第3話 VSケルベロス①

「異臭(対魔犬)!」


 魔犬だけに効く異臭を部屋全体にまき散らす。

 人間には無害無臭のその異臭は、今にも走り出そうとしていたケルベロスを見事足止めしていた。


 しかし、奴も決して馬鹿ではない。

 始めの内は頭を振り、嫌がる素振りを見せていたが、異臭が漂い続けている限り継続ダメージを負うことを理解したのか、三つある口を大きく広げ、毒を食らわば皿までと言わんばかりに吸い込み始めた。


 一瞬にして異臭を消し去ったケルベロスは、ほんの少し痛みに顔を歪ませると、その鋭い眼光を再び僕へと向ける。その瞳には、今まで感じたこともない殺気と威圧感が宿っていた。


「くそ、異臭が対策された。これじゃあ、ケルベロスに継続ダメージを与えられない」

『焦らないでください、ご主人様。異臭がケルベロスの体内にある限り、継続ダメージは入ります。それより今は、次のスキルの準備を』


 その言葉に従ったのと同時、ケルベロスの右頭が口を開く。

 全てを喰らわんとするその口には、マグマを煮詰めたかのような獄炎。

 その光景は、属性魔法攻撃が使用されることを物語っていた。


(使うなら今!)


 タイミングが命の属性吸収(ストック)を準備する。

 早すぎても遅すぎても意味がない。自分が攻撃を喰らわないギリギリのラインで発動を要求されるそのスキルに全神経を研ぎ澄ませる。

 だから気付けた。気付いてしまった。自分の腕が切り飛ばされていることに。


「ああああーー‼」


 傷口を抑えながら倒れ込む。その痛みは想像を絶するものだった。

 踏み潰されて死ぬのとは訳が違う。継続的に痛みが続き、体力や精神力、あらゆるものが削られていく。

 痛みも感じられない程一瞬で死ねるのは逆に幸せなことだったのだと思い知らされる。


 そんな僕を嘲笑うかのように、ケルベロスはその口から獄炎を吐き出す。

 恐らく僕の腕を切ったのは、この攻撃を確実に当てるためだったのだろう。勿論、異臭(対魔犬)の仕返しも兼ねているだろうが。

 しかし、見誤ったな。僕は一人じゃない。


「シエラ!」

『「超再生」「超回復」「属性吸収(ストック)」』


 凄まじい速度で腕が生えていく。完全に再生されるまで一秒もかからなかった。

 それと同時に、目の前で獄炎が属性吸収に吸い込まれていく。その様はまるで、光を吸い込むブラックホールのようだった。

 やがて、超回復の効果で削られていた精神力も回復すると、僕の掌には小粒ほどまで小さくなった獄炎が浮かんでいた。


「ありがとう、シエラ。助かったよ」

『いえ、問題ありません』


 シエラのお陰で火属性はストック出来た。後は二属性。

 とは言え、ケルベロスも先ほどの攻撃で属性魔法が吸収されることを学んだはずだ。このまま大人しく、残りの属性魔法を使ってくる可能性は低いだろう。


「どうすれば」

『ご主人様、私に考えがあります』


 そう言ったシエラからは、確固たる自信が溢れていた。

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