第11話 九大ダンジョン
九大ダンジョン。
オーストラリア、アメリカ、イギリス、イタリア、スペイン、ドイツ、フランス、ロシア、日本に一つずつ存在している、一般ダンジョンとは一線を画す存在。
その攻略難易度はさることながら、獲得できるお金も一般ダンジョンの有に100倍は超える。
中にいるモンスターも一体一体がダンジョンボス並みの強さを誇っていると専らの噂だ。
そんな九大ダンジョンだが、その存在はここ地球上において、最も重要な役割を担っている。
各国の財源。それが九大ダンジョンが背負わされている役目。
もちろん、租税や印紙収入、国債の発行なども財源には入っているが、その多くを九大ダンジョンの能力に依存しているのが現状だ。
そんな九大ダンジョンを攻略することが門を開く条件。それはつまり。
『はい。国の崩壊です』
「そう、だよね」
基本、ダンジョンというのは、ダンジョンボスを倒すことによって攻略完了となり、その証拠にダンジョンが消滅する。しかし、そんな事を続けていれば、いつかはダンジョンが完全になくなることは必至。にもかかわらず、地球がダンジョンに依存し続けられるのも、九大ダンジョンのお陰なのだ。
普段、我々冒険者が攻略しているダンジョンは一般ダンジョンと呼ばれるもの。長い研究の末、どのダンジョンも例外なくどれかの九大ダンジョンと繋がっていると分かった。つまり九大ダンジョンは、自分に繋がっているダンジョンが消滅すると、その穴を埋めるように新たなダンジョンを創造することが分かったのだ。これが、ダンジョンに依存し続けられる理由。
しかし当然、その九大ダンジョンが攻略されれば、繋がっている一般ダンジョンまで消滅するのは明白。つまりは国の財源が無くなり、瞬く間に崩壊の一途を辿るのだ。そのため、各国は九大ダンジョンの攻略を固く禁止していた。
『ご主人様、ここからは相談です。ご主人様はこれから、どうしたいですか?』
「そう、だね」
そこで言葉が止まる。到底今すぐに決められる内容ではなかったからだ。
もし僕が九大ダンジョンを攻略する道を選んだ場合、各国は間違いなく崩壊し、さらに原初のダンジョン攻略さえも進めることになる。最悪の場合、地球が滅亡するだろう。
しかし、九大ダンジョンを攻略しなければ、僕は強くなれない。成長して戻ってくるという主との約束を果たすことが出来ない。
どちらを選んでも幸せが訪れない選択肢に頭を悩ませる。
僕は一体、どうしたら。
『ご主人様。ご主人様の、やりたい事は何ですか?』
「僕の、やりたい事?」
『そうです。やるべき事、取るべき選択ではなく、やりたい事です』
「僕は……強く、なりたい。強くなって、成長して、それで、主にもう一度会いたい」
『それが、ご主人様の本当にやりたい事なのですね』
「うん」
数秒後、シエラは優しく、しかしどこか楽しそうな口調で告げる。
『でしたら、九大ダンジョンを攻略しましょう』
「……え? でも」
『はい。勿論攻略された九大ダンジョンの国は崩壊します。ですが、まだ攻略した訳ではありません。それに、私からしたら国の崩壊など、どうでも良い事なのです。私は常にご主人様最優先。ご主人様のしたい事をサポートしたいのです。さらに付け加えるなら、原初のダンジョン主にも、何か解決策があるのではないでしょうか。彼がダンジョンを破壊してほしいと言ったのは、ご主人様から世界情勢を聞いた後。ご主人様に地球と自分の命運を預けた人が、何の策も無しにご主人様を苦しめるとは、到底考えられません。それに、ご主人様の人生はこの一度きり。それなら、やりたい事をやって、死ぬ時に、楽しかったと言える人生の方が幸せだと思いませんか?』
少し危ない発言もあったシエラの言葉は、それでも僕を心の底から想っての言葉だった。
そんな相棒の気持ちを無下に出来る程、僕も大人ではない。それに、まだ起こってもいない事をあれこれ考えたところで、現状が、現実が変わるわけではない。それならシエラの言う通り、やりたい事をやっても良いだろう。
「そうだね、シエラ。じゃあ、九大ダンジョンを攻略しよう!」
『ご主人様のお望みのままに』
『クロもお手伝いするよ!』
心強い仲間と共に、これからの人生を決断する。
この先、辛い事、苦しい事、悩む事もまだまだあるだろう。でも、この二人と一緒なら何も怖くない。全て大丈夫だと思える。そんな、根拠のない自信に溢れていた。
「そう言えばシエラ。最後に確認なんだけど、本当にあの門を開くには、九大ダンジョンを攻略するしか方法はないの?」
『はい。まず間違いないでしょう。あの門には、円形に九つの、そして中心に一つの窪みがありました。恐らく中心の窪みはケルベロスから、九つの窪みは、九大ダンジョンのボス達から貰う何かをはめることによって開くのだと思われます。主の話と地球の現状を鑑みても、そうとしか考えられません』
「ありがとう。それが聞けて安心したよ」
『いえ、お役に立てたのなら、何よりです』
どこか嬉しそうなシエラの声が、頭の中に響いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます