プリンセスナイトとプリンスナイト

 セレナと出かけた次の日、二人はアストラルにログインした。

 ログインするとセレナにメッセージが送られてきた。


「真白様、百合奈様のこと覚えていますか?」

「昨日の子がどうかしたの?」

「実は先程メッセージが来て、私と冒険をしたいとのことで」

「ふむ、それなら僕は別行動した方がいいかな?」

「真白様もご一緒にどうですか?」

「んー、セレナと一緒に冒険をしたいんだと思うよ。僕がいたら邪魔になるだろうし、楽しんできなよ」


 百合奈はセレナをお姉様と慕っているので、二人での時間を過ごしたいだろうと思い、真白は遠慮した。

 それに初対面の時から嫌われているので空気を悪くすると思ったからだ。


「わかりました。何かあれば連絡してください」


 セレナは百合奈と会うために去って行く。


「なあなあ、今日は何するんだ?」

「のんびりしながらエリア探索でもしようかな」


 今日の予定ではエリア探索をするつもりでいた。

 ヒナタとリサ、ユカにサキとルリはログインしていないようで、ユキはログインしている様だ。

 シロウはトトから報酬で貰った機械に乗り、山を越えていく。

【レニアル高山】は多数の鉱石が採掘できる。硬いモンスターが出現しプレイヤーレベルが高くないとキツいがシロウは試しにソロで探索を進めるために来たのだった。

 シロウは剣を【形態変化】させて杖に変える。進んでいくと、【気配察知】が捉えて岩場の陰からのろのろと一匹の亀が出てきた。

 亀と言っても大きさが大型犬くらいで甲羅は鉄の様に黒光りしている。シルバータートルだ。


「【ファイアーストーム】」


 炎の竜巻がシルバータートルを包む。


『グギャッ!?』


 火だるまになるが硬いモンスターだけあってまだ死なない。

 シロウは杖を【形態変化】させてハンマーに変えた。


「それっ!」


 シロウは突っ込み、ハンマーを振り下ろした。

 振り下ろしたハンマーはシルバータートルに命中して光の粒子となって消えていった。


「ふぅ、ちょっと大変だな」

「なあ、ここは硬い敵が多いみたいだけど一人で大丈夫なのか?」

「んー、まあきつくなってきたら街に戻るよ」


 やばくなっても星門スターゲートを使えばビーコンを設置したギルドホームに戻ってくることができる。

 シロウらはひたすらゴツゴツとした岩場を歩いて進んでいく。なかなか平坦な場所がなく、その上でモンスターが次々と襲ってくるので気が休まる気配がない。

 セーフティエリアの一つくらいあればありがたいのだが全くない。

 マップを確認してみると半分くらい超えて、すでに三分の二は来ていて思ったより進んでいた。

 もうちょっとだ、頑張ろ。と、気合いを入れ直すと【気配察知】に複数の反応を捉えた。

 なにやら戦闘の音が聴こえてくる。急いで岩陰に隠れてながら近づいてみると、四人のプレイヤーが一匹のモンスターと戦っているところだった。

 プレイヤーは男女の四人組で、一人は仲間のユキだった。

 男の方は勇者が装備してそうな鎧、手には聖剣みたいな片手剣。端正な顔立ちで人間族ヒューマン、見た目はシロウと同い年くらいだ。最近イベントで八位に入ってきたヒカルだ。

 もう一人の男は耐久力の高い鎧にガントレットを装備。筋骨隆々とした体型の魔族。見た目がシロウより年上に見える。

 一方女の方は和装で武器は刀。高い身長に引き締まった体。シロウと同い年くらいだ。

 四人に襲いかかっているモンスターは、鉄でできた体『アイアンゴーレム』だった。

 アイアンゴーレムは倒れている三人に大きな拳を振り上げた。

 三人はこのままではやられると思った。

 そう思ったとき、シロウは岩陰から飛び込んできて、アイアンゴーレムに思い一撃を与えた。

 それと同時にどこからか矢が飛んできた。


「【シグナス・スライサー】」

「【ストライクショット】!」


 よろめいたアイアンゴーレムが少し後退する。

 ポップした四人の名前、『ヒカル』と『リュウタ』『ジュン』と『ユキ』のうち、リーダーマークのあるヒカルの方へシロウと矢で援護してきた男性は戦闘参加申請を送る。

 すぐさま『許可』と返信がきて、戦闘に参加できるようになった。トラブルを避けるために必要なことなのだ。

 矢を放った男性がパーティに入ると、シロウは力が漲るような感じがした。


「どうして騎士くんがここに?」

「後で説明するよ。時間を稼ぐから今のうちに三人の回復をお願い」

「う、うん。わかった!」


 体制を立て直すまではシロウが時間を稼ぐつもりだ。

 矢を放ってきた男の人を見てみると、名前がツカサとポップした。


「ツカサさん、僕がなるべく引きつけるので矢での援護をお願いします」

「わかった。任せてくれ」


 振り下ろされるアイアンゴーレムの拳を躱し、分身を出してその懐にへと入ってガラ空きのボディに【ファントムラッシュ】を叩き込む。

 そのままさらに【クロススラッシュ】を入れると【追撃】が発動した。

 よろめいて片足を上げたゴーレムに【ソードビット】を当てる。

 アイアンゴーレムはバランスを崩して地面に倒れる。


「【ストライクショット】!」

「【光剣】!」


 倒れたアイアンゴーレムへ向けてツカサの矢が、ヒカルの光り輝く剣が炸裂する。そのチャンスを逃さないとばかりに、回復して動けるようになったリュウタとジュンも続く。


「【パワーラッシュ】!」

「【三ノ太刀・炎楼えんろう!】


 倒れているアイアンゴーレムに拳を何発も入れていく。ジュンは跳躍すると、炎を纏った刀を倒れているアイアンゴーレムの胸部に振り下ろす。

 敵の残り体力が三の一になったとき、突然アイアンゴーレムが大きく吠え、全身を覆っていた鉄の塊を四方八方に飛ばしてきた。

 全ては躱しきれず、二、三発食う。

 基本ダメージはそれほど大きくはないが、この中で防御力の低いジュンは、全体力の六分の五を持っていかれていた。

 そのままアイアンゴーレムは今までの動きとは違う速さで突進し、ジュンを庇いに入ったヒカルとリュウタ、シロウに向けて腕を振り回した。


「【防御障壁】【多重障壁】【鉄壁】」

「【防御障壁】【多重障壁】」


 シロウとユキは魔法を使い障壁を展開する。【鉄壁】は防御力を大幅に上げる能力だ。


「わっ!?」

「くっ……!」

「がっ!?」


 ダメージを軽減できたとはいえシロウとヒカルが吹っ飛ばされる。リュウタは【不動】のスキルを持っていたのか吹き飛ばされることはなかった。

 だが、アイアンゴーレムに吹き飛ばされるなかったリュウタにさらに追撃をかけようと、その大きな拳を振り上げた。

 一発目はなんとか防ぐことができたものの、次の攻撃は防ぎきれず間に合わない。

 このままではやられる。そう思ったとき、アイアンゴーレムの頭上に矢の雨が降り注ぐ。


「【レインボーアロー】」


【レインボーアロー】を受けてアイアンゴーレムはボロボロと体が崩れていく。

 虫の息に近く、そのチャンスを逃さないとばかりにヒカルとジュンは攻める。


「【光剣】!」

「【五ノ太刀・雷火】


 光り輝く剣と雷と火を纏った刀がアイアンゴーレムに振り下ろされる。


『ゴォォォォン……!』


 低い断末魔の声を上げてアイアンゴーレムがガラガラと崩れて、ゆっくりと光の粒子となっていき、倒れた。


「はあぁぁぁー、しんどかったぜ」


 リュウタはどかっとその場で座り込む。


「あっ、あの、助けてくれてありがとうございました!」

「なに、気にしないでくれ。たまたま通りがかっただけさ。参加させてもらってこちらこそ感謝だよ」

「僕もたまたま通りかかっただけだし、ユキ達が無事でよかったよ」


 ユキが駆け寄り、頭を下げていた。ツカサは人当たりの良い温厚そうな人だ。

 人当たりの良い温厚そうな人に見えるが隙がなく、相当強いと感じる。

 戦っている時は気づかなかったが、プリンセスナイトの効果が重複してステータスが上がっていることに気づく。

 ツカサの方をチラッと見ると、目が合いシロウにニコッと笑いかけ、端正な顔立ちなので女性が見たら見惚れそうな笑顔だった。

 シロウは何かあってもいいように警戒をする。


「ツカサさんのおかげで助かったッス。ありがとうございます」

「無事で良かったよ」

「ツカサさんも町に行くんですか?」

「いや、俺は町から機械都市に帰る途中さ。向こうを拠点として素材を集めていたんだ。君たちのおかげで最後にいい素材を手に入れられた。それじゃあ俺はこれで。機会があればまた会おう」


 ツカサは去っていった。シロウは去っていったツカサが見えなくなるまで、警戒を緩めず見つめるのだった。


「助けてくれてありがとう、助かったよ。ユキからはよくギルドの話を聞くよ」

「三人はユキの友達なの?」

「うん、そうだよ。私たちは幼馴染ってやつさ」

「へぇー、とっても仲が良いんだね」

「うん、まあでもヒカルとリュウタには世話が焼けるよ。二人は気合いと根性であのゴーレムを倒そうとしたんだもん、私達は逃げようと言ったのになかなか言うことを聞かなくて。シロウくんとツカサさんがいなければ全滅してたところだったよ」


 ヒカルとリュウタはジュンに責められて「うっ」と、唸って気まずそうにしている。


「まあまあ、ジュンちゃん落ち着いて。二人も反省してるみたいだし許してあげて」

「いいかいヒカル、リュウタ。勝てないときは逃げることも視野に入れておかないと」

「……すまない」

「……すまん」


 二人は反省しているのでジュンはそれ以上言うことはなかった。

 ジュンはなんだか二人の姉みたいな感じで、手の掛かる弟を見ているかのようだった。

 アイアンゴーレムを倒したシロウ達は【レニアル高山】のフィールドをやっと抜けて、【ウララ町】へと向かう街道へと辿り着いた。

 街道をしばらく行くと、遠目に小さな町が見えてきた。町に入れば安全圏内なのでPK行為ができなくなる。

 シロウは町に入るまで気を抜かないでいた。

 ユキはシロウがツカサと会ってから様子がおかしいことに気づく、本人は表に出さないがユキはなんとなくだが些細な変化に気づいた。

 シロウは何かから警戒していた。ユキはシロウに近づき三人には聞こえない小声で話す。


「騎士くん、ツカサさんと会ってから様子が変だけど、何かあったの?」

「えっ? ……そんなにわかりやすかったかな?」

「ううん、……そのなんとなくかな。ずっと何かに警戒をしているから」

「何かあったのか?」


 ユキとレメは心配そうにシロウを見つめる。

 シロウはツカサのことについて話す。


「そんな……でもツカサさん優しい人にしか見えなかったよ」

「言いたいことはわかるよ。でもツカサさんがパーティに入ったとき力が漲るような感じしなかったかな?」

「確かになんとなくだけど、いつもよりもさらに力が漲ってたような……」

「じゃあ、ツカサはプリンセスナイトだって言うのか?」

「うん、かもしれないんだ」

「だから、騎士くんはあんなに警戒をしていたんだね」

「たまたま通りかかっただけなのか?」

「嘘をついてる感じはしなかったけどね」

「だよね。私も嘘をついてるとは思えないよ」


 いつでも襲うことができれば今頃、ユキ達は全滅して二度とアストラルにログインできなかったはずだ。

 三人はは疑問に思ったが、本当にたまたま通りかかっただけかもしれないとも思うのだった。



 PKギルド【カレイドブラッド】のギルドホーム。

 ギルドホームに戻ってきたツカサは七冠の一人、跳躍王キングリープに報告していた。そばにはノウェムとヤエがいる。


「ソルオーブは手に入ったのかい?」

「ああ、手に入ったぜ」

「ご苦労様」

「ああ、そうだ。帰る途中でたまたま、迷宮寺昴のプリンセスナイトに会ったよ」

「戦ったのかよ?」

「いいや、戦わなかったさ。モンスター相手に苦戦しているパーティがいてね。手助けに入ったら偶然にもプリンセスナイトがいたのさ。」

「まあ、別にどっちみち戦うことになる以上、遅かれ早かれ気づかれるさ。さて三人には次の任務を与えるよ」


 跳躍王キングリープはノウェムとヤエ、ツカサに次なる任務を命令する。


「それで次はどいつを狙えばいいんだ?」

「……セレナというプレイヤーにしよう。能力の上昇速度が他よりも優れているし厄介だ」

「分かった! まかせとけ!」

「それじゃあ俺はこれで。 後は頼んだよ……」


 そう言って跳躍王は姿を消してログアウトする。


「あーあ。次の仕事もまためんどくさそうですねー。どうしてこう七冠ってのはみんな人使いが粗いんでしょうねー」

「まったくだ。始めて会った時からめんどくさがり屋だったお前と同じだな!」

「そうですねー。それを言うなら最初に会った頃からずーっと身長が伸びないノウェムも変わらないですけどねー」

「なんだと!?  よくも身長のことを口にしたな!  俺が気にしていることをもう知らん!」


 身長のことを指摘されてノウェムはぷりぷりと怒り出ていく。


「ちょっとー、どこ行くのですかー?」

「知らん! ついてくるな!  お前のいないところだ! 多分な!」

「とか言って、真面目だから標的のこと調べにいくんですよねー?」


 相棒としてノウェムの側にいるのでヤエは次の行動を予想していた。


「だから知らないって言ってるだろ!  このめんどくさがりの怠け者! ……ついてくるなら勝手にしろ!」

「そんなに早く歩かないでくださいよー。 少しくらい追いかけるこっちの身になってくれてもいいんじゃないですかー?」

「本当、二人って相性悪そうなのに仲が良いよね」


 一見相性悪そうな二人だが、同じ目的を持つ者同士で喧嘩しつつも仲が良かった。

 ──アストラルで暗躍を続ける。彼らの目的をシロウたちが知るのは、まだ先の話である……


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