第4話 VSケルベロス②

「シエラ、考えって?」

『先ほどストックした属性魔法を使って、ケルベロスが残りの属性魔法を使うしかない状況にしましょう』


 確かに、現状においてはそれが最適解だろう。

 攻撃手段をパリィカウンターⅡしか持っていない僕にとって、残された選択肢はストックした属性魔法のみだ。


 しかし、いくら属性魔法を使ったところで、ケルベロスは既に学んでしまっている。ダメージを負う可能性があったとしても、属性魔法を使う何てミスを犯すとは思えない。


「でもシエラ、奴は既に属性魔法が吸収されることを知っているんだよ。それなのにどうやって残りの二属性を使わせるの?」

『当然の疑問ですね。しかし、ケルベロスとてご主人様と同様、生物であることに変わりありません。それならば、己の身に危機が迫った時、それに対処しようとするはずです。その危機が自分の頭を吹き飛ばすほどの獄炎なら尚更でしょう』

「でも、ここで獄炎を使ったら、奴の頭は必ず一つ残っちゃうよ」

『その通りです。ですから、使う振りだけすれば良いのです』


 つまりは、はったり。強者には効かない、しかし強者と同じ力を持った今だからこそ出来る技。

 それが奴に通用するかは分からないが、他に良い案も浮かばない。どうやらそれしか方法はないようだ。


「分かった。シエラの作戦で行こう」

『ありがとうございます。では早速ですが、走ってください!』


 その掛け声に弾かれるように走り出す。

 一瞬の後、僕がいた場所には鋭い斬撃の跡が刻まれていた。シエラがいなかったら、危うく真っ二つになっていたことだろう。


 しかし、ケルベロスの攻撃が一度で終わるはずもなく、二回、三回、四回と部屋の壁には同じ傷が生成される。

 その度に、皮膚や髪が切り飛ばされていった。


「くそ、このままじゃ埒が明かない。獄炎も打てないし」

『ご主人様、次の斬撃をスライディングで避けてください。それと同時に獄炎を放ちましょう』

「分かった。タイミングはシエラに任せる」


 そう言うと僕は、前にあった重心を徐々に後ろへと移していく。後は右足を前へ滑らせれば、スライディングが出来る体勢だ。


『今です!』


 その声と同時、右足を前へ滑らせ体勢を地面と平行に持っていく。タイミングは完璧。ケルベロスの斬撃は僕の身体を捉えることなく、壁へと食い込んでいった。

 ケルベロスは無防備な体勢の僕を追撃しようと斬撃の位置を調整する。しかし、その隙を狙って獄炎を元の大きさに戻すと。


「行っけーーー!」


 そんな掛け声と共にケルベロスの頭目がけて打ち出した。

 この作戦が失敗する時は、僕の身体が割れる時。

 そんな現実と共に訪れる未来を待っていると。


「痛みが……ない」

『はい、ご主人様。ケルベロスの頭を見てください』


 そうして見たケルベロスは、中央の頭が口を開き、その奥に津波のような水流を携えていた。

 その事実と光景が示したことは、たった一つ。作戦の成功。


『ご主人様、スキルの準備を』


 シエラに促され、水流が吐き出されるのと同時に獄炎を掌に戻す。そして、水流が当たる直前にスキルを発動させた。


「属性吸収(ストック)」


 目の前で水流が呑み込まれていく。やがて、スキルがその全てを吸収し終えると、掌には獄炎同様、小粒程の水流が浮かんでいた。


「よし。残すは後一属性」


 しかし、二属性をストックした今、もう受け身でいる必要はない。

 ケルベロス、ここからは反撃の時間だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る