み込まれる。


「すごいわねー。モンスターがバラバラになっちゃったわ」

「ここら辺のモンスターぐらいなら簡単に倒せますけど、ボス級のモンスターだとなかなか厳しいですけどね」


剣や弓、魔法などが多いが糸を使って戦うプレイヤーはあまり見ない。

しばらく進むとまたシルバーウルフが三匹出てきた。


「【クロススラッシュ】」

「【ブレイズキック】」

「【セイクリッドスラッシュ】!」


セレナとヒナタ、サキがスキルを放った。

三匹のシルバーウルフは真正面からセレナ達のスキルをまともにくらい、光の粒子となった。


次は『メタルスライム』が二匹現れた。

ユキはスライムを魔法で焼き払った。


『ギギギッ!』


さらに進むと今度は『シルバースコーピオン』が三匹。それらを倒して、さらに進むと次は『シルバークラブ』が。


「ねえ、なんかさっきからやたらと銀色のモンスターと遭遇してない?」

「単なる偶然だと思いますけど……」


疑問を投げかけるヒナタにユリナは苦笑しながら無難な答えを返す。

銀色のモンスターは硬いのが多く、ほとんどは山岳地帯に出現する。

こうも立て続けに銀色のモンスターが多く出現するとなるとおかしいと真白は思った。


「皆様、あの木陰で休憩しましょう」


セレナが丘の上にある大木を指差して提案する。

大木に背を預けてシロウは掲示板を開いて、突発的イベントがないか調べ始める。


「騎士くん、これってなにかイベントの始まってたりするのかな?」


尋ねてきたユキにシロウは小さく頷く。


「たぶんね。稀に突発的イベントが起こって普段出現しないエリアに別のモンスターが出現することがあるんだ。……と、なるほどねー。原因がわかったよ」


話を聞きながら掲示板を開いて調べていたシロウが顔を上げた。


「シロちゃん、原因はなにかしら?」

「現在、【機械都市フレスベルク】で大規模な戦闘が行われてます。多数のシルバーモンスターが攻め寄せ、都市が襲われているようです」

「えっ!?」

「騎士さん待ってください。モンスターは町などには入れないんじゃないんじゃないんですか?」


みんな驚きを表している中、ユリナが聞いてくる。


「うん、そうだね。でもこれは『イベント』だからじゃないかなって。現在、【機械都市フレスベルク】にいるプレイヤー達が迎撃に当たっているみたいです。転移門が破壊されたので、新しいプレイヤーが増援に来ることはできませんし、死に戻ると【エトワール】まで戻されて【機械都市フレスベルク】周辺のフィールドには入れなくなっているようです」

「……ってことは【機械都市フレスベルク】にいるプレイヤーと私達みたいな周辺フィールドをうろついていたプレイヤーだけでなんとかしろってこと?」

「ですね」


ユカの問いにシロウは答える。

何度か突発的イベントは起こったことはあるがここまで大きいのはあまりなく、あったとしても小さいのがちょこちょこ起こったことはあった。


「みんなはどうする?」

「どうするって参加するに決まってるじゃん! こんな機会滅多にないもん!」

「私もヒナタちゃんに賛成だよ。こういった突発的イベントに乗っていかないと。なんだかワクワクするね」

「私わたくしはシロウ様の指示に従います」

「セレナさんはブレないねー……。ま、私も賛成かなー。絶対なにか報酬とかあるよね、これ」

「私も賛成よ。あまり戦闘は得意じゃないけど、みんなの足を引っ張らないように頑張るわね」

「私も賛成! 素材がいっぱい集まりそうだし」

「私はセレナちゃんと同じで弟くんの指示に従うよー」

「私も賛成です! なんだか楽しみです!」

「私はお姉様が参加するなら……」

「オイラも賛成だぜ!」

「決まりだねー。みんな現実リアルの都合とか大丈夫?」


現在、リアル時間で夜の七時半過ぎ。ユキ達は大体いつも十時くらいにはログアウトする。シロウやセレナ、ヒナタやリサ、ユカやルリは調子に乗ると一時や二時までプレイしてたりする。

たまにサキが様子を見に来て途中でログアウトすることになったりはあるが。


「明日は日曜日だし、いつもよりログアウトが遅くても大丈夫だよ」

「たまにだったら私はいいよ」

「私はお姉様がログアウトしない限りはどこまでもご一緒します!」


全員最後まで参加するつものようだった。


「そうと決まれば【機械都市フレスベルク】まで急ごうよ! 早くしないと終わっちゃうかもしれないし!」

「そうですね! 銭は急げですね!」

「ルリちゃん、それを言うなら善は急げだよー」


ヒナタとルリが急げとばかりに走り出す。ルリの言い間違いにサキが訂正する。

シロウ達は【機械都市フレスベルク】へと急ぐために、草原から街道へ向けて走り始めた。

【機械都市フレスベルク】に近づくにつれて、空に煙が立ち上がっているのが見えてきた。都市が燃えているみたいだ。

『アストラル』にある町はというのは大抵城壁が存在する。それがモンスターなどから町を守り、怪しい人物の侵入を防いでいるのだ。

村などには城壁はなく塀などで囲っていることがある。

都市が燃えているということは、すでにモンスターに侵入してしまっているということに他ならない。


「あらら? 本当にヒナタちゃんの言う通りイベント終了しちゃったかしら? 防衛失敗?」

「ええー! そんなー!」

「お姉ちゃん、ヒナタちゃん。まだのようだよ」

「まだ城壁の上や門の前で戦っている人達がいます!」


ヒナタがイベントに参加し損なったことを嘆いていると、横にいたユカとルリが口を開いた。

二人の目が金色に変化している。遠くを見渡せる【鷹の目】を発動したようだ。


「ってことはまだイベントは続行中ってわけだね!」

「これって私達も参加していいんだよね?」

「みたいだね。今、僕のところに【機械都市フレスベルク】から参加申請のウィンドウが開いたよ。ギルド【スターライト】は緊急クエスト【襲い来る銀のモンスター】に参加しますか? と」


シロウは『参加する』を選び、シロウ達【スターライト】は緊急クエスト【襲い来る銀のモンスター】に参加することになった。

するとウィンドウの右側に参加しているギルド名、個人名がずらりと並んだ。灰色表示になっているのはおそらく全滅したプレイヤー達だろう。


「あれ?」

「シロウ、どうしたんだ?」


参加ギルドの中に知ってるプレイヤー達があったので思わず声が出た。

ハルカ、カオリ、コウキ、イオリの幼馴染パーティだ。シロウが【パラノーマル森林】で【カレイドブラッド】から助けた人達だった。

他にもランキング四位のミヤビに、プリンスナイトのツカサもいた。さらにユキの幼馴染であるヒカルとジュンにリュウタもいた。

戦闘中かもしれないが、情報を得るためにハルカの方に連絡をとる。


「もしかしてシロウ? 今ちょっとイベント中で忙しいんだけど……」

「うん、知ってるよ。僕らのギルドも参加中なんだ。僕らは今城壁外にいるんだけど、今どういう状況かな?」

「シロウも参加中なんだね! ええっと、今は四方から攻めてくるモンスターを撃退してるよ。西門の守りが薄くて、城壁を乗り越えて何匹か侵入を許しちゃったらしいよ。できればそっちを助けてくれるとありがたいなー」

「なるほど、ありがとね。忙しいところをごめん、またあとで」


ハルカから得た情報をみんなに話す。


「西門ってあそこ、目の前の門だよね? けっこう戦闘が激しいけどどうする?」


ユキがシロウの方を振り返りながら尋ねる。


「行こう。イベントを生き残ることも大事だけど、イベントが失敗に終われば、報酬などが少なくなってしまうし、貢献度が高い方がいいものが貰えるからね。それにモンスターに襲われている人達もいるかもしれないから、その人達も助けたい」

「よーし! そうと決まれば、いざ突撃ーーッ!」

「あっ! 待ってヒナタちゃん! 先走っちゃだめだよー!」


飛び出したヒナタをユキが追いかけて、シロウ達も西門前に群がるモンスターと、それを撃退するプレイヤー達の戦いへとその身を投じていくのだった。


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