神様と遭遇

 真白は踏切で転んだお爺さんを助けようとして電車に撥ねられて死亡したはずだった。緊急停止ボタンを押したが、間に合わず真白は思わず咄嗟で助けに行った。


「ここは……」


 目を覚ますと、真っ白な空間にいた。


「あれ? さっき電車に撥ねられて……」


 体を見て触れる、無傷のようだ。激しい衝撃の後、視界が真っ赤に染まるほど血を流して全身の骨が折れていたような気がするのだが真白は傷どころか痛みもない。


「ホッホッホッ、ここが現実ではないからのう」


 突然、誰かに話しかけられた真白は振り向くと、そこには見覚えのあるお爺さんが立っている。

 真白が助けに行ったお爺さんだ。


「ホッホッホッ、戸惑っているようじゃな。わしゃ神じゃよ」


(神様?……あー、思い出した。踏切で転んでたお爺さんだ。この人を助けようとして、僕は電車に撥ねられたんだ)


「その節は、すまなかったのぉ。人の体を作って下界まで遊びに行ってたんじゃが、あまり下界に行くことがなくての、どうにも慣れなくて、踏切で転んで膝を痛めてしまったんじゃ。そこへ電車がきて、お主を死なせてしまった」


 神様と言われても信じ難いところなのだが、本当に神がいるのは驚きだ。


「本当にすまなかった。お主のような心優しい人間を死なせてしまうとは、一生の不覚じゃ。」


 死んでしまったショックがある。真白にとって大切な人達を残してしまうのが心配だ。


「そこでじゃ。お主、もう一度人生をやり直してみたくはないか?」

「人生をやり直す?」

「そうじゃ。流行りの異世界転生じゃのう。あらゆる種族が暮らし、剣と魔法が存在する世界じゃ。そこへ、行ってみたくはないかの?」


 異世界転生に興味がないわけじゃないが、真白にとってはどうしてもやりたいことがある。


「あのすみません、転生じゃなくて蘇生してもらうのは無理ですか?」

「なんじゃ、異世界転生には興味ないのか?」

「興味はありますけど、その…大切な人達を置いていってしまうのが心配で……それとアストラルができなくなるのはいやです」


 大切な人達を残してしまうのは嫌だが、アストラルをクリアできずに死ぬのも嫌だった。


「ホッホッホッ。変わったやつじゃのう」

「そうですかね?」


 神様が面白そうに真白を見る。


「それで蘇生はしてもらえるのですか?」

「うむ、わかった。元の世界に蘇生してやろう」

「ありがとうございます」


 蘇生してもらえることに真白はホッとする。


「よいよい、元はと言えばワシのせいじゃからな。詫びのサービスとして、能力を授けよう。身体能力の強化をしておく。技能の取得能力も上げておこう。能力創造。記憶力向上。おまけにワシの能力をほんの少しだけ授けよう。超能力、魔術、陰陽術、などを一目見れば習得できるはずじゃ。使い方はおいおい分かるはずじゃ」

「蘇生してもらえるだけで充分ですので、能力はいらないです」


 土下座する勢いで、真白は全力で拒否する。能力なんてものを貰ったら、変なことに巻き込まれる予感がするので、真白としては普通にアストラルをプレイしながら日常を送りたいのだ。


「まあまあ、そう言わずにワシからの贈り物だと思って受け取ってほしいのじゃ。お主はお人好しで自分の命を顧みずに人助けをするから、その手助けになってほしい。それにお主はどの世界線でも……いやなんでもない。色々と話をしていたいが、そろそろ時間じゃ。」

「何か気になるようなことを言いかけませんでしたか? それと超能力とか存在するんです?」

「なんでもないから気にしないでいいぞ。超能力などは存在するが、能力を持たない人間などはそうそう遭遇しない。まあ中には超能力などの力を知った研究者が、兵器開発や実体実験をする奴らもいるがのう」


 何か言いかけた神様に真白は気になったが別にたいしたことではないことだろうと思うことにした。なんだか神様が意味深い発言をしている。

 少し名残惜しくもあるが無事に生き返ることができるのは良かったと真白は思う。


「達者でな」

「はい。神様も、もうドジらないように気をつけてくださいね」

「ほっほっほっほ!そうじゃな、気をつけるとするわい。それではのぉ。能力を上手く使うといい」

「本当にいらな……」


 言い終える前に白い光に包まれて真白は意識を失った。


「どうかその力を上手く使って大切な人たちを守れるように頑張ってくれ」


 神様は元の世界に戻った真白に向けて意味深ワードを呟いた。

 目を覚ました真白は辺りを見渡すと、電車に撥ねられた場所に戻ってきた。手には手紙が握られており、めくると「お主が死んだことは無かったことにしておる。事故が起きる前の時間軸に戻しておいたから安心するがよい」

 無事に蘇生できたことにホッとした真白は不思議な体験をしたなと思いながら帰宅したのだった。


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