第12話 問題点
『主! 朝だよ!』
程よく気持ちの良い重さが、腹部へと伸し掛かる。
恐らく毎朝恒例になって行くであろう、クロのダイビング目覚ましで覚醒を果たすと、元気よく尻尾を振るその頭を、優しく撫でまわした。
気持ち良さそうな顔をしているクロを横目に時計を確認する。時間は8:30を示していた。クロのお陰もあり、今日はしっかりと朝に起きられたようだ。
そんな安堵感と共に、昨日の夜を思い出す。
昨日は結局、九大ダンジョン攻略と強くなる事を決め、すぐに寝てしまった。ケルベロス戦の疲れが抜けきっていなかったのだろう。それでも、これからの方向を決められた事は、大きな一歩だと考えている。
しかし、そんな九大ダンジョン攻略にはいくつかの問題点も存在していた。
まず一つ目に攻略難易度。一般ダンジョンより格段に難しいという事は分かっているが、逆に言えばそれくらいしか分かっていない。クリアした者もいなければ、国が攻略を固く禁止しているため、どれ程の攻略難易度を誇るのか、正確な事が何一つ分からないのだ。
二つ目に情報。九大ダンジョン内のモンスターや階層の深さ、場所に至るまで、ほとんどの情報が明らかにされていないのだ。我々一般人に分かるのは、とある事件で明らかになった獲得出来る金銭と、九ヶ国に存在しているという事実だけ。そのため様々な憶測や噂が飛び交っており、一般ダンジョンは深くて10階層しかないが、九大ダンジョンは100階層あるだの、国の重鎮しか知らない地下施設があり、そこに入り口があるだの、言われたい放題なのが現状だった。
三つ目に日時と金銭問題。僕が高校生である事を踏まえると、攻略に行けるのは精々夏休みと春休みの期間だけ。さらに、八ヶ国には飛行機で行く必要があり、攻略に何日掛かるか分からないため、滞在費も馬鹿にならない。冒険者をやっていたとは言え、今まで足手まといでしかなかった僕が、それ程お金を持っているはずもなく。九大ダンジョン攻略に大きく立ち塞がった現実的な問題だった。
そして最後、経験不足。これが最も大きな問題だった。確かに僕は原初のダンジョンで能力を覚醒させ、最強とも言える世界を統べる者を手に入れた。しかし、その強さは使いこなせてこその物であり、今の僕は一割ほどの力も発揮できていない様に感じられた。ケルベロスにもシエラがいなければ確実に勝つことは出来なかったし、そもそも僕は、世界を統べる者に対する理解が無さ過ぎた。圧倒的に様々な経験が不足しているのだ。
大きな問題点を挙げただけでも、これ程の数があるのだ。その全てを解決しないまま九大ダンジョン攻略に向かうのは、不安を通り越してよもや無謀と言うものだった。そのため今日は、これらの問題点についてシエラと話し合う予定だったのだが。
『主、クロお散歩行きたい』
大人しく撫でられていたクロが、懇願するような声で呟く。
どうやら、今日の予定はお散歩に変更になりそうだ。
しかしそれも悪くないだろう。クロとシエラはこちらの世界に来てから、まだ一度も外に出ていない。こちらの世界がどうなっているか、説明や散策も兼ねながら話し合えば一石二鳥だ。まあ、シエラならもう知っていそうな気もするけど。
「シエラ。今日の話し合い、お散歩しながらでも良いかな?」
『勿論でございます。ご主人様』
「ありがとう。それじゃあ、早速準備しようか。クロ、お散歩に行くよ!」
『やったー! 主とお散歩! 早く行こう! 早く行こう!』
嬉しそうに駆け回りながら、時折待ち遠しそうに向けてくるその顔は、今日の太陽より眩しかった。
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