素人小説家の休日の朝の話
桜田ヒナト
素人小説家の休日の朝の話
午前九時。
「はぁぁぁぁ……」
肺の底から目一杯のため息が出た。
全く何も思いつかないのだ。執筆のネタが。パソコンの真正面に座り、真っ白い画面に向き合い続けて早三十分、何を書いていいのか清々しいくらいに思い浮かばない。目の前のパソコンの画面は、当然ながら何も提案してくれない。
(気分転換しよう)
と、席を離れる。気分転換と称して離席するのは、今日はこれで八回目である。基本的に月曜日から金曜日まで八時間労働で、今日は待ちに待った休日の土曜日だ。だから、朝から張り切って何か執筆してみようと意気込んでいたのにこの有様だった。まぁ執筆といっても、誰かに依頼されたわけではなく、ただの自己満足でしかない。しかもあわよくば、その小説をどこか投稿サイトに上げて評価されたら……、と妄想すると頭の中でニヤニヤが止まらない。
席を離れて自宅を出ると、土曜日の朝の九時は人気がまばらだ。平日の朝の九時は既に会社内で働きだしているから、この時間の外の様子はなんだか新鮮に見える。景色を横目にひとまず、近所のコンビニへ足を運んだ。
歩いて五分程の位置に、誰もが知っている大手のコンビニはある。店内に入ると人の数は四、五人程度、この時間帯では多い方なのか少ない方なのかいまいち分からない。買う物はまだ決めてないので、食品の棚を見回った。朝食は既に終えたというのに、パンやスイーツ、おにぎり、チルド食品、菓子類などを見ていたら無性に腹が減ってくる。悩んだ結果、桜風味のプリンとスナック菓子、パウチタイプの惣菜を購入した。
コンビニを後にして、自宅までは少し遠回りすることにした。もうちょっと、外の空気を吸いながら景色を眺めてみたい。天気予報によると、今日は快晴らしい。なるほど、見上げてみたらすっかりとした青い空だ。だが、快晴だと花粉が大量に飛散するんだとか……。
(桜はまだか……)
桜の開花予想はまだ先らしい。木に目を向けたが、確かにまだ咲く気配はない人。桜は一年に数日間は見られるものだから、去年の桜がまた恋しくなる。楽しみは、あと少し先だ。
自宅に戻り、なんの気なしにテレビをつけると今の自分にはタイムリーなことに、桜スイーツの特集をしている。
ついつい、見入ってしまう。季節もののスイーツは定番とはまた違って、その時季特有の見た目や味を楽しめる。食べた経験はあるが、桜スイーツは爽やかで柔らかい見た目に、それを裏切らないふんわりした食感と甘さが春の到来を迎えているようだった。番組を見ているうちに、また桜スイーツを食べたくなる。
(また買いに行こう)
今朝は桜風味のプリンを買った。次は何を買おうか。
夏が来るまでにたくさん食べよう。長い冬を越えて、暖かい春はもう目の前だ。
素人小説家の休日の朝の話 桜田ヒナト @takaranaoshi
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