プリンセスナイト
ーー2094年代。VRを用いたネットワークデバイス「シグマ」の登場でVR技術が世界中に普及した。
世界中で大流行しているVRMMORPG「レジェンドオブアストラル」
アストラルには最初にゲームをクリアしたプレイヤーの願いが叶うという噂があった。
少年、少女達はアストラルの世界を救う存在「プリンス」「プリンセス」を目指して頂点を競い合う。
〈レジェンドオブアストラル〉自由度が高く無限の可能性があり、スキルの組み合わせ次第ではトッププレイヤーに輝ける。
ーーアルテミスの目覚めと言われるようになって、一年と少しが経った頃──
「……おっ! 間違いないあの時の少年だね。さーて、 どうやってアストラルを始めてもらおっかなー……」
ーー公園のベンチに腰掛けた少年の運命が大きく変わる瞬間は、すぐそこまできていた。
ーーとある休日の昼下がり。真白は頭を抱えていた。
見える。目を凝らすと、さらによく見える。たくさんの白い玉のようなものが、フワフワと飛行している。
気付いたのは昨日のことだった。
神様が『身体能力を強化しておく』と言っていたので、視力がどれだけ良くなったのかを試していたところ、白い玉が飛んでいるのが見えた。
他にも、半透明の人や小さいおっさんなんかも見える。幽霊とかそういう類の存在なのだろう。
視力もいいのだが、そこまでは見えないで欲しかったと思う真白だった。極力意識せず、無視することにした。
真白はそこで気分転換に散歩をすることにしたのだ。
(能力は極力使わないで悪用しない。人の助けになるように使おう)
そう真白が決意していると。
「ーーやっと見つけたー! 急な話で悪いけど、キミに今からアストラルをやってほしいんだ、ちょっとキミのシグマを借りるね」
「あのーどちら様ですか?」
いきなりでてきた女性は真白のシグマを取るなり、機材を出して何かし始めた。
「よしっ、完了だね。私は迷宮寺昴めいきゅうじすばる、よろしくねー。はい、キミのシグマ返すね」
「ありがとうございます……? お姉さんなにしたんですか?」
「あはは、そう警戒しないで大丈夫だよ、ちょっとキミのシグマにプリンセスナイトのデータを入れただけだから、はい耳を出してねー……よいしょっと。」
「お姉さん?」
迷宮寺昴と名乗る女性は真白にシグマをつけてくる。真白は状況が読めずになすすべもなく抵抗をできなかった。
「痛くしないから動かないでねー。……よしっハマった! 起動準備OK! ダイブ・アストラル!」
『ーー認証完了。アストラル、起動。起動中は仮眠状態になるためプレイ環境にお気をつけ下さい』
「アストラルにログインしたら、私の代わりに事情を説明してくれる娘がいるから、その娘に色々と聞くといい。セレナって娘だよ。」
「ちょっと待ってください。お姉さんは何者で何がもくてき……ねむく、なってき……」
「今だけは信じてよ、キミと出会うために世界中を逃げ回ったんだからさ。ーー……キミに、太陽と星の祝福を」
晃と名乗る女性の言葉は最後まで聞こえず目の前が真っ暗になり、真白はアストラルにログインした。目を覚ますと真白は前回ログアウトしたエトワール王国の中央通りの噴水前だった。
このエトワール王国は現実にも実在しており、アストラルを投資している国なのだ。
「よう! 来たみたいだなシロウ。今日はなにをするんだ?」
「レメ。いつもの様にレベル上げや、ソルオーブを集めたいところだけど……」
「何かあったのか?」
「変な女の人に無理矢理、アストラルをログインさせられたんだ」
シロウがアストラルにログインすると目の前に妖精が現れた。彼女の名前はレメでプレイヤーをサポートするナビゲーション・ピクシーだ。
「すみません、お尋ねしますがシロウ様ですか?」
「はい、そうですけど。…もしかしてお姉さんが言ってたセレナさんですか?」
「はい、そうです。こうして話すのは初めてですね。隣にいるのは…」
「オイラはレメだ。よろしくな!」
「はい、私はセレナです」
彼女はセレナと名乗った。オレンジの髪色に日が当たり、きらめいている。黒を基調としたドレス風のタイトな洋服だで、英国のメイドのようであった。表情を変えることはなく、美人でクールな人だ。
彼女は上位プレイヤーの一人で高い回避能力と素早さを兼ね備えていて、ギルドに勧誘をされているがどこにも所属することなく、ソロ活動をしている。何度か見かけたことはあっても、こうして話す機会はなかった。
「シロウ様、昴様がご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「別に怒ってませんし気にしてないんで、頭を上げてください。ちゃんと説明はしてくれるんですよね?」
「はい、もちろんです」
頭を下げるセレナに慌てて真白は頭を上げる様に促し説明を求める。驚きはしたが怒る気はなかった。
「シロウ様は『プリンセスナイト』『プリンスナイト』はご存知ですか?」
「戦闘指揮に特化したレアな存在だろう?」
「レメ様の言う通り、概ねそんな感じです。プリンセスナイトは七セブン冠クラウンズに力を与えられた者たちのことを言います。」
「つまり…七冠の一人である昴さんに僕はプリンセスナイトとして選ばれたと?」
「はい、そうです」
なぜ自分が選ばれたのか真白は気になった。雑誌のインタビュー記事に載っていることを見たことはある。昴とは面識がなくまったくの初対面なのだ。
「なぜ僕が選ばれたんですか?」
「申し訳ありません。私も詳しくは存じ上げてないのです。どうか昴様の助けになってくださいませ」
「あのお姉さん……昴さんは困っていて助けてほしいってことですかね?」
「はい、そういうことになります。現在昴様は七冠のメンバーと決別をして追われている身です。なので私わたくしは昴様の代わりとしてシロウ様のサポートをすることになりました。どうかよろしくお願いいたします」
「おう! こちらこそよろしくな!」
「わかりました。僕に何ができるかはわからないですけど協力します。こちらこそよろしくお願いします。」
「突然こんなことに巻き込まれて、怒ったり文句言ったり断ることをしないのですか?」
「驚きはしましたけど、困っているなら力になりたいです」
昴に無理矢理、アストラルにログインさせられて驚きはしたが理由があってのことなので別に怒る気はない。シロウは困っているなら、力になりたいのだ。
「ありがとうございます。シロウ様、私のことはセレナとお呼びください。それと敬語も不要です」
「うん、わかった。そうさせてもらうよ。後できればシロウ様はやめてほしいな……」
「習慣の様なものですのでお気になさらないでください」
真面目というか堅いというか、これはなにを言っても無駄だろうなとシロウは思った。
「シロウ様にはソルの塔の頂上を目指してもらいます」
「ソルの塔を目指すには確か…鍵であるソルオーブを集めることと闘技場での勝利だったよね?」
「はい、ソルオーブを十二個集めること闘技場での24勝ですね」
「なるほどねぇ…」
パーティを組むことはあってもギルドに入ることはなかった。アルテミスがなんでも願いを叶えることに興味はある。頂上は目指しているがシロウはアストラルを楽しむことが目的なのだ。
「セレナは叶えたい願いはある?」
「私は…いえありません。シロウ様は叶えたい願いはないのですか?」
「僕もないかなぁ。頂上を目指してはいるけど、叶えたいほどの願いはないからね。僕はアストラルを楽しむことが目的だから」
「はい! オイラは美味しい物をいっぱい食べたいぞ!」
何かセレナは一瞬逡巡したような感じをしたが、会ったばかりなのでシロウは気のせいかと思った。レメはというと、自分の欲望に忠実だった。
「今、僕の体がどうなってるかわからないから、僕は一度現実リアルに戻るよ。色々とまたあとで話そう」
「変なヤツにログインさせられたって言ってたな」
「昴さんに無理矢理、公園でアストラルをログインさせられてね。現実の体の状況がわからないんだ」
「なぁ、なんで慌ててないんだよ?」
「あはは、焦っても仕方ないからねー」
セレナとフレンド登録をして、シロウはメニュー画面からログアウトボタンを押したが、反応がなくいつまで経っても元に戻れなかった。
「……って、あれ? ログアウトできない?」
「ーーいやぁごめんね少年! どうもこっちの設定ミスでまだログアウトできないみたい」
ログアウトできないでいることに少し焦ると画面から昴がでてきた。
「ええっー…どうすればいいのか教えてください」
「んーっとね、ボスを1匹倒さないとログアウトできないっぽい。多分」
「…….多分って。ずいぶんと適当だなぁ」
レメがジト目を向けて呆れる。
「セレナから聞いてはいると思うけどキミがプレイヤーの女の子を導いて、プリンセスにしてあげて」
「それがプリンセスナイトとしての役目ですか?」
「そうそう。そのためにはオーブが必要で各エリアボスを倒すと手に入るオーブを集めて、塔の最上階に行く。これがゲームクリアの条件なんだ。ソルオーブを集めるだけじゃアストラルはクリアできないんだよねー、闘技場もやって勝利すること。てなわけでソルオーブ集めがんばー……」
「なんだか慌ただしいやつだなぁ」
「あはは、でも悪い人ではないと思うよ」
「お前は巻き込まれたんだから怒った方がいいと思うぞ」
些か強引なところはあるが、たぶん悪い人ではないと思った。
「さっさとボスを倒して現実に戻らないとね」
「ああ、そうだな!」
「このようなことになって申し訳ありませんシロウ様」
「あはは、大丈夫大丈夫。それに今、一緒にアストラルで遊べるのも話せるのも昴さんのおかげだし、 いまは全力で楽しんで遊ぼうよ」
「──全力で遊ぶですか……なるほどでは全力で楽しむとしましょう」
申し訳なさそうに謝るセレナに、シロウは苦笑いになりつつ気にしてない。この出会いに感謝し全力で楽しむことにするのだった。
To be comtinued
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